決闘 その1
それからしばらく時間が経過し、放課後になった。
結局ラミーヤを引き込む事は出来ず、何もできなかったよ。それもこれも、先輩が話しかけて来たせいである。オマケに変な事まで話して来て、決闘前だというのにいい迷惑だ。
そして今私の目の前には、凄い光景が広がっている。広い広い空間のど真ん中に立ち、その光景に圧倒されている所だ。本当に広い空間で、たぶん野球場くらい広いんじゃないかな。作りもそんな感じで、円形のドーム状になった空間に合わせて作られた、壁。壁の上には段上に設置された観客席があり、壁の下の広場をどの席からでも見下ろせるようになっている。
観客席には人々が集まって座り、満席状態。全校生徒がいるんじゃないかなと思う勢いである。
場所は、学校の下。つまりは地下である。あの校舎の下に、こんな空間があったんだよ。普通は崩れるよ。信じられない。それを可能にしているのは、天井の光り輝く紋章だ。紋章は天井一面を覆い、下を明るく照らすのと同時に、この空間を維持する力を発揮しているものと思われる。
「コレは一体なんですか!?」
いや、この空間の事はこの際どうでもいい。私はここで、帝国のお姫様と戦うんだ。真剣勝負だ。正に相応しい場所だよ。
でも問題は、この観客たちである。こんな大衆の面前で戦えと言うのか。何も聞いてないし、こんなに人が集まる意味も分からない。
「何って……闘技場だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
抑揚のない声でそう答えたのは、私をここまで連れて来たエフテニーリャ先生だ。決闘の場所は闘技場で行うから付いて来てと言われ、ちょっとトイレに寄って水分も補給して、おやつも食べてからやってきたらこうなっていた。
「私が言いたいのは、どうしてこんなに人が集まっているのか、という事です!」
「仕方ないだろう。公衆の面前で、君と、帝国のお姫様であるディシアが戦うと言ってしまったんだ。注目されるのは当然で、人も集まる」
まぁ確かに、帝国のお姫様が戦うんだ。注目が集まって当然である。
「ふははは!見ろ、シェスティア!ここでなら自由に、思い切り魔法が使えるぞ!全てを破壊し、無に帰そうではないか!」
そんな闘技場に降り立ち、ラピスはテンション高めだ。高らかにそう言って、手にもった杖に本当に魔力を籠めている。
「お、落ち着いてください、ラピスさん!絶対ダメですよ!?ダメですからね!?」
そのラピスをシグレが慌てて止めにかかっている。
周りから無視されるようになり、寂しそうにしていたラピスだけど、少しは元気が出たようで安心したよ。でもね、テンション上がりすぎ。魔法でここを吹き飛ばすとか、冗談だとは思うけど危ない発想をしないでもらいたい。
「無観客で出来ないんですか?こんな大勢の前で戦うとか、私嫌ですよ」
特に、男の視線が嫌だ。離れているから割と平気ではあるけど、その視線が気持ち悪い。
「皆、それだけ君とディシアの試合に注目しているという事だ。いいじゃないか。観客のいない決闘は、それはそれで寂しいものだよ」
「そうは言ってもですね……」
これはいくらなんでも多すぎる。観客がいないと寂しいと言うのは理解できるけど、こんなトップチーム同士の試合レベルの観客数は、やりすぎだ。
プレッシャーなんだよ。見世物は、観客の数に比例してその分いい物でなければいけない。私と帝国のお姫様が、観客の期待に応えられるレベルの物になるのだろうか。
「ぐだぐだとやかましいぞ、メスガキ。余が戦うというに、観客がいなければ盛り上がらんだろう。さっさと準備して始めるぞ。観客に、早く余の雄姿を見せつけてやりたいのだ」
帝国のお姫様は、こんな状況の中でもやる気満々だ。彼女は注目を浴びるのが好きなのか、むしろこちらもテンション上がっている。
