女の子の方が
ラピスがしばらくして泣き止み、そこからようやく女子トークの始まりである。
実は、ちょっと憧れていたんだよね。女子トークに。
前世ではあんなで友達がいなかったし、この世界に来てからも話し相手と言えばメグルとシグレくらいだった。それが学校に通い始め、女の子の友達ができ、仲良くなって家に呼ぶくらいの関係となった。
感慨深いね。この世界に来てからも、色々な事があったからね。
「──では、ディシアさんはシェスティアさんの事が、好きなんですね」
「その通りだ。余はシェスティアが嫁に欲しい。その全てを愛しているからな。だがシェスティアは余になびいてくれないのだ。どうすればいいと思う?」
「うーん……振られた相手に、強く迫るのは逆効果です。だから、少し距離を置きつつも離れすぎず、共に過ごす時間をなるべく多く作りましょう。プレゼント等も効果的だとは思いますが、あまり露骨にしすぎてもこちらも逆効果となります。さりげなく、シェスティアさんの理想の人物に近づくよう自然に振舞い、嫌われないようにしながら自分の存在をアピールしていけばいいと思います」
「うーむ。難しそうだ。だが、やってみる。ありがとう、ラミーヤ。余は、頑張る!」
私とシグレのベッドの上に、あぐらをかいて座り込んだディシアが、イスに座っているラミーヤとそんな会話を繰り広げている。
恋愛トークは女子トークによくあるシチュエーションと言えるだろう。だけどその対象が同性で、しかも対象が私なのでなんか違う気がする。というか私の目の前で相談しないでほしい。
でもこの2人、案外気が合いそう。
ラミーヤって、ラピスと同じ年の割にその体つきがお姉さんで、小さいのに出てる所は出てて甘えたくなるんだよね。言葉遣いも丁寧だし、そんなラミーヤに対してディシアも話しやすいんだと思う。
「おい、シグレ。帝国のお姫様があんな事を言っているぞ。放っておいて良いのか?」
「……ディシアさんは、思ったよりも悪い方ではありません。お姉さまに相応しい部分もあります。むしろ……ちょっとアリかと思い始めています」
「は?」
「美形のディシアさんと、美し可愛いお姉さま……お似合いだと思いませんか!?」
興奮気味のシグレが、ラピスにそんな発言をしているのが聞こえて来た。
2人はカーペットの上に座り込み、こちらはこちらで盛り上がっている。
のだけど、シグレが私とディシアがくっつく事を望んでいるとは、思いもしなかった。先日からディシアとシグレが妙に仲が良いように見えていたんだけど、そういう事だったんだね。
でも悪いけど、私にその気はない。私はノーマルだよ。普通に、男が……いや、好きじゃないな。むしろ嫌いだ。目が合っただけで吐き気がする。だったらむしろ女の子の方が好きで、愛せてしまう。
「……」
衝撃だった。私、ノーマルじゃない。同性の方が好きだ。
そう気づくと、エリシュさんとルナさんの情事が普通に思えてくる。むしろ美しく、尊く、憧れの気持ちすら抱いてしまう。
「そういえば、シェスティアよ」
「は。え、あ、な、なに?ディシア」
衝撃の事実を理解し、戸惑っている所にディシアに話しかけられた。私はしどろもどろになりながらもどうにか返事をし、それに対してディシアが首を傾げてくる。
私、ディシアに告白されたんだよね。ディシアは確かに、悪くはない。強力な権力を持っているし、見た目も悪くない。性格に多少難はありそうだけど、そこはおいおい改善していけばいい。かなりの優良物件である。
どうしよう。今までは女同士とかありえないというスタンスだったけど、自分の性癖に気づいたら意識せざるを得なくなってしまう。
「どうしたのだ?顔が赤いぞ?もしや、熱か!?」
ベッドから立ち上がり、私に勢いよく近づいて来たディシアが、私の額に手を当ててそう尋ねて来る。
確かに、私は今顔が赤くなっていると思う。顔全体が熱いからね。見なくても分かる。でもそうさせているのはディシアで、そのディシアが今目の前にいると思うと、もっと熱くなってきた。
「ふむ。熱はないようだな。しかし、それにしても赤い。先ほどよりも赤くなっている。大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫。全然、なんともないから放っておいて。それよりも、何か用があるんじゃないの?」
私は自分が気づいてしまった事を隠しながら、ディシアと少しだけ距離を取った。
