黒い光
生徒会室を飛び出した私は、当てもなく走る。ヒントも何もないのに、シグレ達を探し出すのにどれくらいの時間がかかるのだろうか。
「シェスティア、一体どうしたと言うのだ!」
駆けだした私に、しっかりとついてきてくれるラピス。
私の仮説を、彼女は知らない。私が慌てている理由も分からないはずだ。だから状況がつかめなくて、戸惑っている。
「シグレ達を探さないと!嫌な予感がするの!」
今は、ラミーヤの事を話す必要はないだろう。とにかく彼女達の無事を確認できれば、それでいい。
そう返事をして走り、ラピスも状況が分からないままでついてきてくれる。
でも、当てがないのは変わらない。早く見つけないけど、がむしゃらに走り回って探すのではさすがに効率が悪い。
早く彼女達を探し出すための、打開策を考えていた時だった。
「──中庭で、喧嘩だって!」
廊下の向こうから慌ただしく走って来た生徒の一人が、そう言いながら走り去っていった。
それを聞いて、私は足を止める。それを耳にした周囲の生徒の反応は、またかよと言った様子で若干呆れ気味だ。またかよと言われる理由は、私とディシアの決闘のせいだろう。
でもちょっと嬉しそうに情報をくれた生徒について走り去っていくんだから、この学校の生徒は娯楽に飢えているのかもしれない。
「喧嘩?シェスティア並みに相手を選ばずに喧嘩を売る狂犬が、この学校には他にもいるのか?」
「人聞きが悪い事を言わないでくれる?私、狂犬じゃないから。例えるな、可愛らしいワンちゃんだから。て、そんな事はどうでもいいから!」
私は失礼な事を言うラピスにツッコミをいれつつ、中庭に向かって走り出した。
あまりにもタイミングが良くて、嫌な予感が的中してしまった気がする。私の勘が正しければ、コレはただの喧嘩ではない。
胸騒ぎは、駆け出した直後に聞こえて来た爆発音によって、確信へと変わった。
爆発音が聞こえてくると、中庭に向かおうとしていた生徒たちは逆に離れようと、流れが変わった。その中をかきわけながら、私とラピスが中庭に辿り着くと、そこでは私の予想通りの出来事がおきてしまっていた。
「──咲き誇る光の花」
中庭にはラミーヤがいた。そのラミーヤが魔法を発動させ、その周囲に光り輝く花が出現する。それは花畑のようにラミーヤを取り囲み、葉が周囲を飛んで視界を遮る。
「このようなまやかし、余には通用せんぞ」
一方で、そんな花畑の中を歩み進み、炎の剣で一刀両断するディシアの姿がある。花畑には炎が燃え広がり、飛んでいた葉にも燃え移ってその勢いを失った。
「やめてください、ラミーヤさん!」
「……」
ディシアの後方には、シグレがいる。シグレは珍しく声を荒げてラミーヤに訴えかけているけど、ラミーヤはそんなシグレを意にも介していない。完全なる無視を決め込み、ディシアを睨みつけている。
3人の周囲は、滅茶苦茶だ。校舎の一部は大きな衝撃が加わった事により、崩れて風穴があいている。地面も所々が抉れ、木も何本か倒れてしまっている。それらは2人の戦闘の傷跡だ。
「ラミーヤ!一体何をしているのだ!」
そんな状況を前にして、ラピスが叫んだ。
それでもラミーヤは目を向ける事もなく、手をあげてその手に魔力を集中させる。
「え……?」
その姿に、私は一瞬引っ掛かった。
ラピスがラミーヤを呼んだ時、一瞬。ほんの一瞬だけ、ラミーヤの首元に黒い光が輝いたのを発見したのだ。それは、シグレにかかっていた呪術に似ていたと思う。
「幻惑の蝶」
その正体を確かめたい所だけど、ラミーヤは止まらない。ラミーヤの手の先に、どこからともなく光の蝶がたくさん飛んできて、ラミーヤもろとも包み込む。
その蝶は、私が見たあの蝶だ。それを目にして、決闘を邪魔してきたのはやはりラミーヤだったのだと確信を得る。
集まった蝶達は、ラミーヤを包み込んでやがてある形を作り、その姿を変化させた。
細長の、首。ずっしりとした胴体。鋭い爪をもつ、手足。長い尻尾に、体中を覆う鱗。そこに現れたのは、龍だ。
