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毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


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第三十夜 ―― 偽りの伯父と、地の底の秘密 ――

砂漠のオアシスを後にし、ザルカ王とサフィアは活気溢れる東方の交易都市へと辿り着いた。

 市場には色鮮やかな香辛料や絹織物が並び、人々の熱気が渦巻いている。だが、王の目はその賑わいの中に、虎視眈々と獲物を狙う「影」を捉えていた。

「……サフィア。この街には、欲望が霧のように漂っている。人は皆、一攫千金を夢見て、自分の足元にある幸せを見落としているようだ」

 王は道端で泥にまみれて遊ぶ少年たちを眺めながら呟いた。サフィアは、露店で買ったばかりの「黄金色の蜂蜜菓子」を王に差し出し、第三十夜を語り始めた。

◆ サフィアの語り 第三十夜 ――「貧しき少年アラディンと、魔術師の誘い」

 むかし、ある大きな都に、アラディンという名の少年がおりました。

 彼は仕立屋の息子でしたが、仕事もせずに街を遊び回る、母親泣かせの貧しい少年でした。しかし、その瞳には、どんな宝石よりも鋭い「機転」と「好奇心」が宿っていたのです。

 ある日のこと、アラディンの前に一人の見知らぬ魔術師が現れました。

 彼はアラディンの死んだ父親の弟――つまり「伯父」であると偽り、言葉巧みに彼に近づきました。

『さあ、アラディン。お前を立派な商人に仕立ててやろう。その前に、私と一緒に山へ行き、ある不思議な場所を手伝ってほしいのだ』

 アラディンは疑いながらも、伯父と名乗る男の豪華な贈り物に目を眩ませ、人里離れた荒野へと連れて行かれました。

 男は呪文を唱え、地面に焚き火を投げ入れました。すると、轟音と共に大地が割れ、そこには重い石の扉が現れたのです。

『アラディン、この下へ降りろ。奥には金銀財宝が唸るほどあるが、それには一切触れるな。一番奥の壁の窪みにある、古びた「ランプ」だけを私の元へ持って帰るのだ。……いいか、何があっても、その指輪を離すでないぞ』

 魔術師は、己の身代わりとして少年を死の淵へ送り込もうとしていました。

 アラディンは震えながらも、真っ暗な穴の底へと降りていきました。

 そこには、触れれば命を失うという、目も眩むような「禁断の宝石」たちが実る果樹園が広がっていたのです。

 サフィアは語り終え、蜂蜜菓子の濃厚な甘みを口に運んだ。

「王様。アラディンが手に入れようとしているのは、金銀財宝ではなく、ただの一つの古びたランプですわ。……価値のないものの中にこそ、真の力が眠っている。それに気づけるのは、欲に目が眩んでいない子供の目だけなのです」

 ザルカは、市場の喧騒の中に、物語の魔術師のような「野心」を隠し持った者たちが潜んでいるのを感じ取った。

「……価値のないランプ、か。サフィア、余もかつては、派手な勝利ばかりを求めていた。だが、この旅で知った。本当に国を変えるのは、派手な剣技ではなく、一握りの知恵なのだな」

 ザルカの言葉に、サフィアは深く頷いた。

 地下の迷宮に閉じ込められたアラディンが、いかにして「ランプの精」を呼び覚ますのか。

 現実の夜も更け、暗闇の中から新たな魔法が生まれようとしていた。

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