お見合い
エリシュさんとママは、こう約束をしていた。
それは、もしママとパパに何かあった時、2人に代わってエリシュさんが保護者になって育てると言う約束だ。私をカザリクの戦士にさせたくはなかったママは、私が自由に生きるための選択肢を残しておいてくれたのだ。
おかげで今、私はエリシュさんの下で自由に生きている。あのまま村に残っていたら、私は今どうなっていたんだろう。やっぱり、カザリクの戦士になっていたのかな。ほら、私ってけっこう凄いから。こんな逸材を彼らが見逃すとは思えない。
「いやぁ、今日は色々あったねぇ」
衝撃の事実が知らされ、皆がそれぞれの家に帰り、夕飯を食べ、お風呂に入り、ベッドに入って寝る時間になると、私は隣で横になるシグレにそう話しかけた。
「はい。本当に、驚く事ばかりでした。でも今更こういうのもなんですけど、エリシュさんとお姉さまは、前から似ている気がしていたんです」
「私とエリシュさんが?」
「はい」
それは、嬉しいような、嬉しくないような……。いや、嬉しい事にしておこう。
そんな事を言い出したシグレに便乗する訳ではないけど、私もエリシュさんとママが似ているような気はしてたんだよね。でもだからと言って、血が繋がっているだなんて思いもしなかったけど。
だって、年が年じゃん。エリシュさんはおばあちゃんというような容姿ではなく、若く美しい大人の女性だ。一体何歳だよとツッコミたくなるけど、この世界の人の寿命は、魔力量に反映されると本で読んだことがある。
だから、ママのママなのにあんなに若いままなのだ。魔力って恐ろしい。
「……エリシュさんが実はおばあちゃんで、それを私に拒否されるのが怖くて隠してたとか、笑っちゃうよね」
「本当に、そうですね。でも最初、お姉さまは逃げようとしていましたよね?」
「そうだね。懐かしい」
最初私は、エリシュさんを悪人と決めつけていた。シグレと一緒に、エリシュさんの下から逃げるために、魔法を使って戦ったりもした。でもおばあちゃんだと知っていたら、そんな事はしなかったと思う。
いくら拒否されるのが怖いからと言って、そんな大事な事を秘密にしないでよって感じだ。そうすれば……もっと素直に、甘えられたかもしれない。
「……シグレの事も、聞いてもいい?」
「私の事、ですか?」
「うん。シグレにも、お母さんとか、お父さん……家族がいたんだよね?」
「……はい。でも私の両親は、私が生まれてすぐに死んでしまいました。身寄りのいない私を育てたのは、お金持ちの貴族です。そこでは私と同じように身寄りのいない子供が集められ、物心ついた時から掃除や洗濯といった労働をさせられ、容姿の良い子はそのままメイドとして雇われ、そうでない者は奴隷として売られて行きました。私は後者です」
「むぅ!」
私は腹が立った。こんなに可愛いシグレを売り飛ばすとか、そのお金持ちは見る目がない。
でもそのおかげでシグレと出会えたのだから、良かったと言えなくもない。なんとも複雑な心境だ。
「たぶん、私が売られたのには訳があって……」
「訳?何?」
「……この目です」
そう言うと、シグレは髪の毛をかきあげて、私にその瞳を見せて来た。キレイな瞳。初めて見た時も、この目に魅入られたのを思い出す。
「キレイな、目。私はシグレの目、好きだな」
「そ、そう言っていただけるのは嬉しいんですけど……私のこの目は、魔眼です」
「何それ?」
「魔法の力を帯びた、目の事を言います。どうやら私の母が魔眼持ちだったようで、私はその力を継承して生まれて来ました。この目を見た人は、魅了されてしまうんです。あ、ああでも、私が継承した魔眼はそれほどの力を持っていなくて、役にたたないんです。せいぜい、キレイだなと言われる程度の力しかないので、他人が魅了される事はなく、利用価値もありません。だけど魔眼を持っているというだけで気味悪がられ、利用価値もないので売られてしまいました。それ以降、私はこの目を隠すようになったんです。母から受け継いだこの目を気持ち悪がられるのは……嫌だったので」
「……そっか。でも私は、好きだよ。シグレも、シグレの目も」
「お姉さまにそう言っていただけるだけで、私は嬉しいです。母から受け継いだこの目を、誇りに思えます。ありがとうございます」
シグレはそう言って笑ってくれて、私も笑った。
