卒業の朝 その2
6人揃って学校に登校してくると、校舎に向かって歩いている周囲の生徒たちも、この日独特の雰囲気を出していた。
仲間と笑顔で過ごす者もいれば、もう泣いてしまっている者もいる。
卒業って、こんな感じなんだね。思えば私が経験した事のある卒業は、幼稚園くらいだ。ドラマとかで見ていた卒業と、自分が体験する卒業とでは思う所が全く違う。人生においての重要なイベントなのだと、今実感している。
「あー……なんか、むず痒いな」
そんな空気感を前に、メグルが頭を掻いて本当に痒そうにした。
メグルの性格したら、泣き出したりはしないんだろうなぁとは思う。でも、寂しがってはいる。いつも一緒に過ごして来た私には分かる。もしかしたらその寂しさを紛らわすために、わざとそう言っているのかもしれない。
「……」
「どした、ディシア。黙って立ち止まって。もしかして、寂しいのかー?」
突然立ち止まったディシアに、メグルがニヤニヤと笑いながらそう尋ねた。
ディシアはそのまま黙って周囲の人たちを見渡し、校舎を見て、それから私達を見て来る。
「ふ。そうだな。正直に言えば……余は今、寂しいという想いに襲われている」
「いや、お前そんなキャラじゃねぇだろ。余は最強だとか言って、いつもみたいに高笑いしとけよ。それが、帝国の姫様たるお前のキャラだ」
「いつもの余なら、そうしたい所だ。しかし今日という日は、余にとって特別だ。余は、メグルやシグレとは違い、シェスティアと今後毎日会う訳にはいかなくなる。卒業した後は帝国に戻り、軍学や政治学を学ぶための専門校に入る事になっているからな」
「ディシア……」
仲良くなってからは、ディシアは大切な友達となった。そんなディシアとのお別れは、私も辛い。
卒業と言う事は、進む道が違えば別れとなる。特に帝国からやってきているお姫様のディシアは、故郷に帰ってしまうとなると簡単に会えるような存在ではなくなる。ディシアはその事を憂い、寂しがっている。
「無論、シェスティアだけではない。シェスティアを通じて知り合えた、シグレ。ラピス。ラミーヤ。メグル。貴様らは余の中で、大切な存在となった。できればずっと傍にいたい。そう思える仲間が、こんな余にできてしまった。皆との別れは、辛すぎる」
ディシアは今後、1人帝国に戻る事になる。そこに私達はいない。
そう考えれば、ディシアの憂鬱な気持ちは理解できる。寂しがるのも無理はない。
「……」
私はいてもたってもいられなくなり、ディシアのその身体を抱き締めた。友が私達との別れを惜しみ、寂しがっているのだ。私も友との別れは辛くて、抱き締めずにはいられない。
「シェスティア。余は帝国の姫だ。この身分でいる限り、自由はない。先の道はごく限られた選択肢しかなく、その中にシェスティアと共にいく道はない。いや……シェスティアが余と一緒に来てくれるのなら、別だが……」
「……それは、できない」
「分かっている。余は、メグルとシグレが羨ましいぞ」
私はディシアの告白を、何度も断ってきている。その告白を受け入れれば、ディシアといる事は可能だろう。でも今日もまた、その告白を断った。
私には、もう既に大切な女の子がいて、その子と一緒にやる事がある。だから、ディシアの告白を受け入れる訳にはいかない。
寂しがるディシアを前にして薄情かもしれないけど、でもそれだけはできないんだ。
「──だったら、お前も一緒に来ればいいじゃねぇか」
「どういう、事だ?」
「お前は選択肢がないだとか言うけど、選択肢はあるだろう。お前の意思次第で、どんな道だってある」
「しかし余は、帝国の姫だぞ。父がそうしろと言えば、それに従い生きていくだけの存在──」
「それがそもそも間違ってんだよ。周りがどうこうとか、身分がどうこうとかじゃない。自分がどうしたいかで動けよ」
メグルがディシアに向かい、呆れ半分でそう言い放った。
その言葉を聞き、ディシアは呆然とする。口で言う程、簡単な事ではない。
でもメグルがそう言わずにいわれなかったのは、きっとメグル自身が自分の出自で苦しんできたからだ。
「オレはお前がその道を受け入れてるなら、別に何も言うつもりはなかった。でもな。嫌なら口に出してそう言えよ。それで、自分が嫌だと思う道はぶっ壊して自分が進みたい道を進め。ただそれだけで、シェスティアと一緒にいられるぞ」
「……無理だ、メグル。余は帝国の姫だ」
「ちげぇよ。ディシアは、ディシアだ。オレが、オレであるのと同じようにな」
「……少し用を思い出した。すまないが、余は卒業式には出ない。エフテニーリャにはそう伝えてくれ!」
「は?どこへ行くと言うのだ、ディシア」
突然そんな事を言い出したディシアに、ラピスが尋ねた。
私達も混乱気味だ。ここまで来て卒業式に出ないとか、一体どんな用事だ。
しかしディシアはもう止まらない。そのままどこかへと向かって駆けだして、行ってしまおうとする。
「でぃ、ディシアさん!」
「待て!」
さすがに放ってはおけない。シグレが追いかけようとして、私も続こうとしたけどその行動をメグルが制した。
「ディシアはたぶん、大丈夫だ。オレ達はこのまま卒業式に出ればいい」
「で、でも……皆で揃って卒業しないと、意味がないです」
「我もそう思うぞ。どういうつもりか知らないが、止めた方が良いのではないか?」
シグレは納得いかない様子で、ラピスもそれに釣られて慌て出している。
「──また、後で!」
しかし、少し離れた所で笑顔で私達に向かって手を振るディシアを見たら、追いかける気力なんてなくなってしまう。残された私達は、その場で呆然とディシアを見送るだけだった。
そうしてディシアと別れた私達は、教室へとやってきた。そこではクラスメイト達がやはり泣いたり笑ったりしていて、様々な反応で登校してきた私達を迎え入れてくれた。
中でも印象的だったのは、委員長だ。クラスはこの学校に入学した時から変わっていないので、彼女とはけっこう長い付き合いとなる。彼女はずっと委員長で、クラスのまとめ役を務めてくれた。その彼女が、大泣きで私達を出迎えた。そしてお礼を言ってくる。お礼を言いたいのは、こっちなのに。本当に、委員長にはお世話になった。お疲れさまでしたと、感謝をこめて彼女に皆で伝えたら、また泣いてしまった。
その後は先生が教室にやってきて、やる気のない卒業の挨拶をもらい、それから場所を集会所に移して卒業式が開始された。




