第16話:カリカリvsちゅ〜る!グルメ戦争勃発
朝である。
陽は差し込み、鳥は鳴き、ご主人様はいつものように寝癖のままキッチンでカチャカチャ音を立てておる。吾輩もちんまりと座り、皿の前に控えている。
「今日はこれだよ~もち、おいしそうなまぐろ味カリカリ♪」
皿に入れられた、例のそれ。
茶色の粒粒。カリッとした食感。口に入れた瞬間の――空気感。そう、ご主人様かしたら、ただの餌”である。
吾輩は鼻をひくつかせ、ひとつまみ舐める。
ぽりっ。もぐもぐ……ふむ。可もなく不可もなく。味の深み? 香りの余韻? ない。これは、吾輩が愛するちゅ~るとはまるで別次元の代物である。
「にゃっ(これじゃない)」
吾輩はくるりと背を向けた。
ご主人の足元にすり寄る。さりげなく、冷蔵庫のちゅ~るが保管されている棚の前でごろん。
「……あー、もっち、それは無理だよー?今日はカリカリメインの日なの」
「にゃあああぁん!(暴君めっ!)」
ご主人は最近、妙な本を読んでいる。「猫の健康管理」やら「ペットの食育」やら。つまり、吾輩のちゅ~る摂取量を制限しようとしておるのだ。
ふざけるな!
これはただの猫と人間の戦いではない。尊厳を懸けた食の革命である!
吾輩は速やかに作戦を練った。
まずは視線攻撃。これが基本。ご主人が座るソファに飛び乗り、その膝の上で香箱座りをしながら見上げる。
じーーーーーー。
目を逸らさない。
潤んだ瞳で見つめる。耳をちょっと伏せる。小首をかしげる。
「え、えっ、なに……そんな顔しても……ダメだって……」
効果アリ。口がやや緩んだ。が、まだ崩れぬ。
第二波。吾輩は棚に向かってジャンプ!
「にゃっ!(ちゅ~るあそこにあるの、知ってるぞ!!)」
だが……届かん!
「ちょ、もっち危ないってば!そこ開けないの!」
「にゃああ!(開けろぉぉお!!)」
仕方がない、最終手段だ。
吾輩はカリカリ皿の前に戻り、その周囲をグルグル歩きまわる。クンクンと匂いを嗅いでは「ふん」と鼻を鳴らす。
さも「これは食えるものではない」と言いたげに。
さらに皿をちょいちょいと前脚で叩く。
カリカリが跳ねる。
そして――
「ごろん」
お腹を見せて、ころりと転がる。
「もぉぉおっち……そのポーズずるいよぉお!」
「にゃふん(勝ったな)」
ついに、ご主人が動いた。
「……じゃあ、少しだけだよ!? 特別だからね!」
冷蔵庫が開き、封印された聖なるアイテム――ちゅ~るが登場!
シュッ、と開封される音。それだけで吾輩の全神経が活性化する。瞳孔が開き、尻尾がぴんと立つ。
「ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ……っ!!」
う、うまい……!!
これぞ真のグルメ。舌の上でとろけるうまみ。
塩気、脂の旨味、そしてあの絶妙なねっとり感。
たかが餌。
されど御馳走なのだにゃ~。
「ぬふぅ……神……」
食べ終えたあと、吾輩はご主人の膝の上に座った。
「満足した?」と問われたので、しっぽでポンと返した。
ふと、吾輩は思う。
「確かに、カリカリにも良さはある。噛むと歯が鍛えられるし、腹持ちもよい。だが……」
だがしかし。心を満たすのは、やはりちゅ~る。
今日の戦果:ちゅ~る一本、膝乗り二時間、なでなで無限。
明日もまた、戦いは続く。
吾輩とご主人様との間には、静かなる“グルメ戦争”が始まっておる。
次回、第17話:もち、家の防衛に目覚める(虫との戦い) に続く。




