命懸けの喧嘩 その1
私とシグレは、メグルと相手をすべく皆からは少し距離を取った。この部屋は、無駄に広いからね。密集して戦って味方を巻き込まないよう、離れて戦うのは理にかなっている。
ちなみに離れるよう提案してきたのは、メグルだ。私とシグレは彼女について、部屋の隅っこの方へとやってきた。
「……」
その際に、シグレの背後から彼女にかかっている呪術を解除しようとしたけど、無理だった。全然どこに呪術があるのか分からない。また、直接触らなければシグレの魔力の出所を覗く事も出来ない。
ここで解除できれば、戦わずに済むと思ったんだけどな。さすがにそんなに上手く事を運ぶことはできないようだ。
「お姉さま。良いのですか?」
「ん?何が?」
「だって、あの方はお姉さまの大切な家族なのに……戦うなんて……」
「……」
私は心配してくれるシグレの頭の上に、手を置いた。
大丈夫。操られているメグルと戦うのはあまり気が進まないけど、これは必要な事だ。それに、これに勝てばメグルを取り返せると考えると、戦うしかないでしょ。
「これだけ離れれば、もういいでしょう。早速始めましょうか……子猫ちゃん」
「ぷっ」
振り返り、おとなしく付いて来た私達にそう言い放って来たメグルに対し、私は笑ってしまった。
子猫ちゃんって。この喋り方にすらまだなれていないのに、メグルが言いそうにない事を言って私を笑わしにかかってくるのは、卑怯だ。
「先ほどから、失礼な事ばかり……もう我慢できません。私は今から貴女を消し炭にしますので、遺言を書いておくことをお勧めします。その遺言ごと、炎で消し去りますが」
そう言うと、メグルは魔力を解放。彼女の周囲に炎が飛び散って、私を威嚇してきた。
私も魔力を解放し、シグレも対抗するようにして魔力を解放。
どうやらこの部屋には、外に魔力が漏れ出ない効果があるらしい。入学する時の試験部屋と同じで、外に魔力が溢れ出ていく気配がなく、壁によって防がれている。なるほど。これなら自由に、全力で戦えそうだ。
「煉獄の会場」
メグルが魔法を発動させると、私達を囲って炎の壁が出現し、この中から出られなくなってしまった。同時に、熱気に襲われる。まるで炎であぶられているようだ。
別に、逃げるつもりはないからこんな事しなくてもいいのに。まぁ設置型の魔法なら、打ち消そうと思えばいつでも打ち消せる。放置しておいてもいいだろう。
「怒りに染まる拳」
更にメグルは、手に拳を作ると、そこに炎を宿した。黒く染まったその炎からは、禍々しさすら感じる。
同時にメグルは、周囲に魔力を配置した。自らの周囲と、私の背後にも設置したね。その数は、ちょっと数えきれない。たくさんありすぎて、目がくらむ。
とりあえず、近くの魔力をいくつか打ち消しておこうか。すぐ近くで魔法を発動されたら、それこそ対応できないからね。
「さ。どこからでもかかってきてください。私をバカにし、ご主人様の邪魔をしようとする、愚か者ども」
「……私は戦いながら隙を見てメグルに触って、呪術を解く。シグレ。協力して」
「お任せください、お姉さま。風の加護」
私の頼みを聞いたシグレが魔法を発動させ、その足に風の力を宿した。
「はあぁ!」
シグレが駆けだすと、風が巻き起こった。その風にのり、シグレが一気にメグルへと突撃していく。
「氷の矢!」
同時に私は、メグルに向かって氷の矢を飛ばした。無数の氷の矢はシグレの横を通り過ぎて、メグルに向かって飛んでいく。
それに対し、メグルが炎を宿した拳を振りぬく。と、拳型の炎がそこから現れ、私の矢を飲み込んだ。更にその炎は接近してきていたシグレをも飲み込もうとする。
でもシグレは、高くジャンプする事でその炎をかわしてみせた。射線上にいる私は、普通に横に走って射線からずれる事によって回避。
「吹き荒れる暴風!」
高く舞い上がったシグレの手から、風が巻き起こってメグルに襲い掛かる。
でもメグルはそのシグレに向かって拳を突き出す事で、風ごと炎の拳で飲み込んでしまった。更にその先には、シグレがいる。空中にいては、重量に引っ張られるだけで方向転換ができない。そう思うのが普通だけど、シグレは普通に空中でジャンプしてみせた。まるでそこに地面があるかのように、だ。
それはシグレが身に纏っている魔法による作用で、風の力を利用してそう見えているだけだ。それにより、再びメグルの炎を回避したシグレは、何度か空中を蹴ってからメグルの背後に着地した。
