依頼
休み時間になり、私は意を決してラミーヤに話しかけた。けど、あっさりと無視されてしまった。
目的は、彼女もこちら側に引き込む事である。その作戦は、無視される事によって失敗したかのように思えるけど、諦めるのはまだ早い。ならばと次の休み時間にも話しかけ、意地になって授業中にも話しかけたけど、完全なる無視である。
さすがに心が折れそうだけど、私は諦めない。昼休みになると彼女を尾行し、昼食中の所を襲撃しようと思い立った。この作戦にはシグレとラピスは加えず、私1人の単独行動によって決行されようとしている。
「こんにちは、シェスティアさん」
「ひゃわぁ!?」
学校の廊下を歩き、他の生徒達を盾にして襲撃するタイミングを見計らっている時だった。背後から突然声を掛けられた私は、大きな悲鳴をあげて周囲の注目を集める事になる。けど、皆私の声だと気づくと目を逸らした。尾行対象のラミーヤも、こちらに目を向けていたけど私だと分かると目を逸らして歩き出して行ってしまう。
追いかけようとしたけど、私に話しかけて来た人物によってそれは許されなかった。
「な、なんですか先輩。私ちょっと忙しいので、後にしてください」
「そうはいかない事情があるのよねー」
私の肩に手を乗せているのは、ロリコンの先輩──プレタス先輩だ。ツインテール姿の美少女だけど、小さい子が好きな変態である。その本性を、私はつい昨日垣間見た。
「……」
そうこうしている間に、ラミーヤの姿が見えなくなってしまったではないか。私の姿を見て、足早になった彼女を今から追いかけるのは難しい。尾行は、あえなく失敗である。
「……で、なんですか?くだらない用事だったら、私怒りますからね?」
「なんでちょっと話しかけただけで不機嫌なの?もしかして私、嫌われてる?」
「いいから、本題に入ってください。何の用ですか?」
「……貴女、大変な事になっちゃったみたいね。ルラさん……いえ、ディシア様と呼ぶべきかしら。ディシア様と決闘をする事になったみたいじゃない」
「そうですよ。だから、先輩も私には話しかけない方がいいです」
「私は生徒会副会長として、貴女に用があって来たの。放課後行われる貴女とディシア様の決闘に関しての注意事項を、説明しないといけないのよ。ルールでね。だからちょっと付き合ってくれるかしら」
帝国のお姫様の手紙は、全校生徒に届いているはずだ。それなのに堂々と私に話しかけて来る人物がいるなんて、おかしいと思ったんだよね。そういう事なら、納得である。
「分かりました……」
そして私が先輩に連れられてきたのは、生徒会室である。私のイメージする生徒会室と違い、かなり広い。高級そうな机とイスが部屋の一番奥の窓際にあり、その前には机とイスがいくつか立ち並んでいる。少し離れて応接用と思われるソファが置かれていて、私はそのソファの上に座らされた。
まるで、社長とその会社の重役が会議で使っている部屋みたい。いや、イメージ的にね。
「決闘する前に確認しておかないといけないんだけど、決闘はどこまで認める事にしたい?ちなみにディシア様の方は、何でもありの決闘にすると言っていたわ。武器は勿論、魔法の使用も可。命の奪取も可」
「命の奪い合いなんて、学校が認めるんですか?」
「認めない。だから、それは却下した。向こうの意向としては、武器と魔法の使用が認められた、真剣勝負にしたいっていう事だけど……」
「私もそれでいいです。という訳で、もういいですか?」
「まぁまぁ、落ち着いて」
早くラミーヤを襲撃したいので話を切り上げようとしたんだけど、先輩は食い下がって来た。
あと、お腹も減ったんだよね。決闘に備えて、ご飯をちゃんと食べておかないと力が出ないんだよ。
はっ。この人まさか、私を任せるために帝国のお姫様が送り込んできた、スパイなんじゃないだろうか。
「なんでちょっと睨んでるの?安心してよ。私は貴女の味方だよ。小さくて、可愛くて、食べちゃいたいくらいの味方」
「食べたい味方って、なんですか!?変な事言うなら、私もう行きますからね!」
