突然の張り込みアイテム
志崎さんの提案は意外なものだった。
「ダンジョンで手に入れたもので支払ってくれればいいよ。ゴミ捨て場には高価なものたくさんあるし」
志崎さんが冗談めかして言う。
「確かに、ダンジョンのものは高いですけど、それは志崎さんの行く階層の物だからで、私が行けるのはまだ3階層です。ダンカリでもせいぜい1個1000円がいいといころで……」
志崎さんがふっと笑った。
「十分」
いやいや、どう考えても十分じゃないと思うんだけど。
「わかりました、1回ダンジョンに行くたびに志崎さんようも持って帰るようにします」
1個1000円でも10回渡せば1万円だよね?
志崎さんの顔が急に真顔になった。
「それ、渡すことを理由に俺に会いたいって話?」
あ、これ、志崎さんの就職希望者みたいに思われたので。
「い、いえ、ため込んでまとめて渡すか、出向日に会社にもっていくかします!志崎さんに会いたいって意味じゃないです!絶対に!」
志崎さんがぷっと噴出した。
「それだと、絶対に俺に会いたくないみたいに聞こえるね」
はっと口をふさぐ。
「そ、そういう意味じゃ……いえ、あの……」
「あはははは、いや、有希は失言ばかりだし、初めて会ったときもさスマホうまく拾えなかったし、焦れば焦るほどドジ踏むタイプだよね」
……かもしれない。
ひとしきり笑った後、志崎さんが再び真顔になった。
「焦ってドジを踏むと、ダンジョンでは命とりだ。焦らなくてもいいように、脳内でシミュレーションを癖にして生活するといい。こちらからこう来たら、とか。2体がこちらとあちらから同時に来たら、とか。自分の戦闘スタイルが確立すれば、考えるより体が先に動いて、パニックになっている暇もなくなるが……」
なるほど。
私なら……あっちから来た、ぽこっ、こっちから来た、ぽこっ……を、目の端に映ったとたんに穴をあけるくらい無意識にできるようにってことかな?
「はい、じゃあ、夕食をおごるよ」
と、服の話が終わった。
ホテルのレストランに、目に突き刺さるくらいの蛍光黄色のツナギで入っても大丈夫なのかな?
というか、志崎さんは全身黒。黒い革のズボンに長袖シャツだ。
そして、剣を持っている。
夕食に、剣?
「はい、おごらせてくれ」
と、アンパンと牛乳を渡された。
「え?」
思っていた夕飯と違う。高そうなホテルだよ?
地下にある店を出て、廊下を進んでさらに階段を3階分ほど下った場所で唐突に渡された。
っていうか、ホテルの地価がこんなに深いの?
「あまりしっかり食べてからだと動きが悪くなるからね」
志崎さんも同じようにアンパンと牛乳。
驚いてぼんやりしていたら、志崎さんが首を傾げた。
「牛乳苦手だった?」
「あ、いえ、大丈夫です!問題ないです!」
ぱくりとアンパンを食べる。
こしあんだ。
「どう?探索者の感想を集める仕事会社に頼まれてるんだけど」
「え?」
「ただのアンパンじゃなくて、完全食っての?これだけ食べておけば栄養バランスが取れるやつ。探索者用に開発中のやつ」
へぇー。そうなのか。
会社って、うちのグループ会社……いや、親会社なのかな。探索者に出向させるくらいだし?
「えーっと……普通のアンパン?」
「苦みを感じるとか、酸っぱいとか違和感がないか?」
ああ、栄養成分がパン生地化あんこに練りこんであるのかな。
「はい。ただ……」
「ただ?」
「私は粒あん派です」
ぷっと志崎さんが笑う。
「あはは、そんな感想を言ったやつは始めてだ。
笑われた。冗談のつもりじゃなかったのにな。




