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決闘 その3


 ディシアは強化魔法を使えない状況だと言うのに、それからは徹底して近接戦を仕掛けてくる。正直言うと、強化魔法を使わなくてもディシアは早い。とてもではないけど人間が出来るような動きじゃない事を、平然としてくるんだ。

 もしかしたらこの世界の人って、魔法なんて使わなくても前世の世界の人よりも運動能力が高いのかもしれない。と、今更ながらに気が付いた。


氷の矢(アイスアロー)!」


 だって、見てよ。

 私が放ったいくつもの氷の矢。それがディシアに向かって飛んでいくんだけど、ディシアは片手で側転しながらそれを避け、更にジャンプをすると自分の背と同じくらいまで飛び、その上当たりそうになった氷の矢は炎の剣を振り払い、たった一振りでいくつもの矢を落としている。

 彼女は今、私の魔力の領域の中にいる。この中で強化魔法は使えない。自力でやってのけているのだ。どう考えたって、人間じゃないよ。

 いやでもディシアに押さえつけられた時、彼女にかかっていた強化魔法を解除したら、意外とあっさり振りほどく事ができたな。もしかしたら、筋力はそれほどでもないのかもしれない。或いは、実は私が力持ちなのかのどちらかだ。


「いくぞ、メスガキ!」


 氷の矢をかわしながら、ディシアが段々とこちらへと迫ってくる。


行く手を阻む氷の壁(アイスエジェクト)降り注ぐ氷塊(ヤーパラレイン)!」


 ディシアの進行方向に、氷の壁が出現してその行く手を阻んだ。しかしディシアは炎の剣で一閃。その壁を溶かし斬り、こちらに進もうとする。

 しかしその上空に私が発動した魔法による、氷の塊が出現している。それは最初小さかったのに、魔力が収縮して一気に巨大な氷の塊に変化し、重力に引っ張られるようにしてディシアの頭上から落下し始めた。

 初め、ディシアは間に合うと思ったのか、目の前に出現した氷の壁を更に斬り刻み、頭上の氷塊を放置してこちらに突撃しようとしていた。だけど更にもう一枚私が壁を作り出した事により、反転。すぐに後方へ飛び退いて氷塊を避けようとする。


行く手を阻む氷の壁(アイスエジェクト)


 だから、その撤退する方にも壁を作ってあげた。更についでに、左右にも。四方に氷の壁を作った後は、空から降り注ぐ氷塊によって蓋をする。

 逃げ場を失ったディシアは、あわれ氷塊に潰されぺしゃんこになるわけだ。かわいそう。


「──踊り狂う炎(バーテンフィオガ)!」


 でもディシアはそう簡単に負けてくれる子じゃない。

 四方を氷の塊で囲まれたその中から、突如として炎が巻き起こった。氷の壁を打ち破った炎は、まるで宙を浮く蛇のように飛び回り、それから頭上から降り注ごうとしている氷塊と衝突。炎はその氷塊をせき止め、炎に熱せられた氷塊は段々と小さくなっていく。その後に、氷塊は炎に飲み込まれて打ち消されてしまった。


「うわぁ……氷の身代わり(アイスアヴェージ)


 コレも簡単に打ち消されてしまうのかと、私は声を漏らして感心した。いや、むしろちょっと引いたかも。

 そして引きついでに、とある魔法を自身にかけておいた。コレはただの保険だから、今は特に何もおこらない。


「……」


 ディシアが放った炎は消え去り、私が放った魔法たちも消え去ってから、ディシアがこちらを睨みつけて来た。

 先ほどまでと変わらない、生意気そうな顔だ。でもその額から汗が流れて、ディシアの頬を伝った。息も少しあがっている気がする。

 もしかして、ちょっと疲れてる?


「あれだけの強力な魔法を数多く使い、何故平然としていられる……!」


 そしてそう尋ねられた。

 何故と言われても、私は別に疲れるような事をしていない。この場から一歩も動かず、迫り来るディシアを魔法によってかわしているだけだ。魔力を少しは消費しているけど、全然疲れるようなレベルじゃないよ。


「あれ?もしかしてディシア、疲れちゃってるの?」

「っ……!」


 私が挑発気味に尋ねると、ディシアは悔しそうに歯を食いしばって私を睨みつけて来た。

 どうやら本当に疲れているようだ。もしかしてコレ、チャンスなんじゃないか。

 余裕を隠せなくなるくらい消費している彼女を更に消費させて、もっと疲れさせよう。何も言い返せなくなるくらい疲れ果てさせ、それから言いたい事を言いまくってからトドメをさそう。