よくよく考えたら、先輩と部屋で2人切りとか危険だ。スパイがどうのこうのなんて考えている場合ではなかった。
「ちょ、ちょっとだけ待って!少し話をしたら、すぐに終わりだから。大事な話がもう一個あるのよ」
「……」
怪しいけど、そう言われて私は仕方なくその場に居座った。
「決闘の相手は、あの帝国のお姫様だよ?帝国と言えば、剣術にも、魔法に関しても進んでる。特にディシア様は幼少の時から鍛えていて、帝国の武力を競う大会で何度も優勝してきた。大人が混じるような大会にもかかわらず、ね」
「……随分と詳しいんですね」
「ええ。だって私の両親は、元帝国人だから。そしてついでに言っておくと、帝国を潰そうとしている組織に力を貸している。だから色々と情報は入ってくるの」
「は……え?潰そうとしてるって……」
突然の告白に驚いた私に対し、先輩はニコリと笑いかけてきた。
それを見て、今彼女が言った事が本当なのかどうか分からなくなる。冗談……にしては悪質だし、本当だとしてどうしてそれを私に言う必要があるのか。
「潰そうとしてると言っても、過激な組織じゃないから安心して。あくまで平和的に、今の帝国の在り方に疑問を呈しているって感じね。だって、暴力に頼ってたら帝国と同じ事じゃない?」
「先輩も、帝国を潰したいと思っているんですか?」
「ええ」
即答だった。
先輩はたぶん、最初から帝国のお姫様の正体を知っていた。だから私に会わせるのを躊躇い、彼女の事を語る時の言葉も、少し辛辣だったんだ。
「それを私に話して、どうするつもりですか?」
「出来れば貴女には、あの子に勝ってほしい。ついでに言うと、殺してくれないかな?ああ。なるべく自然に事故を装ってくれれば、後はこっちでなんとかするから心配しないで。何か、とどめ用の魔法は使える?毒物がいるなら、言ってくれれば用意するわ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
いきなりこの人は、何を言い出すんだ。私がお姫様を殺す?事故を装って?しかも私が望めば毒も用意してくれるなんて、良心的だ。
うん。どこが平和的な組織だ。しれっと潰したい国のお姫様の暗殺依頼をしてくるとか、平和が聞いて呆れるよ。
「協力してくれるなら、貴女が勝てるように手伝ってあげる」
「……手伝いはいりませんし、私は彼女を殺すつもりはありません」
「どうして?帝国は人を人とは思わない扱いをする事によって、皆から嫌われている。ここで貴女が勝てば……彼女を殺せば、一躍皆のヒーロー。貴女を無視している連中も、その考えを改めるはず。貴女にとって、凄くいい話だと思うの。個人的にも貴女とは仲良くしたいと思ってるから、私の申し出を受け入れてくれたら嬉しいわ」
「お断りします」
私はきっぱりと言い切った。
真剣勝負に、外部の手伝いなどいらない。ましてや彼女を殺すように依頼され、それを受け入れるとかアホらしすぎる。
私はあくまで1対1で彼女と戦い、真っ当に戦うだけだ。命の奪い合いは、なし。これは揺るぎようがない。
帝国が嫌われてるから、そのお姫様である彼女を殺す?ホントに冗談じゃないよ。
「やっぱり、無理か。ごめんね、引き留めて」
「……話は終わりですか?」
「ええ」
「それじゃあ、もう行きますね」
「うん。ごめんね、変な事を言って。今の話は忘れてくれたら嬉しいわ」
先輩は意外とあっさりと諦めてくれたので、安心した。こんな物騒な話に、巻き込まれたくはない。さっさと出て行って、ご飯を食べて体力をつけておこう。
「──でも、私と同じ考えを持つ者が他にもいるかもしれない。この機会に、お姫様に消えてもらおうとしている人がね」
席を立ち、部屋を出て行こうとした時だった。先輩が最後にそんな事を言ってきたので、私は足を止めて振り返る。
すると、笑顔で私に手を振る先輩の姿がそこにはあった。一方的に言っておいて、話す事はもうないという意思表示に、私はちょっとだけ顔をしかめてからその部屋を後にするのだった。




