責任
メグルはあの日、カルマの使用人の初老の男の人──名前を、ダンセルさんと言うらしい。彼に連れられ、村を後にした。私とメグルが最後に会った時に、メグルを迎えに来たと言った男。アレがダンセルさんだったのだ。
彼に連れられ村を後にしたメグルは、少し離れた山の上から村の様子を見ていたらしい。火をつけられ、燃える村。何もしていない村人が襲われ、そして殺された。
村を襲ったのは、メグルが幽閉されていた町……東の国の、部隊だった。メグルの正体を知っている彼らは、メグルを殺すために部隊を送り込んだのだ。八大賢の力が悪用されるのを、恐れたからだと思う。
でも、メグルの行方なんて彼らの知る由もないはず。その情報を流したのは、カルマだ。カルマはメグルが村に馴染み、愛着がわき始めていた所でメグルの行方に関する情報を流し、まるでメグルのせいで村が壊滅したかのように装う。それがカルマの作戦だった。
その作戦により、私のパパとママが死んでしまった。ディルエも、サベルさんも。罪のない村人が死に、襲撃者達は大勢死んだ。それらの死の責任を、カルマはメグルに押し付けたんだ。
自らはサベルさんに変な行動をおこすように吹き込み、私の村を陥れた。
「……全部、オレのせいなんだよ。シティの、大切な家族を奪っちまったっ。ディルエも、喧嘩ばっかしてたけど悪い奴じゃない。なのに、死んじまった。サベルさんは、そのせいで狂っちまった。何もかも、オレのせいだ」
「……メグルは、そうやって自分を思い詰める事によって、カルマに精神を支配されちゃったんだね」
「ああ。実際にその通りだったからな。オレは自責の念にたえきれなくて、本気で死のうと思った。カルマもオレに、死ぬべきだと言った。でもそれは肉体的に死ぬのではなく、精神的に死ねという意味だったんだ。もうオレは、何もかもがどうでもよかった。だからカルマに言われるがままに、カルマの呪術を受け入れた。でもオレはその前に、シティを一人にしないために、シティに家族を作ってやってくれと頼んだんだ。バカみたいな願いだよな。そんなの、他人がどうこう出来る物じゃない。でも偶然にもその願いは叶って、お前に妹が出来た。結果がどうなるかなんてその時のオレは知らなかったけど、引き換えにオレは魂を差し出した。そうしてオレは、カルマの人形となった訳だ」
誰かが死んでしまうのは、悲しい。メグルの気持ちはよく分かる。私も、パパとママが死んでしまったあの日、もし誰かが優しくしてくれなければこの世界の事が嫌いになってしまっていたと思う。やさぐれて、堕落し……そんな自分を想像すると、悲しくなる。
でもそうはならなかった。それはパパとママを失って暗い気持ちになっていた私に、優しくしてくれたアグネスタさん。そんな私を村から連れ出した、エリシュさんとルナさん。私の妹だと名乗る、シグレとの出会い。学校で、友達ができた。先生は、八大賢の1人だった。
そんな人々との出会いが私を支え、私を立ち直らせてくれた。
でも私とは違い、メグルの傍にいたのはカルマだ。彼はメグルを壊す事を目的としていたので、メグルの心は壊され、そして彼の物となってしまった。
「でも今は、もうカルマの物じゃない」
「……そうだな。オレが奴の人形だった間、奴はオレの力を引き出す事に躍起になっていた。奴の要求通りに出来なければ叱責され、殴られた。そのおかげと言ったらなんだが、オレは強くなったぞシティ。オレの炎は、親父を超えた。カルマはそう言っていた」
「私ほどじゃあないけどね」
「そうなんだよなぁ……。オレは八大賢の娘だ。カルマはオレの力を見込み、オレを支配した。誰にも負けるはずがねぇ。でもシティに敗けた。お前は一体、オレがいない間に何があったんだ?」
「色々だよ。そもそも、最初から何かがあったといった方が正しいかもしれない」
「……意味が分かんねぇけど、お前は強くなったんだな。もうオレが守る必要もない。そもそも、お前の大切な家族を奪ったオレに、傍にいる資格なんてないけどな」
「……」
そう言って自嘲気味に笑うメグルに、私は頭に来た。
ここまではメグルの話を聞くためにおとなしくしていたけど、段々とイライラとしてきてそれが今、爆発しようとしている。
そもそも、カルマを解放してあげた時にキレられるのも意味が分からなかったし、自分のせいで皆が死んだとか言い出した時点で、けっこうイライラはしてたんだけどね。我慢してたのは、まずはメグルの想いや生い立ちを知ろうと思ったからだ。メグルがどういう目にあって私の村に来て、その後の事も聞けたので、それはもう充分。メグルの生い立ちを知り、メグルの想いを知る事が出来た今だからこそ、今度は私の想いをぶつける番である。