 私は見えて来た勝利の道筋を辿るべく、こちらを睨みつけているディシアに向けて掌を構えた。


氷の矢(アイスアロー)氷の矢(アイスアロー)氷の矢(アイスアロー)貫く氷の矢(ディガロスアロー)!」


 今がチャンスと踏んだ私は、魔法を狂ったように連打。疲れているディシアに向かって無数の氷の矢が飛んでいく。細い氷の矢の中に、どさくさにまぎれて大きな氷の矢も混ぜておいた。

 私はそれを、この場から一歩も動かずに眺めるだけ。疲れるはずがない。でもディシアは疲れる。

 最初はどうなるか分からなかったけど、どうやら勝てそうだ。こんな事なら、賭けておくんだったな。もし私が勝ったら、そのクソガキを改めて人にやさしくまっとうに生きていくと、そう要求しておくべきだった。


「お姉さま!」


 などと考え、油断し始めた時だった。スタジアムに響く歓声の中から、シグレが私を呼ぶ声を私は聞き取った。

 シグレが私を呼んだ理由は、私の身を案じての事だ。私は声の出所を探すのではなく、今対峙している相手の姿を見た。


「──爆発的な加速(エクスアクセル)


 氷の矢を持ち前の身体能力でかわしていたディシアが、魔法を発動させた。

 その魔法は、私に対する攻撃を意図したものではない。ディシアが足を踏ん張ると、その地面が爆発。その爆発をエネルギーとし、ディシアがたった一歩で一瞬にして移動してみせた。


「アイスエジェ──!」


 慌てて氷の壁を作って遮ろうとしたけど、ディシアは何度も足元を爆発させてフェイントをかける事により、私の魔法の狙いを定めさせない。

 そして気づけば、私は背後を取られていた。全てが一瞬過ぎて、マジックキャンセラーも攻撃魔法も追いつかず、そうなってしまっていたのだ。

 ディシアは元々、この魔法を使うつもりでいたんだ。この魔法を使って私を倒すつもりで、膠着状態を演出していた。確実にこの技が決まるようにタイミングを伺い、私が油断して隙を見せた所で、仕掛けて来たという訳だ。

 してやられたよ。ちゃんとこの目で見ておけば、魔力の動きに気づいて対策していられたかもしれない。完全に、私のミスだ。

 ディシアが手に持っている炎の剣が、私を切り裂こうと迫り来る。けどその剣は私には届かない。私にぶつかる直前で、出現した氷のバリアが炎の剣を受け止めたのだ。


「くっ!?」


 それは念のために発動させておいた、アイスアヴェージの効果によるものだ。アイスアヴェージは私に対する攻撃を、氷の壁によって一度だけ防いでくれると言う効果がある。

 良かったよ、念のために使っておいて。ホントに。しかもディシアは私がアイスアヴェージを使用した事に気づいていなかったようで、攻撃を防がれてとても驚いている。

 だけどのその壁はとても頼りなく、炎の剣とぶつかり合った事ですぐに引き裂かれそう。

 でもこの間が大切なのだ。攻撃を防ぎきる必要はない。あとはエリシュさんから習いたての、とっておきの攻撃魔法によってなんとかする。


「──氷の世界(アイスエイジ)


 その魔法が発動した瞬間、私の周囲の地面が凍り付いた。更には氷の壁とせめぎ合っているディシアにも氷がおよび、その剣と身体を凍らせようと襲い掛かる。

 だけど剣によってその侵食は防がれ、力と力がせめぎあって衝撃が生まれた。ディシアは氷の壁とアイスエイジを消し去らんと踏ん張り、更に剣の炎が熱く強く燃えさかる。私も負けない。アイスエイジに更に魔力を送り込み、ディシアを氷漬けにしようとする。

 両者、一歩も引かない。ここで引いた方が、この決闘の敗者となるだろう。


 でもそのぶつかり合いは、思いもよらない物によって終幕を迎えた。 


 私の目の前を、光の蝶が通り過ぎたのだ。その蝶は羽根を羽ばたかせてふわふわとディシアの剣の上に着地。その瞬間、ディシアの炎の剣が消え去った。


「っ!?」


 唐突に武器を失ったディシアは、せめぎあう力を失った。その身体に一瞬にして霜ができ、私の氷が襲い掛かる。

 私は慌てて魔法を解除したよ。そうした事により、ディシアに襲い掛かろうとしていた冷気は消え去り、私とディシアを遮る物がなくなった。

 それでまぁ、元々こちらに突っ込んで来ようとしたディシアを押さえる物がなくなって、私とディシアはぶつかることとなった。肉体的に。


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