鍵
視点戻ります
金曜日。
テーブルの上には、壁からとった10センチの立方体の石と、光る泥団子が載っている。
昨日は疲れちゃって、出品はまた今度でいいやーと思ったんだよね。
トーストを焼き、コーヒーを入れる。
トーストにはマヨネーズを塗る。バターの代わりに時々やってる。
マヨラーってほどじゃないけれど、マヨネーズとパンは合うよねぇ。
行儀が悪いけれど、トーストをかじりながら、スマホを開く。
「えーっと、通知……?」
SNSにコメントが届いているって!
私の何の面白みもないメモ代わりの書き込みに、コメント?
『クリーン魔法ってなんだよw嘘だろw』
『なんで、ぽこぼこ行ってるのに、いきなりクリーン?』
『アクセス数稼ぎなんじゃないか?』
『なるほど、理解した』
『クリーンが使えるっていうの、本当かもしれないぞ』
『いやいや、浄化魔法は使えないって研究結果で出てるだろ』
もしかして……。
炎上、してる?
コメントの数が100を超えている。
『日暮里西ダンジョンの話、知らないのか?』
心臓がばくんと波打つ。
SNSの注意事項で活動場所など個人が特定されるようなことは書かない方がいいとあった。
日暮里西ダンジョン……私が行っているダンジョンだ。
私が特定されている?
『日暮里西っていうと、プールで話題になってるとこだろ?』
『さっき行ってきたけど、あったよ、マジでプール』
あ、プールって志崎さんが知らないかって言ってたやつ……。
『クリーンが使えるやつだってマジでいるかもしれないじゃん』
『もしかして、ニクスさん日暮里西に通ってますか?』
怖い。
私を探しに来る?知らない人が……。
SNSに鍵をかける。
フォローしている人をブロックしていく。
怖い。
怖い。
心臓がバクバクする。
どうしたらいい……。
日暮里西ダンジョンにはもう行かないようにする。
そうなると、次に行きやすいダンジョンは……。
カップを持つ手が震えている。
「落ちつこう……」
スマホを置き、ごくりとコーヒーを飲み込む。マヨネーズトーストを流し込むように食べると、着替えて会社に向かった。
……そうだ。
相談してみよう。
電車に揺られているうちに、少し気持ちが落ち着いてきた。
電車を降りて、会社に向かって足早に通り過ぎる人々を避け、ホームで壁際によりメッセージアプリを開く。
『SNSのコメントに、私を探しに日暮里西ダンジョンへ行くと書き込まれました。どこのダンジョンに行っていることを書いていたわけではないのですが、どうしたらいいですか?』
雷電さんにメッセージを送ると、すぐに返信が来た。
『マジで?写真載せたりはしてないよね?有希ちゃんかわいーからクソやろうに狙われたのかな。わかった、今度一緒にダンジョン潜ろう!しばらく一人で行動しない方がいいと思う』
かわいい?雷電さんの方がよほどかわいいよ。それにもう私はおばさんよ?
あ、でも独身者動員法で探索者になった人の中では若いのかな……苦笑。
『ありがとうございます。でも、迷惑ではないですか?』
『気にしないでいいよ。ただ、ちょっと無理させちゃうけどいい?』
無理ってなんだろう?
『あ、身の安全は責任持つし、そうだねぇ、来週の月曜、出向はなくなったとはいえ、出向の予定でスケジュールあけてあるから、どうかな?』
月曜日なら来週の義務が消化できる。
ありがたい。けど、お世話になっていいのかな?
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