最終話:「もち、永遠に“家族”であること」
新緑が深まる木々がある小道を、小さな足音がトコトコと歩いてゆく。
私の足元には、最近家にやってきた保護猫の“こむぎ”が、興味津々にしっぽをぴんと立てていた。
こむぎはまだ人見知りだけど、最近は私のあとをついて回るようになった。
ごはんの時間になると、もちみたいにじっと目を見て催促してくるところも、どこか懐かしい。
今日、私はもちと最後のお別れをした場所――あの小さな動物霊園へと足を運んでいた。
静かな陽射しの下、白いお花を添えながら、私は心の中で語りかけた。
「もち、あれからまた、新しい子と暮らしてるよ」
風が吹く。
ふわりと、まるであの柔らかな毛並みを撫でていた頃の感触が、頬に触れた気がした。
もちがいなくなっても、私の日々は続いている。
動画チャンネルは、今もたくさんの人が見てくれていて、コメントにはもちの名前が今でもたくさん並ぶ。
“もちが大好きでした”
“うちの子にも、もちみたいに幸せな一生を送らせてあげたい”
――もちの存在は、もう私ひとりだけのものじゃなくなっていた。
こむぎが私の足元で小さく鳴いた。
その小さな声が、胸の奥にぽっと灯りをともすようだった。
私はしゃがみ込んで、こむぎをそっと抱き上げる。
少し重くなった体は、確かに“今”を生きている証。
それを、私はぎゅっと、胸に抱いた。
「こむぎ、あなたにもちゃんと伝えるね。あなたの前にもね、もちっていう、特別な家族がいたんだよ」
その名前を口にしたとき、思わず声が震えた。
もち。
あなたはたしかに、この世界にいてくれた。
寒い冬の日、ボロボロだった小さな命が、私にしがみついてきた。
あの時から、私の人生は変わった。
夢を追いかける勇気をくれた。
愛すること、向き合うこと、守ることを教えてくれた。
そして――失う痛みを通して、命の尊さを、深く深く、私の胸に刻んでくれた。
私は今、あの頃より少しだけ強くなれたと思う。
もち、あなたがいたから。
こむぎを抱いたまま、私はそっと空を見上げた。
桜の花びらが、ひとひら、空から降りてきて、こむぎの背にふわりと舞い降りる。
それを見つめながら、私は心の中で、そっと言葉を紡いだ。
「もち。あなたはもう、空の上かもしれないけど――でもね、ずっとずっと、私の家族だよ」
胸の奥で、あたたかな何かが、静かにじんわりと広がっていく。
夜、家に帰ると、私はもちのアルバムを開いた。
最後のページには、今日の日付と、たったひとことだけ書き添えた。
「あなたに出会えて、本当によかった」
灯りを消して、静かな部屋の中。
耳を澄ますと、ふと――カサ、と音がしたような気がして、振り返った。
けれどそこには、誰もいない。
でも、私はわかってる。
そこに――きっと、もちがいることを。
今も、これからも。
もち。あなたは、永遠に“家族”です。
ありがとう。大好きだよ。
そして、また、いつか――
(完)
ここまで読んでくださったすべての読者の皆様へ、
心からの感謝を込めて――
まずは、本作『吾輩は捨て子猫である。~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~』を最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
この物語は、作者である私が、実際に保護猫を家族に迎え入れた体験と、日々感じる“猫という存在の不思議な温かさ”をぎゅっと詰め込んで描いた作品です。
――猫って、時に理不尽で、気まぐれで、どこまでもマイペースなのに、
ひとつ瞬きを交わすだけで、心がすとんと落ち着くことがあります。
そんな“猫との暮らしの魔法”を、少しでも読者の皆さんと共有できたらと願って書き続けた100話でした。
もちというキャラクターは、どこかで皆さんが出会ったことのある猫、もしくは今そばにいてくれるあの子、あるいは心の中にいる忘れられない存在を投影していただけたのではないかと思います。
そして、みのりの人生もまた、「小さな出会い」が人を変え、「一緒に生きる」という日々が誰かの支えになっていく、そんな優しさを描けていたら嬉しいです。
特に最終章からの数話は、書きながらも何度も手が止まりました。
老猫との日々、そしてその先にあるお別れ。
それは避けられないけれど、決して悲しみだけで終わらない――
そんな“猫から人への恩返し”を描けたことが、私にとっても特別な経験になりました。
外伝では、天国でのんびり遊ぶもちの姿を、
「きっとあの子も、こんな風に見守ってくれてるよね」
と、読者の皆さんと一緒に想像したかったのです。
※ 最後にひとことだけ
もしこの作品を読んで、
・笑った
・泣いた
・猫をなでたくなった
・ちゅ〜る買って帰った
・我が家の猫の顔がチラついた
そんな瞬間がひとつでもあったなら、もう、それだけで私は書いてよかったと思えます。
作品が完結しても、ブックマークや評価、感想をいただけるとものすごく励みになります!
特に「読了しました!」の一言だけでも、作者は天井突き抜けて喜びます(※猫も一緒にジャンプします)。
ここまで長い連載にお付き合いいただき、
本当に、本当にありがとうございました!
また別の物語や、もしかすると“もちの弟分”が登場する作品で、皆さんと再会できたら嬉しいです。
それでは――もちとみのりに代わって、心からのありがとうを。
ご主人様と猫たちの暮らしが、これからもあたたかく続いていきますように。
作者より、愛とモフモフをこめて。