暴走の原因
先生に集中した魔力は、膨大でキレイだ。エリシュさんをも凌ぐその魔力は、膨大すぎて息を呑んでしまう。
でも強がりというわけじゃないけど、私だってこれくらいの魔力を解放しようと思えばできる。でも私の場合、ここまで安定させて魔力を解放させる事ができない。すぐにどこかへ飛んで行っちゃうからね。コントロールできないんだ。
「──破壊神のため息」
龍に向かい、先生が手を向けて魔法を放った。先生が収束していた魔力は、一瞬にして空へと飛んでいき、そして竜巻という姿となって空から降り注いだ。
竜巻は龍を飲み込むと、吹き飛ばしてしまった。その風の影響は、周囲にも出る。ディシアは後退しつつ、シグレを抱いて庇いながら校舎の中へと避難。私もこの魔法を発動させている先生に思わず強く抱き着き、その風を耐える事になる。先ほどまでとは逆の行動だ。
でも、私の近くにいるラピスは違った。身を乗り出し、龍の安否を気にしているようだ。風で吹き飛ばされそうになるのが気にならないくらい、彼女にとっては優先されるべき事なのだろう。
「……」
やがて、先生が掲げていた手を拳にすると、同時に竜巻の姿が消え去った。
後には龍の姿がキレイになくなり、大きく抉れた地面と、風によって建物の一部がもぎ取られた、校舎の姿が残る。
すさまじい威力だったと、言わざるを得ない。こんな破壊力のある魔法を使えるなんて、この人タダ者じゃないよ。
「ら、ラミーヤは……ラミーヤは、どこだ……?」
そんな状況を前にして、震える声でラピスが先生にそう尋ねた。
この状況じゃ、もしかしたらという事はあり得る。ラピスはそれを危惧しているのだ。
「さすがに、殺しはしない」
それに対し、先生が指をさした。その方向には風によって一方向に傾いた茂みがあって、その上にラピスが横たわっていた。どうやら、元居た場所から風で吹き飛ばされて、そこで止まったようだ。
「ラミーヤ!」
「待って、ラピス!」
私はラミーヤに駆け寄ろうとするラピスの手を掴み、その行動を制した。
理由は、彼女を見れば分かる。私の目には、彼女を覆いつくす黒い魔力の光が映っているから。
先ほどまでは、一瞬見えるかどうかだった。でも龍の炎に力を分け与えた時から、その存在を隠そうともしていない。
間違いなく、コレは呪術だ。シグレにかかっていた物と同種であり、コレがよくない物である事はその色合いからもすぐに分かる。
「っ……!」
黒い魔力に包まれたラミーヤは、ボロボロなのにすぐに立ち上がった。そしてディシアとシグレがいる校舎の方へと歩いて行く。
彼女は、まだ戦うつもりだ。ボロボロになりながらも、その闘志を失ってはいない。それも、ディシアにしか目が行っていないようだ。たった今彼女を吹き飛ばした先生には、目を向ける事もない。完全なる無視である。
「まだやると言うなら、本当に殺す事になる。足を止めて、降参したまえ」
「……」
「ラミーヤ、よせ!足を止めろ!……一体どうしてしまったと言うのだ!お前は何がしたいのだ!?」
先生が忠告し、それを無視するラミーヤに、ラピスが叫ぶ。だけどその足は止まらない。
「先生、止めてください。ラミーヤは、自分の意思でしている事ではありません」
「何!?ど、どう言う事だ、シェスティア!?」
私が先生に進言した言葉に、ラピスが驚いて私の肩に掴みかかって来た。
「よく気づいたね。確かに彼女には呪術がかかっていて、彼女の意思で行動している訳ではなさそうだ」
「……分かっていたんですか?」
「最初は分からなかった。でも先程から彼女からは、別の魔力の気配を感じる。その力が彼女の意思を支配し、更には力も与えているようだ。でもそれを止める方法を私は持ち合わせていない」
「だから、殺すと……!?」
「残念ながら、そういう事になるねー」
「止める方法なら、私が持ち合わせています!だから殺す必要なんてありません!先生はここで、黙って見ていてください!」
「シェスティア!我も手伝うぞ!」
私は先生をこの場に置き、ラミーヤに向かって駆けだした。ラピスも付いて来て、一緒にラミーヤを止めるために動き出す。
