決着
メグルの中へと入り込んだ私は、早速メグルの魂の場所へと向かう。暗がりの中を進んでいき、しばらくして辿り着いた。
そこに現れたのは、黒い塊に支配されるメグルの魂だった。ラミーヤの時とは違う。魂全体を黒い塊が侵食していて、支配されている。
「っ!」
コレが、メグルを操っている元凶。男の言っていた完全なる支配という物がどういうものか、ラミーヤにかかっていた呪術と今目の前にあるメグルの魂を比べてみて、よく分かる。
でも、ここまで来ておとなしく引き下がる訳にはいかない。私はマジックキャンセラーで魂にくっついている黒い塊を切り離しにかかる。
慎重に、魂を傷つけないように根元を切り離して……よし。それから、本体を離して離別。今回は逃げられる事を予想していたので、すぐに飛んでどこかへいこうとしたそれを、しっかりと打ち消す事に成功した。
順調な滑り出し。でも数が多すぎる。いつまでもこうしている訳にはいかないだろう。メグルが抵抗してきたら、その時点で終わりだ。でもやるしかない。やらなければ、メグルが帰ってこれない。
『……違う。こうする』
その時だった。
またあの時の声が聞こえたかと思うと、白い光が私の横を通り過ぎ、メグルの魂に直撃した。すると、一瞬だ。一瞬にしてメグルの魂に群がっていた黒い塊が浄化され、消え去っていく。
『本当に甘いね、君は。仕方がない。私も手伝おう。あの男がしようとしている事は、私も気に入らないのもある』
もう1つの声もそう聞こえて来て、こちらは黒い光が通り過ぎて行った。
この、謎の声の協力を期待していなかったわけではない。でも本当に手伝いに現れてくれて、本当に助かった。
『しかし、ランドグリースの娘、か。分からないものだな。人間嫌いの彼が、人との子を授かるなんて思いもしなかった。相手はどんな女なのだろう。さぞかし美人なのだろうな』
『……彼の心を、変える者がいた。それだけ』
『うん。そして愛の形としてこの子が生まれ、でもこの子の存在を世界は許さない。その隙を、カルマという男は突いた』
『……ランドグリースは、真面目。だからこそ、この結果を招いてしまった。自分に正直になればいいのに。それを意固地になって、自分の娘を守るために動こうともしない』
『ルールはルールだ。破った側にも落ち度はある。元はと言えば、ランドグリースが招いたこの事態だもの。罰は、ランドグリースと、禁忌の子にも下されるべきだとは思わないか?』
『……思わない。愛に、罪はない。生まれた子にも、罪はない。だけど、この術を復活させて人の心を支配しようとする者には、罪がある。ましてや、魔術師だけの世界を作るなんて、バカげている』
『ああ……!君の言う通りだ!戯言を言って、すまない。さっさとこの子にくっついたゴミを処分して、解放しよう。そしてランドグリースに、礼を言ってもらおう。ありがとう、と』
『……それはいい』
2人は楽し気に話しながら、そしてあっという間に、まるで片手間でするようにして、メグルの魂にくっついていた黒い塊を排除してしまった。
あっという間すぎて、私に入る隙なんてどこにもなかったよ。もしかして私、いらなかった?
『そんな事はない。君が彼女を大切に想う気持ちがなければ、私達は協力しようなどと思いもしなかった』
心の声に、声が答えて言って来た。
「……今までスルーしてたけど、貴方達は一体何者なの?」
『君の魂に仮住まいさせてもらっている、魂だ。なに。悪いようにはしないので安心してほしい。現に今までも助かって来ただろう?』
「そうだけど……自分の中に、別の意識があるみたいで少し不思議な気分」
『気にするな』
「──お姉さま!」
声にそう言い切られた時だった。
外から私を呼ぶ妹の声が聞こえて来て、意識が戻された。気づくと、私の眼下にはメグルが横たわっている。その顔面には私の拳が当たっていて、鼻血が出ているね。他にも、私が殴りつけた痕がある。けど私の顔にもたぶん出来ているから、そこはお互い様だ。
「だ、大丈夫ですか?ずいぶん長い間そうしていましたが……」
私の傍には、シグレが座っていた。
彼女のドレスは汚れ、破れ、身体にも傷が出来ている。まぁ、私もメグルも同じような感じだけどね。でも、自分はいいのにシグレが汚れてるのは何か嫌だ。
「うん。大丈夫。メグルも、もう平気。私達の敵じゃないよ」
「取り戻したんですね……」
「うん!協力してくれて、ありがとうシグレ」
「わっ。……はい。良かったですね、お姉さま」