意識し出したら、ホントにヤバイ。私、こんなキレイな子に告白されてしまったんだよね。いや、大丈夫。私はもう、彼女からの告白をきっぱりと断っている。意識しだした今告白されたらちょっと考えてしまうけど、もう全て終わっているのだ。
いつも通りでいれば、何も問題ない。
「ああ、ええと。初めて余に話しかけてきた時、誰かと間違えて話しかけて来たのだったな。確か、メグルと呼んでいたか」
「あ、あー……うん。私、名前も呼んじゃってた?」
「うむ」
それは失態だ。その名を出す事を、私はエリシュさんから禁じられている。
私が複数の属性の魔法を使える事も、誰にも言ってはいけないと言われている。なのにバレてしまった。どちらも不可抗力だったとはいえ、何の約束も守れていない。最低人間である。
「それが、どうかしたんですか?まさか、知っている方、とか?」
「そうなの!?」
でも、ラミーヤがそうディシアに尋ね、私は全てがどうでもよくなった。
確かに、ディシアがわざわざそう聞いて来るという事は、もしかしたらメグルの事を知っているのかもしれない。だったら食いつかずにはいられない。私は勢いよくディシアの両肩を掴み、詰め寄った。
「いや、知らん」
「……」
「そ、そんなガッカリとした表情を見せるな。知らないが、探してやる事はできる。だから特徴を教えてくれないか?」
「……なるほど」
私かに、ディシアは結構強力な権力を持っている。彼女に頼めば、もしかしたら見つける事が出来るかもしれない。
でもそれにはちょっとした問題がある。エリシュさん曰く、メグルの名前を出すとメグルに迷惑がかかる事になるらしいからね。更には私の村にも波及する問題だ。下手にここで彼女に頼んだりすると、余計な事となってしまうかもしれない。
「それについては、大丈夫。こっちで調べてるから、何もしなくていいよ。でも気持ちは嬉しい。ありがとう」
「そう、か?余が調べた方が、早いと思うのだが……」
「いや……実は、メグルの名前は出したらマズイ事になるらしいの。だからディシアも、他の皆も聞かなかった事にしてくれない?」
「何か事情があるようだな。確かに、名も出さずに人を探すのは難しい。しかし、名を出すのも禁じられるような人物とは、もしやかなりの大物なのではないか?」
「大物?はっ。ただの小生意気な女だよ」
私はディシアの勘繰りを、鼻で笑い飛ばした。
「シェスティアは、その女とどこで出会ったのだ?」
「私の出身地の、村でだよ。いや、ホント生意気な子なんだ。生意気さ加減じゃ、もしかしたらディシアを超えてるかもしれない。自分の事をオレオレ言って、近所の男の子といっつも喧嘩してた。いや、喧嘩の原因は私を守るためだったりすんだけどね。生意気だけど、強くて優しい子なんだ」
「……」
「何、その顔?」
聞かれたのでメグルの事を話しただけなのに、ふと気づくとディシアがいじけたように唇を尖らせ、目を逸らして来た。
なんだ、この反応は。先ほどまではカッコ良く見えていたのに、急に子供っぽいというか、滑稽というか……変な顔になってしまったじゃないか。
「あはは!シェスティアがその子の事を嬉しそうに話すから、嫉妬したのか!?見ろラミーヤ。帝国のお姫様が、嫉妬してるぞ!シグレも見ておけ!変な顔だ!」
「え、えと。シェスティアさんの出身地は、どちらでしたっけ。その村の事、もう少し聞いてみたいです」
ラピスがディシアをバカにするのを見て、ラミーヤが慌てて話を逸らして来た。
でもそれでディシアがラピスを赦す訳もなく、ディシアが襲いに行ってしまった。頭をディシアに片手で掴まれ、悲鳴をあげるラピス。でも今のはラピスが悪い。なので私はスルーさせてもらう。
「私の出身地はぁ……どこなんだろうな、あそこ」
「なんという村なんですか?」
「それが、村に名前ってなかったんだよね」
「名前のない、村ですか?不思議ですね。そんな村が、あるんですか?」
「待て、シェスティア。名前のない村だと?まさかとは思うが、その村人は身体のどこかに赤い宝石のような物を身に着けていなかったか?」
ラピスの頭を締め上げていたディシアだけど、止めてこちらを向き直り、聞いて来た。
「た……助かった……」
解放されたラピスは、床に四つん這いになって頭を押さえている。相当痛かっただろうね。でも自分で喧嘩を売ったからこうなったんだよ。喧嘩を売る相手は選ばいとね。じゃないと、狂犬呼ばわりされちゃうから。




