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早とちり


 ノックしたけど、反応がない。聞こえなかったのかなと思い、今度は強めにノックするけど、やっぱり反応はない。

 どうやら留守のようだ。


「留守、か」


 それを確認すると、ラピスが扉に手をかけて開けようとする。だけど鍵が閉まっているので、鍵に引っ掛かって開く事はない。


「生徒会って、もしかして仕事してないの?放課後にいないとか、おかしくない?」

「そうだな。響きはカッコイイが、どうやらあまり真面目に仕事をする連中ではないらしい。扉をぶち破って、中を荒らしてやろうか」


 杖を構えて乱暴な事を言うラピスに、私も若干賛成気味である。喧嘩を売って来たのは、プレタス先輩だ。勿論そんな事をしたのがバレない事が前提だけど、私はそれをよしとしてしまうくらい怒っているんだ。


「よし、ラピス。やっちゃえ」

「よし来た!この我の魔法をとくと……え。本気か?本当にやるのか?」

「うん。やっちゃって」

「……」


 私が許可を出すと、ラピスはひよった。

 私とは違い、ラピスは冗談のつもりで言っていたようだ。

 コイツ、やべぇ。ラピスの引き気味な視線から、そんな気持ちが伝わってくるよ。

 でも言ったからにはやってもらう。やっぱりやめましょうなんて、そんな意見を私は認めない。


「こらこらこら。なに物騒な事を話してるかな、君たちは」

「ひぃっ!?」

「っ!?」


 とそこへ突然、背後から話しかけられた。驚いたラピスが声をあげて驚き、私に抱き着いて来た。一方で私は冷静だ。ほぼ、ノーリアクションでいる事ができたよ。ほぼ、ね。

 振り返るとそこにはプレタス先輩がいて、彼女は私達の会話を聞いていたみたい。ちょっと怒っている。というか、呆れているのかな。

 彼女の登場に、驚いたラピスだけど次の瞬間にはほっと息を吐いて安心したような仕草を見せた。私はむしろ、ふんぞり返って睨みつけたよ。だって私を怒らせた本人のご登場だからね。


「プレタス先輩に、お話があって来ました」

「えーなにかなー?……もしかしてシェスティアちゃん、怒ってる?」


 分かってるくせに、白々しい。私はその返事が気に入らなくて、更に目つきが悪くなってしまったと思う。


「あまりシェスティアを刺激しない方が良いと思うぞ、ロリコンの先輩よ。全て、貴様がやったのだろう?シェスティアは全てを悟っている。下手に隠し立てをすれば、それは余計に貴様の首を絞める行為となるだろう」

「……本当に、分からないんだけど。あと私、ロリコンじゃないから。小さい物が好きなだけだから。シェスティアちゃんとラピスちゃんは、どストライクです」

「それがロリコンだと言っているのだ!」

「ここで立ち話もなんだから、入って話そうか。その方が、言いたい事を言いやすいでしょう?」


 先輩はそう言うと、ポケットから鍵を取り出して扉の鍵穴にさした。生徒会室の扉にかかっていた鍵はそれにより解かれ、扉が開け放たれる。先輩は先導して中へと入っていき、扉は開け放たれたままだ。

 私は迷わず彼女に付いて中に入った。続いてラピスも入って来て、ラピスはしっかりと扉を閉めてから私を追いかけて来る。


「遠慮なく座ってね。今お茶を淹れるから」

「結構です。ソファも、お茶も」


 座るように促され、ラピスがソファに座ろうとしたけど、私はきっぱりと断った。それにより、座ろうとしていたラピスは戻って来て、私の隣で気を付けをする。


「そうだ。そういえばまだ、言ってなかったね。シェスティアちゃん。ディシア様に勝利、おめでとう。貴女は一躍この学園のヒーローよ。特に、私にとってはね」

「……しらばっくれないでください。単刀直入に言うけど、私とディシアの決闘を邪魔しましたよね?」

「邪魔?私が?してないよ?」

「だから、しらばっくれないでください。私は貴女の魔法を、この目で見ているんです。嘘は通じませんよ」

「いや、んー……本当に私、何もしてないよ?そもそも生徒会の仕事があって、決闘見に行けなかったし」

「……来てない?決闘に?」

「うん。行ってないよ。だから邪魔するのは、無理」


 そう言いきられると、なんとも言えない。私は決闘場で先輩の姿を見ていないし、そもそも来ていないのだとすれば、先輩の言う通り邪魔をするのは不可能だ。

 でも、あの蝶は?前に見た時は先輩に止まっていた。だからあの蝶は、先輩の魔法による物のはず。


「どういう事だ、シェスティア。このロリコンの人が犯人ではないのか?」

「嘘をついてる可能性はある。けどそう言われると、私も自信がなくなってきた。あの蝶は、プレタス先輩の物じゃない?だとすると、どうしてプレタス先輩はディシアが寮に帰って来たと分かったんですか?」

