勝敗とその後
ディシアの公開告白は、その場を大いに賑わせた。帝国のお姫様が、同世代で同性の女の子に告白したんだから、そりゃあ盛り上がる。
でも私は、大きな声できっぱりと断らせてもらった。
『ディシアのお嫁さんとか、絶対に無理だから!』
その答えを聞いたディシアは、とてもショックを受けていた。顔を歪ませ、今にも泣きだしてしまいそうな悲痛な表情は、忘れられない。
てっきり怒って力づくで来るかなとも思ったけど、そうはならなかった。それくらいショックだったんだね。ディシアもやっぱり、帝国のお姫様である前に人間だなと思ったよ。
決闘の方は、ディシアが私に告白し、私がそれを断ったと言う形のせいか分からないけど、私の勝利という事になった。
そう決めたのはエフテニーリャ先生で、ディシアもその裁定に文句を言わなかったので、確定。適当な勝敗の決め方だけど、何故か観客たちもその裁定に文句を言わず、勝利した私に大きな歓声が送られて決闘は終わった。
後で聞いた話によると、あの決闘場には来賓としてエリシュさんもいて、私の戦いっぷりを見ていたらしい。決闘のその日に報告したら、見ていたと言われて驚いた。
更に驚いたことに、次の日から私を無視していた皆が、私に話しかけてくれるようになった。皆が私を無視していた理由は、私が帝国のお姫様と対立していて、それに巻き込まれたくなかったからだからね。決闘を終え、ディシアに勝利した私を怖がる理由は、皆にはなくなった。
というか、そのディシアの態度の変化が一番大きいのかもしれない。
「──シェスティア!貴様、何か欲しい物はないか?よければ今度この余がプレゼントしてやろう。何でも言うが良い!」
「あー、うん。今のところはないかな……」
「そうか!ならばできたら言うが良い!余にかかれば、なんでも手に入ってしまうからな!ははは!」
「はははー……」
ディシアが、私に懐いた。
クラスが違うのに休み時間にこうして私のクラスに訪れ、私に付きまとってくる。いや、それは別に良い。あのつんつんとした態度だったディシアが、闘って互いを認め合うようになり、こうして好意を寄せてくれるのは展開的にも熱くて、何より素直に可愛くて嬉しい。
今だって、私の机の上に顔をのせ、イスに座ってる私を上目遣いで覗き込んでくる姿は、昨日までの傲慢なディシアとは思えない。思わずその頭を撫でなくなるよ。
「……」
「し、シグレ。目が怖いぞ。あと、次の授業で出ていた宿題を写させてくれ。うっかり忘れていた」
問題なのは、シグレだ。シグレは私にベタベタと付きまとうディシアを静かに睨みつけていて、その目には冷たい殺意を感じさせる。
たぶんディシアに嫉妬しているんだと思う。私に懐いたディシアを、シグレはよく思っていない事は見るからに明らかだ。その内喧嘩が始まりそうで、私は今からひやひやものだよ。
その空気を感じ取ったラピスが、シグレをたしなめつつ宿題を写そうとしている。いや、シグレをたしなめるのはいいけど、宿題を写すのはどうなんだろうと思うよ。
「ディシアさん!」
隣の席に座っていたシグレが、突然勢いよく立ち上がってディシアの名を呼んだ。
ついにシグレが我慢できなくなったのかもしれない。私は慌てだしながらも、その行動を制する事は出来なかった。
「ん。なんだ、妹よ」
「いっ……。私は貴女の妹ではなく、シグレです」
「そうか。ではシグレよ。余に何の用だ?」
「お姉さまとくっつきすぎです。少しは自重していただけませんか?」
「あの……宿題……」
「自重?余が?バカらしい事を言うな、シグレよ。余が自重する事などありえん。余は自分の好きな事を、好きなようにするだけだ」
「その好きな事で、貴女が皆の前で告白した相手が迷惑しているんです。お姉さまを見て分かりませんか?朝から貴女に付きまとわれて、こんなに困った顔をしています。嫌われたくなければ、自重してください」
「宿題を……」
「何を言うかと思えば……余が迷惑だと?はっ。そんな事ある訳がないだろう。……ないよな、シェスティア」
迷惑である訳がないと言いつつ、ディシアは私の方をちらちらと見て不安げにしている。ここで迷惑だと言ったら、泣いてしまうんじゃないだろうか。
