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156 パートナー試験当日

「シャリー、行くぞ」

「ええ、――あ、ちょっと待って」


 試験当日、棟の前で待ち合わせしていると、予定時間を少し過ぎて走ってきたシャリーが、ごそごそとポケットから何かを取り出した。

 それは、特殊な糸で創られた布の腕輪だ。


「魔法具か? 申請していないものは禁止されてるぞ」

「ただのおまじない。今日、一位を獲る為に作ったの」

「……お前、そんな暇があるなら訓練をもっと――」

「はいはーい、失礼しまーす」


 俺の言葉を遮りながら、シャリーは手馴れた手つきでするすると装着する。

 こういった強引なところは、今にもこいつらしい。

 

 ったく。


「大丈夫。今日、私は絶対に勝つ。――だって、あなたを負けさせるわけにはいかないしね」

「はっ、わかってんじゃねえか」


 俺たちは強くなった。

 新しい能力も手に入れたし、連携技も死ぬほど練習した。


 だがそれは俺たちだけじゃない。


 原作ではなかった組み合わせもある。


 ――はっ、楽しみだ。


   ◇


 試験会場は、ノブレスが所有している古い森で、既に使われていない集落がある場所だった。

 崖や洞穴、隠れるところが多い。

 原作では時間(シーン)が飛ぶのでわからないが、まさかまた船で移動だとは思わなかった。


 そこに集められた俺たちは、それぞれパートナーと共に待機していた。


 アレンとシンティアも、以前より仲良くなっているみたいだ。


 嫉妬がないと言えば嘘になるが、それよりも原作と同じだなと面白かった。


「何で笑ってるの? もしかしてそういう趣味?」

「黙ってろシャリー」

「はいはーい」


 まったく、調子が狂う。

 

 今回の試験もランダムだ。

 単純なバトル・ロイヤルのほうが俺はありがたい。


 そしていつも通り、クロエが前に出る。


 その手には、箱を持っていた。


「それでは試験を開始します。それぞれパートナーの代表者はこちらに。中に名札が入っていますので、自分たちだけで確認してください。決して、誰にも見せないように」


 それは、俺も知らないルールだった。

 だがノブレスではめずらしいことじゃない。なぜなら試験は、各教員が作っているからだ。

 ミルク先生やココが教員になったことで、色々変わったのだろう。


 代表として俺は札を取り、シャリーに近づいて、見せる。

 そこには、「アレン、シンティア」と書かれていた。


 全員に行き渡った後、説明がはじまる。


「先ほど引いた名札は、各自が狙うターゲットです。胸元を見てください」


 クロエの言葉に驚きつつ、その場にいる全員が胸元を見る。

 いつもの訓練服だが、そこに、自身の名前が現れた。


「標的を倒すと、自身の名前の下に、標的の名前が記載されます。例えば、私の標的がミルク先生で、倒すことができれば、自身の名札の下に名前が追加されます。標的の点数は3点。タッグ戦ですので、もう片方を倒すと6点です。試験では、合計12点を集めることになります」

「それだと6点じゃないんですか?」

「はい。自身の名札も3点の計算ですので、タッグと合わせて12点。それ以外は1点ずつになります」


 なるほど。つまり俺たちがアレンとシンティアを倒せば点数はクリアするのか。

 もしくは、関係のない奴らを1点ずつ、つまり3組倒せば12点となる。


 だがそれだとおかしいな。この試験は三日あると聞いていたが。


「また合計12点は最終日まで保持しておかないといけません。さらに今回は倒されても一度だけ復帰ができます。しかし、持ち点は全て移動しますので、0点で復帰。同じ標的を狙うか、標的でない人を狙う場合、最低12人を倒すことができれば試験はクリアです。とはいえタッグ戦ですので、あくまでも二人の合計点数で換算されます」


 その時、一人の生徒が手を挙げる。


「たとえばその人がいっぱい点数を持っていて、それを倒した場合は?」

「全て倒した人に入ります。そして、今回も魔法鳥でアナウンスがありますので、誰が一番点数を持っているのかがよくわかるでしょう」


 つまり俺たちがアレンとシンティアを倒した場合、それは全員に伝わる。

 勝てば勝つほど狙われやすくなるということだ。


 更に一度復帰してくるのは相当厄介だな。


「これって標的はお互いに違う場合もあるんですか?」

「もちろんです」



「ヴァイス……今回の試験、かなり厄介だね」

「ああ」


 アレンとシンティアの標的が俺たちじゃない場合もある。いや、むしろその可能性が高いだろう。

 つまりこの中の誰かに狙われる立場にあるということだ。


 狙うものと狙われるもの、それを同時にこなさなきゃいけない。


 更に勝てば勝つほど点数は増え、標的でなくても狙われることになる。


 この試験は、標的が弱いほどよかった。


 だがまさかアレンとシンティアになるとはな。


「試験クリアは12点ですが、それ以上の点数で終えた場合、更に加点ポイントが付きます。ただし重要ですが、いくらポイントを保持していても、魔力漏出により最終的に二人とも脱落すれば、残り時間が一秒前であっても、0点扱いとなります。その場合、ポイントは激減します」

「一度倒されて0点になって更に倒されたらどうなるんですか?」

「マイナスとなり、退学となります。ただし胸元の名札は消えていますから、戦闘の意思がないことを相手に示すことも可能でしょう。それでも更に倒すこともできますが、相手次第です」


 その言葉に、更にざわついた。

 一度やられてしまえば後がなくなる。

 だがそこで0点のまま終えればポイントは激減。

 リスクを取って確保しにいくかどうか。


 はっ、おもしろい。


 今までで一番過酷で、そして楽しい試験だ。


「シャリー、わかってるな? 標的があいつらでも――」

「加減はしない。私も、ノブレスの学生よ」

「ならいいだろう」


 アレン、シンティアを必ず倒す。そしてもちろん、向かってくるやつもだ。


「そして一番大事なことですが、今回、あなたたちに武器を用意させなかったのは理由があります」


 そう、今回は武器の持ち込みができないと言われていた。

 俺の魔法具はもちろん、リリスもナイフを持ってきていない。


「この島の中に魔法具、食料、水、寝具、武器を隠してあります。魔法は使用可能です。持ち込み用の武器防具は一切禁止です」


 この言葉で、更にざわめいた。

 ノブレスでは使い慣れた武器こそが一番強いとされている。


 魔力を込めるにもそれぞれ相性があるし、だからこそ愛刀や杖を持っている。


 こうなると、色々話は変わって来るだろう。


 カルタも杖を持ってきていない。

 

 だがシンティアの氷剣は魔法だ。アレンも模倣が使える。

 奴らだけ無条件で武器を持っているようなものだ。


 ったく、つくづく困難なことをさせるな、ノブレスは。


 しかし悪いことばかりではないだろう。


 隠してある、ということは探索が必要だ。

 そこで、シャリーの罠は必ず役に立つ。


 今回も、俺が一位をとってやる。


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