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チェンジリング・ヒロインゲーム ~私のハッピーエンドを目指して~  作者: えとう蜜夏


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三十五

 念願の青い空と海の別荘にやってきましたわ。奥様お聞きになって? 何とプライベートビーチ付ですのよ。おほほほ。流石侯爵家ですわ。そして別荘のある海辺の町はうちの領地なのよね。山の斜面に面して別荘は建っていて、丁度直に海にも接しているので岩場に囲まれた専用の海岸まであるのよ。


 私は海辺をゆったりと散策していた。勿論侍女や護衛も付いてるけどね。海岸からはお屋敷も見えるのでお兄様が残っている館を見上げた。お兄様はここでもお仕事をされていた。急ぎの書類仕事をこなしているのだろう。お兄様はこの町に港が有るものだから、その関係の書類も確認されているみたい。




 私は波打ち際で佇んで、水遊びも飽きると居間のカウチでお昼寝したり、読書やリアル・ユリアン人形の洋服を作ったりなんかしていた。優雅というか、これぞバカンスって言いたいけどね。でも、部屋には侍女とボディーガードが仁王立ち。あうう、気が休まらない。椅子にでもどうぞ座って? 別に直立不動のギネスの挑戦するんじゃないんだし。




 ここにきてこんな風に何日かはあっという間に過ぎた。


 そう言えばね。海の伝説といえば人魚なんだけど。いるのよ。流石、異世界だわ。こっちは水棲人というらしいけど。えらとかあって、水陸両用仕様なので海や水の中でも息ができるみたい。リアル・マーメイドだから見てみたい気がする。そんな思いもあってちょくちょく海岸には訪れていた。綺麗な巻貝を見つけたので拾って屋敷に戻ってルークお兄様にみせようと部屋に入ると難しそうな顔をして書類を眺めて書き込んでいた。


「ああ、アーシアか、どうした?」


「ルークお兄様も折角バカンスにきたので少しお休みになられた方が良いかなと思って……」


「ああ、もうこんな時間か、ではお茶でも運ばそう。一緒に」


 そう言うと控えていた侍従の一人が部屋から下がった。肩を解すようにするので私はそっと近寄ってその肩を揉み解そうと手を添えた。


「まさか、アーシアが自ら私の肩を揉む日がくるなど……」


 ルークお兄様はそう言うと目元に指で押さえていた。


 それはどういうことかしらね?


 暫くルークお兄様の肩を揉み続けているとお茶もきたのでソファに座った。


「そう言えば、さっき海岸で拾ったの。巻貝は耳を当てると海の音が聞こえると聞きましたけどどうなのでしょう?」


 それは日本で聞いたの話だけどこっちはどうなのかしら?


「海の音……」


 そうお兄様が仰ると黙り込んでしまった。私は耳に当ててみたけれど特に音も聞こえ無かったのでがっかりしてテーブルにそれを置いた。


「そんなものは聞こえない方が良い。それより、お前はここに来て遊んでばかりだが、日課もこなしているだろうな? マナーや気品は一日で成らずだ。日々精進することが重要なんだぞ」


 うひゃぁ、藪蛇だったわ。ルークお兄様にも休んでもらおうと誘うつもりがとばっちりを受けてしまった。


「気を付けます。でも、ここには休暇で……」


 私の訴えはルークお兄様の冷たい視線で黙らされた。


「そう言えば、ミーシャ商会のご令嬢は?」


「ああ、もう直ぐ来てくれる筈です。向こうも休暇に入ったみたいですわ」


 向こうは普通の学校だから、もう少し授業あったの。そう言えば『ゆるハー』に夏のバカンスに海辺のイベントもあったわよね。西瓜割りとか花火大会とか。どっちも出来そうにないけど。メロンぽいのはあるけれど西瓜は見たことないし。花火も無いわね。


 屋台の焼きそばイベントもいいんだけど。やはりあれは庶民のイベントよね。この町の屋台にはあるかしら? ここに来てこの屋敷以外から出て無いので軽い軟禁状態だった。でも、貴族令嬢はこんなもので慣れてるちゃあ、慣れてるけどね。それに覚醒前の私は産まれた頃からあまり丈夫な方ではなかったから。外に出ると良く体調を崩していたのよね。だから自然と外出はしなくなったの。


 そもそも、私はこの冬も命が危険だったのよ。覚醒してからはかなり元気になったけどね。今まで危険だからと外に出なかったものだから他のご令嬢のように王太子妃候補にも上がらずにこの歳まで来てしまったの。そのせいで今はとんでもないことになってしまった。


 もともと複数いた王太子の妃候補のご令嬢達は幼少期から競争していて、今やジョーゼットだけに淘汰されてしまっている状態だった。そこへ無菌状態の私の出現。それにどうやら王太子様には気に入られて、側近となるルークお兄様も王太子様と親密な仲で、ゆくゆくは右腕となって宰相職へなんて囁かれている。


 その上、うちは面倒な縁戚も居ない。それは王家にとっても良い感じらしい。ジョーゼットのお家は王家の中でも対立関係にある勢力の一つなのよ。だから対抗勢力になるうちを取り込みたいといった宮廷勢力様相を今や呈しているのだった。


 覚醒前の私ならそこまでは気が付かなかったかもしれない。何たって私も就活のときは縁故関係に泣かされたからそれなりに分かるようになったわ。今の私はジョーゼット側から見たらかなり邪魔な存在。誘拐や抹殺もあり得るのよね。だーかーら、嫌だったのよ。お貴族様の生活なんて! 早く、庶民になりたい。気ままに外出して買い食いしたいのよ。


 私はやや大きめに溜息をつくとお兄様から、レディとして見苦しいと叱責されてこんこんと諭されてしまった。


 それでもルークお兄様の負担を少なくするべく何かできないかと考えながら、用意された大好きなビスケットとアイスショコラを食べていたらソファでうとうとして眠りこけてしまった。




「これでデビューしたのか? まだまだ子どもだ。やれやれ、心配でやれんな」


 そんな優しそうなお兄様の声が聞こえて口元が何かで拭かれると体がふわりと浮いたんですけど夢ですよね? ふわふわして何だか良い気持ちで眠いの……。

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