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犯人


 家の中は、そりゃあ豪華だったね。エリシュさんちも中々豪華だけど、この家とは一線を画している。エリシュさんちが豪邸なら、この家はホント、貴族の家。至る所に壁画や天井画があって、そこら中に美術品が飾ってある。外見通り、美術館みたい。

 まぁなんていうか、見る分にはいいけど、住みたくはないかな。そんな家だ。


「どうぞ、こちらへ。既に主が、中で首を長くしてお待ちしております」


 初老の男性に案内され、私達は家を入って真正面にある、観音開きの大きな扉の中へと入った。

 広い空間だ。室内だというのに、サッカーもできそうなくらい広い。そうするには所々にある図太い柱が邪魔だけどね。他にも、一際豪華な壁画と天井画が描かれていて、そのテーマは天使かな。羽根のはえた、年齢がバラバラの美しい女性が描かれていて、この中でサッカーをするのはちょっと場違いが過ぎる。


「──ようこそ、煙の魔女。エリシュ・ベルハルト様」


 しかし、天使の中に男がいた事で、その美しさが台無しである。彼は天使に囲まれているこの空間の中に、ポツリと置かれたイスに腰かけていた。

 男は、美形だ。銀髪の長髪で、男なのに睫毛が長くて鼻が高い。背が高く、やせ型。その身に纏う黒色の礼服が、彼によく馴染んでいてその魅力を引き立てている。

 初老の男性が先頭を歩いていたけど、素早く横に退いて彼とエリシュさんとの間を遮る物がなくなった。するとエリシュさんから彼に歩み寄っていき、彼も立ち上がってエリシュさんに寄ってくると、エリシュさんの前で膝を付いた。そしてその手を取り、手の甲にキスをする。

 気持ち悪い光景に、私は目を逸らした。


「久しいな、カルマ。この度は娘のシェスティアとの見合いを受けてくれて、感謝する」

「いえいえ。エリシュ様から見合いを申し出ていただき、感謝しています。それも、相手が貴女の大切なご家族だなんて……光栄です」


 と、言う事は、私の見合い相手って、この男?年が離れすぎじゃないですか。この男の年齢は、見た目で判断すると少なくとも20代半ばくらいである。

 対して私の年齢は、まだ二桁に達したばかり。コレでもし成立してしまったら、この男は一生ロリコンとして生きて行かねばなくなってしまうだろう。


「それで、見合いのお相手は……貴女ですね?シェスティア様」


 男の目が、この場で一際輝き美しさを放っている私に向けられて、私は慌てて目を伏せた。この男と視線を合わせるのは、ハードルが高すぎる。

 合いそうになっただけで吐き気がこみあげてきて、私は口を押えた。


「お、お姉さま。大丈夫ですか?」

「平気。まだ、平気。でも男率を少しでも減らしてくれたら、嬉しい」

「すまないね、カルマ。娘は男性恐怖症なんだ。少しでも負担を減らすため、そちらの男性にご退室を願ってもよいだろうか」

「もちろんです」

「失礼いたします」


 エリシュさんの頼みをカルマと呼ばれた男性は聞き入れ、そのやり取りを聞いていた初老の男性が部屋を出て行った。

 できれば、このカルマという男の人にも出て行ってもらいたかったけど、そういう訳にはいかないようだ。残念だ。


「そちらの可愛らしいお方は?」

「こちらは、シグレ。シェスティアの妹だ」

「なるほど。生きていたのですね」


 男の言葉の意味が分からなくて、私は一瞬固まった。生きていたらいけないの?シグレが?何故、そう思うのか。私は意を決して顔をあげ、男の顔を見据える。

 すると、先ほどまでの優し気な笑みは消えていて、その笑みとは反対の、歪んだ笑みを浮かべていた。


「ほう。こちらから問う前に、話す気になったか」

「回りくどいのは嫌いなのですよ。あの煙の魔女が、大事な娘を私と見合いさせる理由が分かりません。更に、そちらにいる八大賢のエフテニーリャ様まで引き連れてくると言うのです。気づいたから、と判断するのが妥当でしょう」

「まぁ、そうだねー。普通に考えれば、普通にお見合いをしましょうって状況じゃないからねー。でもそれじゃあ何故、おとなしくお見合いを受けたりしたのかな?」

「自信があるから、ですかね」


 なんか、一気に話が分からなくなった。エリシュさんは別に、お見合いをするつもりじゃなかった?じゃあ何をしに私をここに連れて来たと言うのだ。

 状況が分からない。そんな私と同じく状況が分かっていないと思われるシグレが、私の手を握って来た。その手が、震えている?