「突き抜ける突風!」
「貫く氷の矢!」
私は両手を構えると、そこから大きな氷の矢を生み出した。氷の矢は生み出されると同時にメグルに向かって一直線に飛んでいく。
一方の、メグルの背後をとったシグレもまた両手を構え、そこから生み出された風がメグルに襲い掛かる。この風に当たれば、ただでは済まない。たぶん生身の人間がくらったら、一瞬にして上空に吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる事になると思う。
「はぁ……退屈ですわ」
メグルは本当に退屈そうに言うと、私の氷の矢に向かって拳を突き出した。シグレの風の方には、炎が宿っていない手を突き出し、構える。そちらの手には魔力の光が見える。
そしてそれぞれの手と、衝突した。私の氷の矢は、メグルの拳とぶつかった瞬間に砕け散ってしまった。その拳には、魔力が宿っている。そうなっても不思議ではない。だけどあまりにも呆気なく砕け散ったのには、少し驚かされたよ。
一方のシグレの風は、こちらもメグルの手とぶつかった瞬間に周囲に分散。辺りに突風を巻き起こしただけで、消え去ってしまった。
魔法を使ったわけではない。手に集中させた魔力を使い、マジックキャンセラーの要領でシグレの風を打ち消したのだ。というより、魔力を干渉させて別の魔法に書き換えた……?風は消えた訳ではないので、その可能性の方が高い。自分に影響のない程度の風にするため、その力を分散させてみせたのだ。
あの、一瞬で?そもそも他人の魔法を書き換えるなんて事、できるの?
「分かってはいた事ですが、このレベルの差は悲しくなってきてしまいます。では……?魔力が、打ち消されている?」
どうやらメグルは、私の近くに設置した魔力で、魔法を発動させようとしたようだ。でもそれは私が先にマジックキャンセラーで打ち消しておいたので、発動できない。
それで勝った訳ではないけど、ちょっといい気分になれて、私はメグルに対して笑った。メグルはそれが気に入らなかったのか、眉をピクリと動かして私を睨みつけて来る。
「火炎の爆発」
「っ!?」
私の方の魔力は排除していたけど、今シグレが立っている、メグルの後方の魔力は排除できていない。そのシグレの周囲が、メグルが発動した魔法によって突然の爆発を起こし、火炎と爆発がシグレを飲み込んでしまった。
「シグレ!」
「自分の方の魔力は消せたみたいですが、あちらは消せなかったようですね。この規模の爆発に巻き込まれては、タダでは済まないでしょう。というか……死んでしまったかもしれません。残念でしたね」
「っ……!」
メグルは私を挑発するように、笑いながらそう言って来た。確かに、あの爆発に飲み込まれてしまってはタダでは済まないだろう。でもそれは、何の抵抗もしなかった場合だ。
「降り注ぐ氷塊」
私はメグルの上空に氷塊を出現させると、それをメグルに向かって落下させる。
シグレがどうなったかは分からないけど、今戦いを止める訳にはいかない。
「無駄ですわ。この程度の魔法で、私の炎を止める事はできません。炎の贈り物」
頭上に出現した氷塊に向かい、メグルが手を突き上げた。その手から炎が火炎放射の如く放たれると、私の氷塊を飲み込んであっという間に消し去ってしまう。
更に炎は方向を変えると、私の方へ向かって飛んでくる。私が先に空から氷塊を落として攻撃してたのに、何故か逆に空から炎を落とされようとしている。
「|聖なる光に守られし安全地帯」
私は自分の周りを覆うようにして光のバリアを作り出すと、そこに炎がぶつかってきて私ごと一帯を飲み込んだ。
「先ほどから思っていたのですが、氷の魔法を使っていた貴女が、何故光の魔法を発動できるのでしょうか……。まぁいいでしょう。このまま、貴女の魔力が尽きるまで炎で包み込んでいてあげます。そのバリアが解けそうになったら、言ってくださいね。最期に命乞いくらいなら聞いてあげますから」
確かに、普通ならこの魔法を維持し続けるのは難しいだろう。炎が注がれている状態でこのバリアがとけたら、本当に消し炭になってしまう。でも私の魔力は割と無尽蔵だ。炎を注ぎ続けているメグルも自信があるみたいだけど、果たしてどちらの魔力が尽きるのが先かな。
でも、私にばかり集中していていいのかな。私はメグルの後方に魔力の光を発見し、そう思った。
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