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第一夜 ―― 塩と血の産地証明 ――
第一夜 ―― 塩と血の産地証明 ――
夜が王国に落ちる時、それはいつも静かだった。
鐘の音もなく、嘆きの声もなく、ただ砂漠の風だけが宮殿の尖塔を撫でて通り過ぎる。民はとうの昔に泣くことをやめていた。泣いても朝は来るし、朝が来れば――また一人、消える。
ザルカ王が玉座から立ち上がる時の音は、絹の衣擦れだけだった。
「連れてこい」
それだけで充分だった。
サフィアが謁見の間に踏み込んだ時、彼女が最初に感じたのは恐怖ではなく、匂いだった。
――没薬。沈香。そして、かすかな鉄の気配。
(血ではない。でも、血を何度も拭った床の記憶が、石に染み込んでいる)
彼女は商人の娘だった。父と共に、北の凍原から南の香辛料市場まで、馬車で十七年を旅してきた。値踏みされる目に慣れていた。値踏みする目にも。
だから、玉座の男が自分を見る時の目――感情の温度がゼロに近い、標本を眺めるような青い瞳――を見ても、足は止まらなかった。