私はシグレを抱き締め、シグレも私を優しく抱きしめ返してくれた。
メグルは目を閉じていて起きる気配がないけど、目が覚めたら元のメグルのはず。本当に、取り返したんだ。
でも、目が覚めたら何から話そう。なんだか緊張して来てしまった。
「──そっちは終わったようだねー」
とそこへ、先生が歩いてやって来た。ドレスが少し破けているけど、気だるそうにしていつもの調子の先生自身には、傷一つついていない。
「先生!そっちは、どうですか?あの男は……」
「ああ。全部終わったよ」
「そう、ですか……」
できれば、私も一発くらわしてやりたかったなと思う。
でも、終わったと言う先生の言葉に、私もシグレも安堵した。少し、疲れたからね。
「その通り。全部、終わりました」
でも、先生の背後から現れ、先生の顎を強引に掴み取る男が姿を現わした事で、状況が変わった。
「少々、手こずりましたが……八大賢が一角、風賢のエフテニーリャはこの通り。ボクの物となりました」
男は頭から血を流し、服も破けて傷を負っている。先生との戦いで、相当な怪我を負わされた事がよく分かる。
でも、最終的に先生は負けた。エリシュさんのように男に操られて、その身体の自由を奪われている。じゃなきゃ、男にこんな事をされて黙っているはずがない。
「先生が、貴方のような人に敗けるなんて事が……!」
「ある。現実を見たまえ。コレはもう、ボクの玩具だよ。ボクが命じれば、君たちにも襲い掛かる」
「いやぁ、油断したよー。まさか、この部屋全体にこんな大掛かりな結界が施されていたなんて、思いもしなかった。この壁画の女性たち……彼女達には、生きた人間の魂が宿っているのだろう?」
「た、魂……?」
先生に言われて周囲の壁画の女性を見ると、私は鳥肌がたった。壁画は確かに、よく見れば妙に人間らしい。その目はまるで生きているようで、とても不気味だ。
「ええ、その通りです。魂を全て支配するには、生きた人間を利用しての大掛かりな儀式が必要になります。それを簡略したのが、この空間です。ここに辿り着くまで、本当に苦労しました。今まで何人の命が犠牲になってきた事でしょう。この空間では、私が魂に触れただけで私の操り人形となるのですよ。簡易的な物なので、この部屋の中でしか効力はありませんが、後程正式に支配して差し上げますので、ご安心を」
「……エリシュの方も、ダメだったようだねー」
先生が呟いて、ある方向に目を向けた。釣られてそちらを見ると、そこには氷漬けになった金髪の女性がいた。その傍にはエリシュさんが立っていて、その氷漬けの女性を愛しそうに撫でている。
エリシュさんと戦いになったルナさんは、エリシュさんに負けてしまったようだ。まだ、生きてはいるはず。でも氷漬けの状態のまま、いつまでも生きてはいられない。早く、助けないと……!
「私達の負けだ。準備を怠り過ぎた結果が招いた結果だな……」
「ルナさん……!」
「エリシュさん……!」
「ふ。ははは!煙の魔女と、風賢がボクの物となった!これでもう、ボクを止められる者はいない!」
高笑いをして、勝利を確信する男。確かに私とシグレには、先生とエリシュさんと戦って勝てる力を、持ち合わせてはいない。絶望的な状況と言えるだろう。
「……ところで、何故リーシャがガキ二人に敗けて横たわっている?理解できない。炎賢の娘であるリーシャが、ただのガキに敗ける訳がないだろう」
「残念だけど、メグルは私に敗けた。ついでにメグルにかかっていた貴方の魔法も、解除しておいたから。もうメグルは、元のメグルだよ」
「何を言っている……?リーシャは八賢に匹敵する力を持っているんだぞ。その上彼女にかけた呪術は、解除できる次元の物ではない。さっさと起きろ、リーシャ!そしてそのガキどもを、煙の魔女と風賢の前で焼き払ってやれ」
男に命令されても、メグルは起きない。理由は、今私が言った通り。
「……どうしますか、お姉さま」
「っ……」
確かに、メグルは取り戻せたけど絶体絶命だ。早く、先生とエリシュさんにかかった呪術を解かなければいけない。そしてルナさんの氷も早くなんとかしないと……。
「この壁は、魔力を外に漏れださせない効果もある。学校の入学試験の時に使った、あの白い部屋と同じような物だ」
と、先生がいきなり言った。その時の事を、私は思い出した。あの白い空間で、魔力を解放して先生に見せた時の事だ。
男は、先生の口も塞いで黙らせるべきだと思うよ。そうしなかったから、私はこの事態の打開策を見出す事ができたのだ。




