戦士の末裔
確かに、ディシアの言う通り、私の村の人たちは赤い珠を身に着けていた。その形は様々で、数珠状だったり、一個だけだったりとバラエティに富む。でも着けていない人もいた。その違いは分からない。でも、ディシアの問いに答えるならイエスが正解だろう。
「着けてたよ。でも、なんで知ってるの?もしかして、私の村の事知ってるの?」
「……」
知っていたら、ちょっと嬉しい。だって、村の事を知っている初めての人物だから。いや、そう言えばエフテニーリャ先生も知っているみたいだったな。まぁあっちはノーカンという事で。
でも、ディシアは私の問いに答える事無く、沈黙してしまった。
「おい、どうしたディシア。シェスティアが聞いているぞ」
「黙っていろ、ラなんとか」
「ラピスケイトだ!頭文字しか覚えていないのか!?」
基本的に同級生はメスガキ呼びのディシアだから、名前を少し覚えてもらっているだけ他とは違う扱いだと思う。でもラなんとかはちょっと酷すぎだね。せめて、ラピまで覚えてもらえれば名前として成立すると思うんだけど。
「まぁまぁ、ラピス。ディシアさん。シェスティアさんの出身地で、何か思う事があるのですね?」
「ああ。余が思い浮かべている村だとすると……いや、しかし。シェスティアは自分の出身地である村がどういう物なのかを知らない様子。それを余が言っても良いものかどうか……」
そうか。ディシアが私の村について知っているという事は、私が自分の出身地に対して抱いていた違和感についての、答えを知っていると言う事である。
その違和感から逃げ、確かめる事もなく私は今日まで生きて来た。でもそれは、このキッカケを得て終わり。
「教えて、ディシア。私の村は、何なの?」
「……知っても、後悔せんか?」
「しない。私は生まれ育った村の事を、しっかりと知っておきたい」
「お前がそう言うなら……話そう。しかし、現実と余の知識で多少の違いはあるかもしれん。それを承知の上で聞いてくれ」
「うん」
私は神妙にディシアに頷いて答え、自分の村の事を知るという選択をした。
「……いいだろう。このフィアロット聖王国にはその昔、王国を陰から支えた部族がいた。その部族は強大な戦力を持った戦士の集まりで、彼らの力があってフィアロット聖王国は国としての地位を高めていくことになる。その部族の名は、カザリク。古代メラヴィス語で、赤き血の結束を意味する言葉だ」
「村の人たちがつけてた、赤い宝石は……」
「カザリクの戦士である証だ。それを身に着ける事により、彼らは仲間意識を高めていたんだ。それが現在も続いていて、カザリクの戦士は現代においても赤い宝石を身に着けているらしい」
あの赤い珠に、そんな意味があるとは思いもしなかった。戦士は赤い珠を身に着けて戦い、着けていない人は非戦闘要員という訳だ。
それで合っていると思う。思えば野盗に襲撃されたあの日、戦っていたのは赤い珠を着けた人たちだけだから。
「お姉さまの村は、そのカザリクの戦士の末裔という事ですか?」
「その通りだ。カザリクは現代においても存在し、この国を支えている。カザリクの村には名をつけず、場所も秘匿され、その部族の名を出す事もない。戦士だけの村。戦士たちが暮らす村。その戦力は小さき部族であるのに関わらず、国一つ分だと聞き及ぶ。それが、シェスティアの出身地だ」
「戦士の、村……」
そう言えば、私のマジックキャンセラーを見た村人が、良い戦士になると言っていた事があった。それは、私をその村の戦力として見ていたからである。
それで、分かった。私のママは、私を戦士にしたくなかったんだ。だから私に魔法を覚えさせるのを躊躇していたんだ。魔力を解放してしまったあの日、私を匿ったんだ。
私は、そんなママの想いを知らずにメグルと共に魔法に関して探っていた。私が魔法を覚えようとするとママが怒る理由も、それでようやく分かった。
「しぇ、シェスティアがその村の出身という事は、シェスティアもカザリクとやらの戦士だったりするのか?カッコイイな!」
