157 予想外
転移された後はいつも通りだった。
前回よりも期間は短く三日間だが、流石に飲まず食わずとはいかない。
今回はタッグ戦。お互いの意思疎通が大事だ。
魔の森と同じようにここにも魔物が大勢いる。
ゆっくり眠ることができるかもわからない。
「シャリー、何してるんだ?」
彼女は、地図を見ていた。
簡易的なものだが、今回は今までで一番広大だ。
そういえば前回、彼女は最後のエリアを見極めていた。
原作でもランダムのはずだが。
「これ、内緒よ?」
「なんだ?」
「みて」
すると、シャリーはちょいちょいと手をこまねく。
飛ばされた場所は森で、特に魔物や人間の気配はない。
同じようにのぞき込むと、シャリーは魔法でテンテンと矢印を付与した。
「私たちが飛ばされたのはこの北あたりだと思うんだよね。で、飛ばされた順番は真ん中ぐらい」
「ああ、それがどうした?」
「きっとクロエ先生は、いきなり魔物とはあたらない場所に飛ばしてる。そう考えると、南から順当に飛ばしていって、私たちはここへ来ていると思うの」
「……なるほど」
「で、おそらくみんながこの集落へ向かう。きっとそこにはクロエ先生が言っていた何かがあるかも。だけど逆にそこを――狩ろう」
俺は驚いていた。デュークやアレンと一緒にいるから勘違いしていたのかもしれない。
戦闘だけではなく、他人の感情やクロエの意図まで考えているとは。
なるほど、前回のエリアを予測したのも偶然ではないのか。
流石、罠を張るだけあるな。
「ヴァイス?」
「ああ悪いな。よし、その案でいこう」
「……いいの? 成績はいつもあなたのほうが上――」
「有能な提案に上も下もない。いい作戦には素直に従う。急ぐぞ」
「――ふふふ、やっぱりヴァイスは変わってるわ」
「? 何がだ?」
「何でもない。急ごう」
◇
集落の中、ボロボロに崩れた家屋の中に、二人の中級生が先に入っていた。
部屋を探索しながら、周りを警戒している。
「――どうだ?」
「問題なさそうだ。けど、油断するなよ」
二人は家をゆっくりと探索した後、木籠の中でとあるものをみつけて、興奮気味に声をあげた。
「おお、これ、食料じゃ――」
「待て、罠だ!」
そのとき、シャリーが魔法を放つ。
まずはシンプルな魔法糸だ。全てが絡みつく。
そして俺は飛び出した。
そのまま攻撃を仕掛ける。
だが武器がまだなく、手ごろな木の棒を持っていた。
「クソ。ヴァイスとシャリーだ!」
「任せろ――」
男子生徒が魔力を漲らせ、俺に向かって放つ。
咄嗟に木の棒を盾にしたが、そのまま砕け散る。
――ったく、もろすぎるだろ。
「く、クソ!」
「ま、たまには近接も悪くねえか」
そのまま俺は身動きが取れない相手に蹴りをいれ、顎に掌底を叩きこんだ。
とどめを刺そうとかかと落しを決めようとするも、その隣の男が魔法を解除した。
ほう、優秀なやつだな。
そしてそのまま地面に魔法を放ち、砂埃をまき散らした。
そのまま姿が消えていくも、目の前の足を掴んだ。
「――逃がさねえよ」
『エリポル・トデル魔力漏出により一回目の脱落。ヴァイス・ファンセントにネームプレートが移動』
だがしかし、もう一人には逃げられてしまった。
シャリーも魔力砲を放ったが、周囲にバレないように少し弱めていた。
深追いは危険だろう。
だがひとまずこれで1点確保だ。
「逃げられちゃった」
「仕方ない。俺たちよりあいつらのが先に来ていたからな。食料を奪えただけいいだろう。それより、思っていたよりこの試験、難易度が高いな」
「ええ、驚いたわ」
鋭利な刃物に魔力を漲らせると、相応の力を得ることができる。
今のも俺の力が強すぎたせいで木が弱くなり、簡単に壊れてしまった。
魔法剣なら間違いなく一撃で倒していただろうが、そうもいかない。
だが相当実戦向きだろう。
毎回同じ武器を使えるとは限らない。
はっ、相変わらずおもしろいな。ノブレスは。
この試験を乗り越えれば、俺はもっと強くなれるだろう。
――絶対に勝つ。
っと、その前に。
「シャリー、食料ってなんだ?」
頼む、メロメロン、メロメロンさえあれば三日三晩戦える。
しかしシャリーが見せてきたのは――小さな袋だった。
「なんだそれは」
「イチゴジャム。これがあれば何でも美味しく食べられるね」
「……パンを探さなきゃな」
アレンとシンティアを狙うつもりだったが、一番ヤバイ奴らは、きっとあのペアかもな。
◇
西の先端、森の中で、デュークが鼻をヒクヒクさせていた。
「お、リリス! これ、パンだぜ! しかもホクホクだ」
「本当ですね! わ、あたたかい!」
ちぎっては口に入れながら笑顔でもぐもぐ。
リリスは、デュークを微笑ましく眺めていた。
「デュークさん。――絶対に勝ちましょうね」
「ああ、今回こそは……必ずな」
そのとき、木影から二人を見ていたペアがいた。
様子を伺いながら、手に魔法剣を出現させようとしている。
「シンティアさん、行こう」
「ええ、アレンさん。手加減はしませんわ」
それから数十分後――。
『アレン。シンティア・ビオレッタ魔力漏出により一回目の脱落。デューク・ビリリアン。リリス・スカーレットにネームプレートが移動』
そのアナウンスを聞いたヴァイスとシャリーが、驚きながら顔を見合わせた。
「ヴァイス」
「ああ、一番厄介な奴らに渡ったな」
試合が始まる前、俺とシャリーはそれぞれの対策を練っていた。
その中でも、武器依存度の低いデュークとリリスは一番の強敵だと考えていた。
アレンとシンティアなら復帰後、ふたたび狙うだろう。
となると、泥沼戦になる可能性すらある。
こうなると――んっ、なんだこれ……甘い。
「……なにすんだ」
「イチゴジャムの毒見。クロエ先生なら、ありえるかなって」
そのとき、シャリーが俺の口の中にさっきのジャムを入れてきた。
もぐもぐと咀嚼。うん、苺だ。
「問題なさそうね」
「お前な……」
「三日間もあるのよ。のんびりやらなきゃね。さて、行きましょ」
「ったく……」