あの呪術を消すのは、たぶん簡単だ。シグレの時は確か、呪術がかかっていた場所に私の魔力を送り込み、マジックキャンセラーの要領で打ち消したんだっけ。呪術がかかっている場所は、首元だ。そこに魔力を送り込めばいいだけの話。簡単である。
「このメスガキ、まだこの余とやりあうつもりか?」
向かってくるラミーヤに、ディシアが歩み寄る。その手には炎の剣が握られており、こちらは事情が全く分かっていないのにラミーヤを傷つけようとしている。
「やめて、ディシア!ラミーヤは自分の意思で貴女を襲ってるんじゃないの!」
「自分の意思ではない?まぁいいだろう。襲ってくると言うのなら、返り討ちにするまで。それで全て解決だ!」
「何も解決しないから!私がなんとかするから、貴女はお願いだから何もしないで!」
「……シェスティアがそう言うなら、仕方ない。余はシグレと共に引き下がっておくとする」
私に懐いたディシアは、私が訴えると素直にそう従ってくれた。
あの傲慢な態度が嘘みたい。こうして素直に従ってくれると、可愛いもんだね。
でも、シグレを巻き込んで下がったのは何故だろう。この短い時間で、2人に何があったというのだ。
「私がラミーヤにかかった呪術を打ち消すから、ラピス。貴女はラミーヤの動きを止めて。少しだけでいいよ」
「任された!ちょっとコレ、持っていてくれ。ラミーヤ!この我の技を受けるが良い!」
ラピスは私に、いつも持ち歩いている杖を渡して来た。それからすぐに駆けだして、ラミーヤに突進を仕掛ける。
ラミーヤは先ほどの先生の攻撃で、もうボロボロだ。突進してくるラピスを防ぐ力もなく、ラピスに押し倒されてしまった。
「っ!?」
「少しだけ、おとなしくしていろ!すぐにシェスティアがなんとかしてくれる!もう少しの辛抱だ!ラミーヤ!」
ラミーヤは暴れて、ラピスを振りほどこうとする。その抵抗は激しく、ラピスを容赦なく殴りつける。
そこへやってきた私も、ラピスから預かった杖を持っていない方の手でラミーヤを押さえつけつつ、この目でラミーヤの首元を見据えた。
間近でみたそこには、呪術の黒い光がある。あとは簡単だ。そこに私の魔力を送り込み、打ち消すだけ。
「……何で!?」
シグレの時は、簡単だった。魔力を送り込んで、マジックキャンセラーの要領で打ち消すだけで、それ以上の事はない。
でも、コレは違う。私が魔力を送り込んで干渉しても、その光は失われない。それどころか、私の干渉に怒ったかのようにその光が強くなった。
「うぅ!うあ、ああぁぁぁぁぁ!」
すると、ラミーヤが苦し気に声を上げだした。滅茶苦茶に動き出し、ラピスを更に激しく殴りつける。
「大丈夫だ……!シェスティアが、なんとかしてくれるから、もう少しだけ我慢しろ!」
ラミーヤに殴られても、ラピスはラミーヤを押さえつけたままそこを退こうともしない。いくら殴られても、私がラミーヤを救うまでそうするつもりなのだ。
……私は、何をひよっているんだ。
まだ、普通にやって上手くいかなかっただけである。もっと、もっともっと、この黒い光を消し去るための魔力を籠めれば、なんてことはない。消えるはずだ。
私は自分にそう言い聞かせ、強く魔力を解放し、その黒い光に干渉する。だけど消えてくれない。それどころか、ラミーヤが更に苦しそうになって泣き叫び始める。
ラピスが頑張ってるのに。ラミーヤが苦しんでいるのに。なんで。どうして消えてくれないの。
『──その呪術は、彼女の魔力の出所──つまりは魂に近い場所に根付いて彼女の精神を支配している。表側ではなく、内側に干渉を試みて消し去るんだ。君になら出来る』
突然、頭の中に声が響いた。過去にも同じような事があったっけと思う。でもすぐには思い出せそうもないので、私は頭を切り替えた。
声の言う通りなら、この呪術を消すためにはラミーヤの内面に干渉する必要がある。力ではない。技が必要だ。
「ふぅー……」
私は深く息を吐いて集中してから、ラミーヤの胸元に手を当てた。




