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『毒杯の晩餐と百の献立(メニュー)』  作者: 水前寺鯉太郎


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第二夜 ―― 灰の街の料理人と、奇跡を呼ぶ白銀の塩 ――

第二夜 ―― 灰の街の料理人と、奇跡を呼ぶ白銀の塩 ――

 夜の帳が下りる。それはザルカ王にとって、毒を調合する時間であり、サフィアにとっては、死の淵を言葉で埋めていく時間だった。

 卓の上には、前夜と同じく毒の混じった葡萄酒の杯が置かれている。

「語れ」

 ザルカは短く言った。その瞳には、前夜よりわずかに、ほんの微塵ばかりの「期待」という色の粒子が混じっているのを、サフィアは見逃さなかった。

「では、王様。死を待つ間に、わたくしの父が砂漠の果てで聞いた『世界で最も罪深い味』のお話をさせてください」

 サフィアは静かに、語り始めた。


◆ サフィアの語り 第二夜 ――「灰の街の料理人と、白銀の塩」

 かつて、地の果てに「灰の街」と呼ばれる場所がありました。

 そこは呪われた土地で、空からは常に煤が降り、土からは何も芽吹きません。民は泥水で煮た硬い木の根や、石のように乾いた腐りかけの干し肉を噛み、飢えをしのいでおりました。

 その街に、一人の若い料理人がおりました。

 彼は天賦の才を持っていましたが、食材があまりに劣悪なことに絶望していました。

「どんなに火加減を凝らそうと、泥は泥だ。腐臭は消えぬ」

 彼が包丁を投げ捨てようとした、ある日のことです。街を訪れたみすぼらしい老人が、一掴みの「白銀に輝く塩」を青年に託しました。

「これを使いなさい。ただし、これは『奇跡の味』を呼ぶが、同時に『代償』を呼ぶ塩だ」

 青年は鼻で笑いました。

 彼は藁にもすがる思いで、誰もが一口で吐き出すような、悪臭放つ「泥水のスープ」にその塩を一振りしたのです。

 その瞬間でした。

 鍋の中から、黄金の光が溢れ出したのです。

 鼻を突く泥臭さは、雨上がりの大地のような芳醇な香りに変わり、濁ったスープは琥珀色に透き通り……。青年がおそるおそるそれを口にすると、一口で五臓六腑に力がみなぎり、全身の血が歓喜して跳ねるような、究極のコンソメへと変貌していました。

 青年はその塩を使い、街中の「廃棄物」を「王侯貴族の晩餐」へと変えていきました。

 灰の街は活気を取り戻し、噂を聞きつけた近隣の国々から人々が集まり始めました。

 しかし、青年はあることに気づきます。

 その白銀の塩には、奇妙な性質があったのです。

 それを使った料理を食べた者は、みな一様に、ある「奇妙な行動」をとり始めるようになりました。そして青年自身も――。

 物語が最高潮に達し、青年が国の重鎮を招いて、一生に一度の「禁断の晩餐会」を開こうとした、その時でした。

 寝所の高い窓から、薄桃色の朝日が差し込みました。

 サフィアはぴたりと口を閉じ、ザルカを見つめました。

「王様。夜が明けました」

 彼女は、毒の入った葡萄酒の杯に指をかけました。

「続きは、その塩が『何で作られていたか』、そして晩餐会の夜に起きた惨劇についてなのですが……。お約束通り、このお酒をいただくことにいたしましょう」

 沈黙が、謁見の間を支配した。

 ザルカは、差し出された葡萄酒の杯と、サフィアの涼やかな瞳を交互に見た。

 彼の喉は、物語の続きを欲して、かすかに震えていた。

「……待て」

 王は重々しく口を開いた。

「その塩の正体も聞かずに、お前を殺しては、今夜の余の眠りが妨げられる」

 ザルカはサフィアの手から杯を奪い取ると、中身を冷たい床へとぶちまけた。

「死は明日まで預ける。……今夜は、その白銀の塩に似た味の料理を、余の料理番に作らせろ」

 サフィアは深く、深く頭を下げた。

 その唇には、前夜よりも少しだけ確信に満ちた、商人の微笑が浮かんでいた。

 ――第二夜、了

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