「うん。メグルがどうして、せっかくカルマから解放した私に怒ったのか、ちょっとわかった。どうせそのまま何もかもを忘れて、カルマの人形として全てから逃げ出して、そのまま消えてなくなりたかったんでしょ?」
「……」
メグルは否定も肯定もしない。そんなメグルの胸倉に、私は思わず手を伸ばした。
殴ってやろうと思った。そんな考え方を、否定するために。でも、殴れなかった。
「私は──……!私は、メグルと再会できて嬉しかった!姿が消えたあの日から、ずっと探してた!メグルは私に残された、唯一の家族だと思ってたから……!私は、メグルと一緒にいたかったんだよ!パパとママが死んでしまった悲しみを分かち合って、互いに慰め合って前を向きたかった!」
「その二人が死んだ原因は、オレだ。そんなオレに、お前を慰める資格なんてない。ただただ、申し訳ない気持ちでいっぱいだ」
「……メグル。そもそもだけど、メグルが生まれてきたらダメなんて、そう思う連中がおかしいんだよ。私はメグルと会えて、よかった。メグルがいなかったら、今の私はいなかったと思う」
「オレなんかいなくとも、シティはグラさんとサラさんと幸せに暮らしてたよ」
「そうかもね。私も、そう思う。でもメグルと出会った私にとって、その生活は考えられない。そこにメグルがいなくちゃ、意味がない。メグル。貴女が私の前から消える意味なんて、何にもなかったんだよ。今まで通り、私の傍にいてくれればそれでよかった。パパとママが死んだのは、メグルのせい?絶対に違うよ。何寝言いってるの?その理論が成立しちゃったら、大抵の人は罪を犯して生きている事になっちゃうよ。目を覚まして、ちゃんと前を見て!」
私が訴えると、メグルがゆっくりと顔上げ、私の顔を見た。
私はメグルの胸倉をなおも掴み続けて引き寄せると、その顔を自分の顔に近づけて至近距離で睨みつける。
「でも、オレは──」
「私は、メグルが好き!大好き!愛してる!メグルが生まれて来なければ、良かった?そんな事言う人、私が許さない!私はこれからも、メグルと一緒に生きていきたい!その道を邪魔するなら、誰だろうと容赦しない!」
「シティが……そう言ってくれるのは、嬉しい。でもオレは、どうしてもだめなんだ。自分を赦す事が出来ない」
「別に、赦さなくてもいい。メグルがそう思うのは、メグルが優しいからだと思うから……出来れば自分を赦してあげてほしいけど、そんなメグルを否定はしない。だけど、私の前から消えようだなんて事は考えないで。私の前から消え去るなんて、絶対にダメ」
「でもオレは、メグルの家族を奪ったんだぞ……?」
「少なくとも私は、メグルのせいだなんて思わない。パパもママも、同じことを思ってるはずだよ。だからメグル……私のパパとママを理由にして、私の前から消え去ろうとしないで。そんな事をされた方が、私は悲しいんだよ。メグルがいなくなって、私は本当に辛かった。私をそんな気持ちにさせたその責任を、まずはとってよ」
「責任って……どうすりゃいい?」
「これからは、ずっと私の傍にいて。どこにも行かないで、ちゃんと生きて」
「なんだ、それ……。お前に、全然メリットがないじゃねぇか」
「メリットとか、そういう問題じゃない。頷くまで、この手は離さないからね!」
私が涙を流しながら訴えると、メグルは困った顔をした。
もしかしたら、また私の前から消えるつもりだったのかもしれない。このバカメグルの事だから、本当にそんなバカな事を考えいるのかも。
「……でもオレは、カルマに殺される大勢の女の子達を、見捨てた。オレが直接手を下したわけじゃない。だけどそれじゃあ、同罪だ」
「安心して。彼女達は、メグルに怒ってない」
「町に、火を放った」
「ほとんどカルマがやった事だよ。メグルのせいじゃない」
「……助けに来てくれたシティに、襲い掛かった」
「ただの喧嘩だよ。もう仲直りした」
「でも──」
いてもたってもいられなくなり、メグルの言葉を遮るようにして私はメグルを抱き締めた。
すると、メグルは泣き出してしまった。大声をあげて、大きな涙を流し始める。ダムでせき止められていた感情が、爆発したようだ。メグルは反論をやめ、私に抱き着き、縋るように泣いた。
私も釣られて、泣いた。
互いに抱き合い、慰め合いながら泣く。いつかの、ラピスとラミーヤのようだ。あの時は泣き虫だと思ったけど、撤回する。こうなったら、普通は泣く。涙が止まらなくなる。
私とメグルは、そうして気が済むまで泣き続けた。