「お姉さま……この声、間違いありません。顔は見れませんでしたが、あの方です。私を奴隷商から買い取り、呪術をかけた上でお姉さまの下へ赴かせたのは……!」

「んなっ!?」


 シグレからもたらされた情報に、私は驚愕した。同時に、シグレが生きていたのかと言った、あの男の言葉の意味が分かった。

 シグレにあんな事をさせたのは、この男。感謝すべき所もある。でもやっぱり、許せない。だってあの呪術は、下手をしたらシグレが死んでいたんだよ。というか、死んでいた可能性の方が遥かに高い。結果としてなんとかなったものの、この男はシグレの命を弄んだんだ。


「君のクラスメイトのラミーヤ君を利用し、決闘を邪魔したり、ディシアを殺そうとしたのもこの男だ」

「貴方が……ラミーヤを……!」


 シグレにかかっていた呪術と、ラミーヤにかかっていた呪術は似ていた。それもそのはず。同じ人物がかけた呪術だからである。


「何故、あんな事を!?」


 私はこみあげる怒りを胸に、怒鳴りつけるようにして尋ねた。


「あんな事?どの事かな?」

「シグレの事と、ラミーヤの事だよ!」

「誰の事か分からないよ。ボクは名前を覚えるのが苦手なんだ」

「この……!」

「お嬢様、抑えてください。相手の挑発に乗ってはダメです」


 怒りで男に向かって魔法をぶっ放そうとした私を、ルナさんが止めた。確かに私は、冷静ではないよ。でもあの男には、私の魔法をくらうだけの罪がある。それを止められるのはちょっと癪だ。


「何故、あんな事をというシェスティアの質問に、私も興味がある。君は何故、ディシアを殺そうとした?八大賢であるエフテニーリャの庭に、手を出してまで」

「ボクは、この世界を支配するつもりです。そのためにはまず、帝国かなと思いまして。それで手始めにお姫様を排除しようかと。失敗に終わってしまいましたが。でも失敗したのは、ボクのせいではありません。駒として使う事にしたあの娘が、弱かったのがいけないのです。もし成功しても、誰もボクのせいだとは気づかない」

「世界征服とは、大きく出たものだ。八大賢の一角を前にして臆せずに戯言をいう勇気は認めるが、あまりにも無謀じゃないか?」

「それが、戯言じゃないんですよぉ。ボクはそれだけの事をやってのけるだけの力を手に入れてしまったのです」


 エリシュさんからの質問を、更に歪んだ笑顔で受け止める男に、私は吐き気を催した。この男は、何かヤバイ。

 いや、シグレやラミーヤにしてきた事を考えるだけで、それだけでヤバイのだけど。


「その力とやらに、興味があるな。是非教えてくれないか?」

「ええ、勿論いいですよ。一つは、もう見ましたよね。相手の精神を乗っ取る呪術です。魂に直接呪術を付与する事で、精神を思うままに支配する事に成功しました。今までの、制約によって相手を縛り付ける物とは違う。完全なる支配です。オマケに魂にボクの魔力が触れる事により、魔力を貸し与える事もできるのです。これは使用したら補充が必要になりますが、一度だけ、操った者の力を増加させられるんですよ。凄くないですか?」

「っ!」


 この男が言っているのは、ラミーヤに対してやった事だ。ラミーヤはまさにこの男に操られ、そして力を貸し与えられていた。あの黒く汚い魔力は、この男の物だったんだね。その歪んだ笑顔にぴったりな色の魔力だ。


「確かに、見事だったねー。私でも解除できないような呪術を、君は作り出したんだ。そこは褒めよう。でも所詮二番煎じだ。大昔に似たような技術はあった。でも失われた。何故か分かるかい?」

「さぁ。私に大昔の事は分かりかねます。何百年も生きて歴史を見て来た、エフテニーリャ様とは違うので」

「な、何百年……!?」


 私は思わず、先生を見てしまった。まだ若く、シワも少ない。何百年も生きて来ただなんて、信じられない若さである。

 エリシュさんもそうなんだけど、2人共実年齢と見た目の年齢が離れすぎだよ。

 でもコレが、この世界では普通なのだ。潜在的な魔力量が、寿命に関係して来る。魔力が強力なら強力な程、寿命が延びていくのだ。昔読んだ本に、そう書いてあった。

 先生は八大賢と呼ばれるだけあって強力な魔力を持っているし、エリシュさんも相当な実力者。その本に書いてあった事を、今私の目の前にいる2人の若い女性が実演している。


「色々理由はあるが、特に、気持ち悪いんだよ。その魔法。魔法もだけど、その魔法を使おうっていう気になる人間も。だから誰も使わなくなったし、使おうとも思わなくなった」

「ぷっ」


 ホント、そう。気持ち悪い。私は先生の発言を聞いて、笑ってしまった。


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