シグレの生い立ちは、決して幸福だったとは言えない。だけどこうして彼女と出会う事が出来た巡り合わせには、感謝の気持ちしかない。不思議な事で、私が異世界で殺されなければこうして彼女と出会う事もなかったし、彼女が奴隷などという身分を経なければ、姉妹になる事もなかった。
本当に、不思議。だけど必然だったような気もする。私と彼女は今、それくらいの絆で結ばれているのだ。
その日は、この可愛い妹との出会いに感謝しながら眠りについた。
ここ最近、大きな出来事が続いていたけど、皆で私の家に集まって、リフレッシュができた。シグレの事も知る事ができて、その距離も縮まった気がする。更にはエリシュさんとの距離も、縮まったかな。
元々、縮まる程の距離は感じてはなかったけどね。だって私達はもう、家族になっていたから。その絆が更に深まっただけで、特に何も変わりはしない。
だけど、学校が休みのこの日にとある貴族の家にやってきて、私のエリシュさんに対する評価を改めなければいけないなと思った。
「ふふ。よく似合っている。私が嫁にもらいたいくらいだ」
「私は孫ですからっ。だから、お嫁さんにはなれません。というか、何で私がお見合いなんてしなくちゃいけないんですか!?」
エリシュさんに連れられて来たのは、王国の貴族のお家だ。家と言うより、もう何かの美術館だね。
国のお偉いさんにしか住む権利が与えられない、お城に近い上層に建てられたその建物は、白く美しく雄大だ。
私は白いドレスに身を包み、ここへやってきた。それから、お見合いをすると告げられた。相手はこの家の主で、私より遥かに年上の男性らしい。
冗談ではない。私が男嫌いだという事を、エリシュさんも知っているはずだ。それに私はまだ、結婚というような年でもない。お見合いだなんて早すぎる。
それに、私の隣にいるシグレを見てよ。私と同じく白のドレスに着込んでお洒落をしている彼女からは、黒いオーラが出ていて白いドレスを汚している。もし彼女と相手の男性が鉢合わせたら、惨劇が始まるんじゃないか。そんな気さえしてしまう。
「ただの見合いだ。別に会ったら絶対に結婚しなければいけない訳でもない。何をそんなに慌てている?」
「そうかもしれないですけど……私、無理だよ。男の人とまともに会話できないし」
「まぁ会うだけ会ってみると良い。おそらく面白い事になるはずだ」
お見合いが、面白い……?もうその発言が面白くて笑ってしまいそうである。
「やー、お持たせー」
気の抜けるような声と共に、家の門扉前で待機していた私達に声を掛けて来たのは、先生だった。先生は青のドレスを身に纏っており、いつもと印象が違う。なんていうか、大人って感じのセクシーなドレスだ。ただ、胸が大胆に空いているけど肝心の胸が乏しいので、セクシーさは少し低い。それでも、細い手足が大胆に露出していて、いつもの先生じゃないみたい。
「せ、先生?どうしてここに?」
「私も君のお見合いに同席させてもらう」
「私が呼んだんだ。実は、彼女と私は旧知の仲でね。君の今回のお見合いの話をしたら、同席したいと申し出てくれたんだ」
エリシュさんと先生が知り合いだったとか、そんなのはどうでもいい。問題は、何故同席したがるのか、である。
「先生同伴とか、正直キツイです」
「本当に正直だねー。でも嫌がってもついていくから、よろしく」
一体コレは、何の罰ゲームだ。お見合いという時点で罰ゲームなのに、そこに学校の担任の教師が出て来る意味が分からない。
逃げようかな。逃げて、真の自由を手に入れようかな。
「大丈夫ですよ、お嬢様。私がフォローしますので、ご心配なさらずに」
そんな私の心情を察したのか、背後に回ったルナさんが私の肩の上に手を乗せて来た。そして離さず、その場で固定されてしまう。どうやら退路を断たれたようである。
「──皆さん、よくぞおいでくださいました。中へ、どうぞ。我が主がお待ちしております」
家の前で集まった私達に対し、スーツ姿の初老の男性が現れてキレイにお辞儀をしてきて、私達を家の中へと招き入れてくる。他にも数名のスーツ姿の男性がいて、彼らが門扉を開き、それから揃ってキレイにお辞儀をしてきた。
この時点でもう吐きそう。帰りたい。
と吐き気を感じながら、今のこの声をどこかで聞いた事があるなと思った。
でも、肩に手を乗せてきているメイドさんがぐいぐいと押して来て、先に進んで行くエリシュさんに続かせてくる。こうして私は声について考える暇もなく、半ば強引にお見合い会場へと足を踏み入れる事になった。
初めて、この人たちと家族の縁を解消しようかなと思った瞬間である。