「どうしても嫌だと言うなら、仕方がない。皆には一旦解散してもらおう。それから日を改めて、その時は観客を入れずに戦えるようにする。めんどくさいけど、仕方がない。めんどくさいけど」
先生が何度もめんどくさいと連呼して、できればこのまま戦ってほしいと遠回しに圧力をかけている。
私としても、日を改めるのは面倒だ。そうするくらいなら、我慢してこの場で戦うよ。
「……ああ、分かったよ。やればいいんでしょ。私はいつでも始められるよ」
「ようやく覚悟が決まったか」
いよいよ、その時が訪れようとしている。決闘なんて初めての事で、しかもこんな大勢の人の前で戦うとか、緊張するのは当たり前。でもいざ覚悟が決まってしまえば、そんな緊張はどこかへと飛んで行った。
よく考えれば観客の期待に応える必要はないし、命の奪い合いという訳でもないし、勝っても負けても特に何もない。だから、何も気にする必要なんてないのだ。勿論出来れば勝って、帝国のお姫様のバカげた考え方を矯正できればそれが一番いいけど、たぶんそれは無理だろう。
「既に承知しているだろうけど、相手の命を奪うような行為は禁止だ。そのような行為が認められた場合、試合は強制的に止めさせてもらうからねー。そしてその者の敗北とする」
「命を奪い合ってこその決闘だが、仕方あるまい。では、始めようか」
お姫様はそう言うと、ゆっくりと歩いて私から離れていく。そして一定の距離の所で止まると、振り返って私の方を睨みつけ、魔力を解放した。
「いいよ。始めよう」
私も彼女の闘志に応えるように、軽く魔力を解放した。
そんな私達の様子を見たギャラリーが、どっとわいて歓声が響き渡る。
「それじゃあ私達も退避しようか。開始の合図は私がするから、それまでちょっと待ってねー」
「シェスティア。必ず勝て。お前なら勝てる!」
「お姉さま……。シグレはお姉さまの勝利を願っています。ご武運を」
先生がそう言って気だるそうに歩き出し、続いてラピスとシグレが私に声を掛けてから先生を追って歩いて行った。
残ったのは、私と帝国のお姫様。今からここで闘う、2人だけとなった。
「む。なんだ。戦うのはメスガキ一匹だけか。余はてっきり、他の二匹とともに来るかと思っていたぞ」
「貴女がそれでいいなら、そうさせてもらうけど」
「余は構わんぞ?」
「……冗談だよ。一対一でいい。それと、私の名前はシェスティア。メスガキじゃないから、その辺もよろしくね。ディシア」
「挑発のつもりか?余は名の呼ばれ方になど拘らん。しかし基本は、ディシア様だ」
「それじゃあ私も、シェスティア様でいいよ。ディシア」
私が挑発を続けると、空気が張り詰めた。ディシアがちょっと怒り、眉間にシワを寄せている。
別に彼女を怒らせたかった訳ではない。私はただ、メスガキメスガキと連呼されてむかつくので、それを止めてもらおうとしただけだ。その結果、彼女を怒らせる事になってしまった。
でもどうせこれから戦うんだ。多少挑発し合っていたほうが、決闘前の一幕としては相応しい。
「双方準備はいいかな」
少し離れた所に立った先生が、私達に向かってそう尋ねて来た。先生は審判として、このリング場に残るようだ。
私とディシアは、互いに睨み合いながら頷いて返事をする。
「それじゃあ、試合開始ー」
私達の返事を確認した先生が、やる気の無さそうな声でそう合図をした。その瞬間にディシアが魔法具によって炎の剣を作り出し、私を威圧して来る。
同時に魔力の塊を周囲に展開。いつでも魔法を発動させる事ができるよう、まずは備えた。このお姫様、案外冷静だ。まさかその行動が全て私に筒抜けだとは思いもしないだろうけどね。
私も、自身を中心として大きな魔力の塊を展開。いつでも魔法を使えるようにして、ディシアの攻撃に備えた。
そして戦いは、ディシアが私に向かって突進してきた所から始まった。