「違う。私は今まで、本当に何も知らなかったんだよ。自分の村が私に何かを隠しているのは分かっていた。でもそれを知ろうとする勇気が私にはなかった。だから本当に、何も知らなかったんだ。何も知らないまま、あの日村が野盗に襲われて、パパとママも死んじゃって、それから逃げ出すようにして私はエリシュさんの下で暮らす事になった。だから私は……戦士じゃない」
「……ラピス」
私の事をカッコイイと言ったラピスを、ラミーヤが注意するようにその名を呼んだ。
気づけば、私の周りに皆が集まってきていた。シグレは私の隣に寄り添い、私を支えるようにディシアの話に耳を傾けている。
「カザリクの村は、この国の暗部だ。汚れ仕事も請け負うと聞く。野盗と言ったが、相手はどれほどの規模だった?」
「全貌は分からないけど……たくさんだった。でも皆が戦って……大勢を殺してた」
「それは恐らく、野盗ではない。カザリクに恨みを持つ者達が、襲撃に来たのだろう。そうされるだけの事を、カザリクもしてきてしまった」
「でも……野盗に殺された人に、罪はなかった。愛する人を失った人は、理性まで失ってしまった。あの行為に、何の意味があったって言うの……?」
建物は焼き払われ、本当に大勢の人が死んでしまったあの事件。パパとママが死んでしまった。メグルがいなくなってしまった。色々あった。
私は、村の人が何をして来たのかなんて知らない。もしかしたら私の想像がつかないような、酷い事をしてきたのかもしれない。でもだからと言って、村の中には戦士ではない人もたくさんいたんだよ。ディルエや、そのお母さんが傷つき死んでしまう意味が分からない。家を焼く意味も分からない。思い出の詰まった家を焼き払い、町を破壊する行為に、意味はあるの?
私はあの日を思い出し、悔しくて気づけば拳を強く握りしめていた。
その手に、柔らかくて優しい手が覆いかぶさってくる。隣にいる、シグレの手だ。その手に包まれて、私は力を抜いた。そして拳を作る代わりに、その手を握り締める。
「人と人が争えば、巻き込まれる者もいる。巻き込まれた者は巻き込んだ者を恨み、その繰り返しが始まる。人とは、そういう物だ」
「……ディシアに言われると、凄く説得力があるね」
ディシアはまさに、その恨みの連鎖の真っ只中にいる。ディシアが生まれる前から続く、帝国という国が持つその連鎖は、もう止められない。だからディシアは傲慢であり続けている。その連鎖に、飲み込まれないように。
私の嫌味ともとれる発言に、ディシアは軽く笑って返した。否定も肯定もしない。かつて私が彼女の事を弱虫呼ばわりした時と、同じような反応だ。
「でも私は、なんとなくディシアなら良い王様……ていうか、女王様?になってくれる気がするんだよね」
「余がか?」
「うん。こうして話してると、貴女が悪い人じゃない事がよく分かる」
「私も、ディシアさんなら良い国王様になってくれると思います。人の事を理解している、優しいお方ですから」
「よ、余の事は良い。今はシェスティアの故郷について話しているのだ」
ディシアは私とシグレの見解を聞いて照れたようで、話を変えた。
「いやぁ、なんか辛気臭い話になっちゃってごめんね。でも、話してくれてありがとう。おかげで故郷の村の事について知る事ができたよ」
「余も驚いたぞ。まさか、カザリクの者と話す事になるとはな」
「──私も驚いたよ。まさか、帝国のお姫様がシェスティアと仲良くお喋りをするようになるとは……」
その声がした方向に、全員が一斉に目を向ける。その方向とは部屋の扉で、声はそちらから聞こえて来た。
一見すれば、そこには誰もいなくて私達の会話を聞かれた様子はない。だけどよく見れば扉の隙間から煙が部屋に入って来ていて、その煙の魔法によって私達の会話が盗み聞きされていたようだ。
「エリシュさん。盗み聞きはちょっと趣味が悪くないですか?」
「こんな事をするつもりはなかったんだが、面白そうな話をしているので入りづらかったんだ。すまない」
私が指摘すると、扉が開かれてエリシュさんが姿を現わした。そして意外にも、素直に謝罪してくる。
なんだか、いつもより元気がさなそうだ。ちょっと悲しそう。




