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吸血姫ハ愛ヲ求ム  作者: 金柑乃実
23/23

紅音編エピローグ

畑に挟まれた道を、日傘をさしてランドセルを背負った子どもが走っていた。

日傘の中で、子どもは笑顔だった。

田畑に囲まれた大きな平屋に駆け寄り、勢いよく玄関を開ける。

「ただいま!」

電気に照らされた畳の上に、赤ん坊が寝ていた。

「ただいま、ユキ」

すぐそばにランドセルを投げ捨て、赤ん坊の頬に指を伸ばす。

「サクラ、手は洗ったの?」

「あ、ママ!」

母親が出てきて、子どもは慌てて手を洗いにいった。その隙に母親が赤ん坊を抱き上げる。

「ママ、ママ、あのね!」

「なぁに?」

「今日、算数のテストで100点とったの!」

「おめでとう。頑張ったのね」

「うん!……あ……」

「どうしたの?」

「ママ、あの飴ちょうだい!」

「はいはい」

戸棚から白い紙に包まれた小さなものを取り出して、子どもに手渡す。

その紙を開くと、赤黒い色の飴玉のような丸いものが入っていた。

子どもはそれを口に放り込む。

「ん〜!おいしい〜!」

娘の満面の笑みに、母親も穏やかに笑っていた。

「ママ、この飴、どこに売ってあるの?」

「……どうしてそんなことを聞くの?」

「あのね、こんなに美味しいの、友達に教えてあげたいの。でも、これをあげるのはダメなんだよね?」

「誰にもあげちゃダメ。秘密よ」

「うん。わかってるよ。でもこれ、学校の近くの駄菓子屋さんには売ってないの。ママはいつもどこで買ってるの?」

「……パパに買ってきてもらってるの」

母親はその話題から逃れるように視線をそらし、おもむろにテレビをつける。

ちょうどニュースがあっていた。

『今日、鈴村遼太郎さんが老衰のためなくなりました』

「……ぇ……」

アナウンサーが読み上げた言葉に、母親は思わず反応した。

『鈴村さんは吸血鬼症候群研究の第一人者で、闘病する子どもたちのために保護施設と学園を建てるなど、大きな功績を残しました』

「ママ?」

娘が母親の異変に気づいてきょとんと首を傾げる。

「ママ、この人だぁれ?」

テレビの画面に映し出された白髪の老人を指す。

「……ママのお父さんよ」

「じゃあ、サクラのおじいちゃん?」

「そうね」

「ふぅん……」

会ったこともない人を祖父と言われても、実感はわかないだろう。

その時、玄関が開く音がした。

「ただいま」

「あ、パパ!」

娘がすぐに駆け出す。

「おかえりなさい」

「あぁ」

娘にじゃれつかれている夫に顔を向け、じっとその顔を見る。

「どうした?」

「……理事長が死んだわ」

「……そうか」

静かな空気が間を流れる。

「……落ち着いたら、墓参りにでも行くか」

「大丈夫なの?」

「落ち着いた頃なら大丈夫だろ。会社の人に場所を聞いておく」

「ありがとう。バレないでよ」

「当たり前だ。昔世話になった人とでも言っておけばいいだろ」

そう言いながら、夫は戸棚から飴玉を取り出し、口に含む。

「もうなくなりそうだな」

「明日作っておくわ」

「そうか」

「パパ、遊ぼう!」

娘に乱入されて、夫婦の会話はもうなかった。


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