「貴女達がうちの寮に来た時の事?アレは気配を感じたからだよ。実は私、気配に凄く敏感なんだ。それから、気配を消して人に近づく事もできる。魔法の一種ではあるけど、これって魔法と言ってもいいのかな。どちらかというと特技みたいなものね」

「特技……」


 先輩が嘘を吐いている可能性は、ある。でも先輩が嘘を吐いているようには見えない。

 私は自分の考えが、浅かった事に気づかされた。蝶は、ただ単に先輩に止まっただけ。魔法が発動する所を見た訳ではない。私は何も、確証を得てすらいなかった。それなのに先輩が犯人だと決めつけて乗り込んで、本当に愚かだよ。愚か者だよ。

 でもそもそも、先輩が事故に見せかけてディシアを殺してくれとか、そんな事を言ってくるのも悪い。その事が頭に入ってしまい、私は確証を得ていない事にも気づかず暴走してしまったのだ。

 と言い訳をしてみるものの、どう考えても私の早とちりである。でもそれじゃあ、一体誰が妨害をしてきたというのだろうか。


「もし私が嘘を吐いていると思うなら、生徒会のメンバーで何人か一緒に仕事をしてた子がいるから、その子達に聞いてみるといいわ。なんだったら呼ぼうか?」

「いえ、そこまではいいです。とりあえずは信じます。でもそれじゃあ先輩は、邪魔をしてきたのは一体誰だと思いますか?」

「前にも言ったと思うけど、帝国の敵は多い。そんな帝国のお姫様が、帝国を離れて遠いこの国の学校に通っているんだよ?過激な連中にとっては好機で、その好機を逃すまいと仕掛けるキッカケになってしまったんじゃないかな」

「でもディシアは最初、偽名を使っていました」

「て言っても変装している訳じゃないし、情報はどこからかもれるものだよ。というか本人自ら皆の前で堂々とバラしてたし。でももしかしたら、貴女達が入学する前に、この学校の中に情報を流した人がいるのかもしれない。その情報を得た人が隙をみてディシア様をどうにかしようと間者を潜り込ませておいて、決闘を邪魔してきた可能性もある。あくまで可能性の話だけどね」


 話を聞いて、帝国がどれだけ嫌われているかが分かった。ディシアが引き返せない場所にいると言った、その理由もよく分かった。

 そして肝心な、決闘を邪魔した犯人についてだけど、私は1つの仮説を頭に浮かべている。先輩は蝶を見た訳ではないから気づいていないみたいだけど、私はハッキリと見た。あの蝶は、絶対に魔法だ。という事は、魔法を操る術者も傍にいるはず。ディシアに初めて会いに行ったあの場にいて、闘技場にもいた人物となると、その数は少ない。

 私か、シグレか、ラピスか先輩か、ラミーヤだ。

 まず、私ではない。先輩でもない。シグレはあんな魔法を使えない。残るのはラピスかラミーヤだけど、ラピスはその性格上、決闘という場を荒らすような事はしないだろう。

 となると残るのはラミーヤだけで、ラミーヤが決闘を邪魔してディシアを殺そうと企んでいたという可能性に辿り着く。

 もちろんこれは、仮説だ。先輩を疑ったのと同じで、確証はない。でももしそうだとすると、ラミーヤの方をシグレとディシアに任せたのは大きな間違いだ。


「お話ありがとうございました!」

「シェスティア!?」

「ああ、ちょっとー!」


 私はいてもたってもいられなくなり、踵を返して生徒会室を後にした。

 突然の私の行動に、先輩が驚いている。だけど構わずに走る。ラピスも慌ててついてきて、2人で生徒会室を後にした。

 向かうのは、どこかにいるラミーヤと、シグレとディシアのもとだ。


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