「中々やるではないか。しかし、龍に化けるとは愚かだ。その昔、帝国が龍の一対を滅してその力を世界に示した事を、知らんのか?」
龍を前にし、ディシアは嬉しそうに笑った。
私の目から見ると、その龍は凄い迫力だ。威圧感でどうにかなってしまいそう。だけどアレからは不思議と重量を感じない。また、声も出さないのでやや迫力に欠ける部分はある。
とはいえ、やはり龍だ。あんなデカイのに、小さな人間が敵うとは思えない。
ラミーヤが、いったいどういう魔法で龍へと姿を変えたのか、理由は分からないけどちょっと怖すぎ。私があんなのと対峙したら、チビって逃げ出すところである。
「ふははは!行くぞ、龍!この余の剣を受けてみよ!」
しかしながら、帝国のお姫様は嬉しそうに笑いながら龍へと突撃をはかっている。このお姫様、頭のネジが飛んでおかしくなっているんじゃないの。
そんなディシアに対し、龍が口を開いた。そこに魔力が集中し、赤い光が収束していく。そして、炎が吐かれた。炎の威力はすさまじく、離れている私にまで一瞬にして熱気が伝わって来る。
「──吹き荒れる暴風」
ディシアに迫り来る炎が、風によってせき止められた。風は緑色の光を発しながら、すさまじい威力で炎を防いでいる。ぶつかった衝撃で、周囲にも風の影響が出る。校舎の窓ガラスが大きく揺れて割れ、木々や茂みの葉が吹き飛んでいく。
更に、先ほどラミーヤが発動させていた、視界を遮る光の花畑をも吹き飛ばした。
魔法を発動したのは、シグレだ。ディシアとその後方にいる自分を守るようにして炎を防ぎ、ラミーヤに牙をむいたのだ。
「やるではないか、シグレ。この炎を防ぐとは、さすがはシェスティアの妹だ。我が妹としても相応しい!」
「っ!誰が、貴女の妹ですかっ!」
シグレはディシアの発言に怒りながら風に力をこめ、炎を押し返した。龍が放った炎は後退し始め、風が段々と龍へと迫っていく。
「だが、手柄を取られるのも癪だ。後は余に任せるがよい!」
そう言うと、ディシアが龍に向かって飛び掛かった。風を利用し、風の中を通って迫っていく。
と、龍に変化が表れた。突然龍全体が黒い光に包まれると、炎の色までもが黒い物へと変化したのだ。
この光、やっぱり間違いない。シグレにかかっていた呪術と、同じ系統の物だ。それが龍に力を貸し、シグレの風を押し返して迫って来ていたディシアを、逆に飲み込もうとしている。
「なにっ!?」
ディシアは不意をつかれた。決闘の時、私が彼女に不意をつかれたように、今度はディシアが油断してその隙を突かれてしまったのだ。
私は咄嗟に、戦いに介入すべく魔力を放った。せっかく懐いてくれたディシアが目の前で殺されるのは、嫌だ。彼女を守るため。その後ろにいるシグレも守るため。私は彼女達を守る事の出来る魔法を、頭の中にパッと浮かべてそれを発動させた。
「聖なる光に守られし安全地帯<ホーリーライトフィール>!」
私の魔法が、ディシアとシグレを包み込んだ。白く光り輝く壁が、障壁となった風を飲み込んだ黒い炎から彼女達を守る。炎は白い光とぶつかると、急激にその勢いを失って衰え、龍の口に集中していた魔力が霧散した。
「助かったぞ、シェスティア!」
「お姉さま、ありがとうございます!」
「ふぅ……。どういたしまして」
2人が口々にお礼を言ってきて、それに答える私。
この時はまだ、自分が何をしてしまったのか気づいていない。
「君たち、随分と楽しそうにやってるじゃあないか。昨日の今日で、まだ暴れたりないのか?」
そんな呑気そうな声が、私の背後から聞こえて来た。
振り返ると、そこにいたのはエフテニーリャ先生だった。彼女はぽりぽりと頭を掻きながら、気だるそうにふらふらと歩いて私の肩に手をかけてくる。そして体重をかけてその場に立った。重い。
「喧嘩は、そこまでにしてねー。これ以上続けるというなら──」
先生が言い終わるより前に、龍がディシアに向かって飛び掛かる。
そんな、戦う意思を捨てない龍に向かい、先生が魔法を発動させた。
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