「迷惑。ですよね、お姉さま」
「えーっと……」
一方でシグレは、私の方に冷たい視線を送って同意を求めて来る。
その目、怖いよシグレ。まるで脅迫だよ。
迷惑だと言えばディシアが傷つき、迷惑じゃないと言えばシグレが怒るかもしれない。そんな状況に板挟みとなり、私はどうしたらいいのか分からなくなって考えるのを止めた。
「し、シグレは可愛いなー。ディシアも、凄く美人さんだよね。二人が仲良くして揃ってると絵になって、目の保養になって私嬉しいなー」
「何?」
「お姉さま……」
頭を空っぽにしすぎたかもしれない。あまりに脈絡もなく私がそう言うと、2人は黙り込んでしまった。
「そうか。目の保養になるか。ならば仕方がない」
「ええ、そうですね。お姉さまがそう言うなら」
一瞬不安になったけど、全然平気だった。2人は互いに身体を寄せ合い、先ほどまでの険悪な雰囲気を吹き飛ばして仲の良い姿を見せてくれる。
2人とも、ちょろい。ちょろすぎるよ。不安になるレベルで。
「宿題、写させてくれ……」
そう呟き続けているラピスだけど、その願いは叶わなかった。休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り響き、次の授業が始まろうとしている。宿題を写そうとしていたラピスのたくらみは失敗に終わり、次の授業でラピスは先生から怒られる事になるのだった。
ディシアの登場によって混乱した私の学校生活だけど、こうして平和的に解決して楽しい日常が戻ってきている。
だけど、いくつかの問題は残っている。1つ目は、私とディシアの決闘を邪魔してきた人物への抗議をしなければいけない事。別にしなくてもいい事だけど、しなければ気が済まない。2つ目は、ラミーヤだ。ラミーヤは他の生徒たちとは違い、決闘後も私を無視し続けている。おかしいのは私だけではなく、ラピスや他の生徒たちに対しても無視している事だ。そのおかげでラミーヤは早くもクラス内で孤立気味となってしまい、誰も話しかけなくなっている。
初日は、感じのいいふわふわとした女の子で人気がありそうだったのに、一体どうしたのって感じだよ。キッカケは私とディシアの件なんだろうけど、それが解決した今無視され続ける理由が分からない。それどころか、無視されるのが私から拡大する理由も分からない。
それらの問題を解決すべく、私達は放課後に動き出した。
まず私は決闘の邪魔をした人物への抗議をしに、生徒会室を訪れた。
「くくく。ここが生徒会室。ここにあのロリコンの副生徒会長がいるのだな?」
「うん」
私と一緒に生徒会室に訪れたのは、ラピスだ。
ラミーヤの方は、シグレとディシアにお願いして話を聞き出すようにお願いしてある。任せて不安はあるけど、これ以上悪いようにはならないと思うから、問題はないと思う。
ラピスはラミーヤに無視されると精神的に辛そうなので、こうしてこっちに付いて来てもらったのだ。
「しかし本当なのか?副会長があの決闘に介入したと言うのは。我には何も分からなかったぞ?」
ラピスは私が魔力を目で見る事ができる事を知らない。
あんな誰も気づかないような微量な魔法で、どうやってディシアの炎の剣を消し去ったのか、その方法は分からない。けど、あの魔法と同じ魔法を使う現場を、私は見ている。その上で、介入するからディシアを殺してとかお願いして来る人なんだよ。怪しさは天井を突き抜けて確定している。
「間違いない。あの人が、決闘を邪魔してきたんだ。文句を言わなきゃ、私の気が済まない。……付き合いたくなければ、本当に一人でも平気だよ?」
「案ずるな。我はシェスティアの友である。友を一人で敵地へ赴かせるのは、真の友ではない。しかし良いのか?シグレとあのお姫様を一緒に行動させて。我としてはそっちのほうが心配なのだが。それに、ラミーヤから話を聞き出すなら我もいた方が……いや、無視されるだけかもしれないが」
「とりあえずラミーヤは、あの二人に任せておこう。私達がすべき事は、抗議だよ」
「ふ。抗議なら我に任せておけ。そういうの得意だ」
その真偽はさておいて、一応は期待しておこう。
そして私は、生徒会室の扉をノックした。




