第55話:「もち、突然の休止宣言!?(撮影おやすみにゃ)」
【もち視点】
吾輩は、ぐるぐる毛布にくるまれながら思ったのである。
——にゃんだか、最近……カメラが多すぎやしにゃいか?
この数日、見慣れたスマホだけでなく、ちょっとゴツい黒いカメラやら、三脚やら、ライトやら……それに、知らにゃい人間が部屋に出入りすることも増えた。
いつものみのり殿のふんわりした声ではなく、ピリピリした大人の話し声が飛び交う中、吾輩はちゅ~るを舐めていても、なんだか落ち着かにゃい。
それに、みのり殿の手……最近ちょっと冷たい。
にゃんというか、力が入りすぎているのだ。
この間も、動画撮影中に吾輩がくるりとひと回転しただけで、
「もち、今の最高! もう一回やって!!」
と、目をキラキラさせて言ってきた。
吾輩は二度目を回ろうとしたが、しっぽが思わずもつれて転んでしまったのである。
すると、みのり殿の口角が、ほんの少しだけ……下がった気がしたのだ。
あれは幻にゃのか?
それとも……吾輩のにゃん力が、足りにゃいのか。
「もち、今日はもう寝よう。編集も後回しでいいや……」
夜、みのり殿が珍しく早く布団に入った。
その顔は、笑っているのに……目が疲れていた。
吾輩はそっと胸元に乗り、ゴロゴロを最大出力で鳴らした。
何も言わずに、ただ、寄り添った。
だって吾輩は知っている。
動画投稿を始めた頃のみのり殿は、もっと、もっと楽しそうだったのだにゃ。
【みのり視点】
最近、ふとスマホを見ない時間が怖くなっている。
再生回数、コメント、企業からの問い合わせ。
嬉しい。確かに、すごく嬉しい。
だけど、あの頃の気持ちはどこに行ったんだろう。
もちとただじゃれ合って、かわいい寝顔に癒されて、ふとアップした写真がバズって——
「あ、動画にしてみようかな」って軽い気持ちで始めたはずだった。
それが今では、台本のような撮影スケジュールに、再生数を意識した編集、PR案件。
日々の生活費を支えてくれてるのは、もちのおかげ。でも……
「私……いつから、もちの“マネージャー”になったんだろう」
この前、合同コラボに参加してから、もっと注目されるようになって、テレビに出たこともあって、再生数は右肩上がり。
だけど、何かが……少しずつすり減っている。
もちの寝顔を見ていると、胸が痛くなった。
今日、撮影中にうまく動けなかったもちに、私……無意識に眉をひそめてた。
あの子は、何も悪くないのに。
——もう、少し、休まなきゃ。
私はSNSの投稿画面を開き、ため息を一つついてから、こう書いた。
「【ご報告】もちチャンネル、少しだけおやすみします。撮影も編集もストップ。しばらくは、もちとの時間を大切にします」
投稿ボタンを押すと、少しだけ、肩の力が抜けた気がした。
「ごめんね、もち。ありがとう」
そう呟いて、もちの背中にそっと手を伸ばすと、小さな肉球が私の指をきゅっと握り返してくれた。
まるで「うむ、それで良い」とでも言うように。
【もち視点】
吾輩の動画が、おやすみにゃ。
それは一見、にゃんとも不名誉なことかもしれぬ。が、吾輩は誇り高き猫。
「本物のにゃんドル」は、主を大事にしてこそ輝くのだ。
——だから、しばしの休息は悪くにゃい。
にゃんでも、みのり殿の笑顔が戻ってくるなら、吾輩はちゅ~るの一本や二本、我慢できるのである。
(ただし、あくまで“一時的”である。永久ではにゃい)
今宵も、みのり殿は早めに布団に潜り込み、吾輩のために空けてくれた腕の中で、深い眠りについた。
その寝息は、どこか懐かしい、穏やかなリズムを奏でている。
吾輩は、胸を張ってこう宣言しよう。
「撮影おやすみにゃ! でも吾輩たちは、ずっと“家族”にゃ!」
——さあ、明日はちょっと寝坊しても許されるであろう。
にゃふふ……これぞ、にゃんたる特権。
次回、第56話:「もち、静けさの中で気づくもの(ご主人のぬくもり)」へ続きます。




