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──ボロボロの本


 メグルが私と友達となり、少しの時が経った。

 私は相変わらず周辺に住む子供たちから除け者にされ、メグルはメグルで畏怖の対象となっている。あの時以来、メグルは私を虐めようとした男の子に暴力的だし、私を除け者にする女の子に対しても敵対的だ。

 それは私のためで、私としては嬉しいけど、少し悲しくもある。メグルはそれさえなければ、誰とでも仲良くなれるはずだ。私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、やっぱりメグルには私という呪縛から解放されて欲しい。


「魔法を使えるようになって、自分の身は自分で守れるようになりたい?」


 いつも通り、家にやってきたメグルに対し、私はそう打ち明けた。

 パパとママには魔法を禁止されているので、相談できない。だからと言って同じ子供であるメグルに対し、こう相談するのはどうかと思うよ。でも恥ずかしながら、他に頼るべき人がいないのだ。


「う、うん。そうすれば、メグルに迷惑かからないし……」

「オレは別に迷惑じゃねぇよ。シェスティアを虐める奴らが悪いんだ。アイツ等、特にあの男。ディルエとか言ったか。妙にシェスティアに突っかかって来て、許せねぇ。顔を思い浮かべるだけで腹が立つ」


 メグルはそう言って拳を自分の掌に打ち付けて、怒りの表情を見せた。

 確かに、私を虐めてくる男の子の中でも、ディルエはかなり私に執着しているように思える。しつこいんだよ。そして私が涙を流そうと、近寄ろうとしてくる。気持ち悪いんだよ。


「あ、ありがとう。いつも助けてくれて、助かってる。でも私としては、やっぱり自分の力でも追い返せるようになりたいんだ」

「ふーん。まぁ気持ちは分かるけどな。オレも、誰かに守られたりなんかせずに自分の身は自分で守りたい口だ。お前と一緒でな」

「でしょ?だから私は、力が欲しいの。結構それなりにちゃんとした、力が」

「それで見出したのが、魔法って訳か。……分かった。お前がそう言うなら、家に良い物がある」

「良い物?」

「それが何かは、見てのお楽しみだ」


 何それ、凄く気になるんですけど。

 話の繋がりから考えて、それが魔法に関する物だというのは確かだ。でもどんな?気になるよね。


「なんなの?教えてよー」

「ダメだって。楽しみにしとけ」


 私はイスに座るメグルの後ろから抱き着いて、甘えるような声を出して耳元で囁いたけど、彼女は頑だ。教えてはくれなさそう。仕方がないから、ここは引いておこうか。


「ところでメグルって、どこに住んでるの?」


 ふと思い浮かんだ疑問だ。良い物を家から持ってくると言っていた辺り、家は当然あるのだろう。そしてしょっちゅう家に来る事から、この村に住んでいるのは間違いない。


「森の方」


 私の問いに、メグルは簡素に答えた。その答えから、あまり言いたくないんだなと感じる。もしかして、凄く貧乏でボロボロの家だったり、汚かったりするのかな。

 メグルの性格から考えて、後者かもしれない。この子、あんまり掃除し無さそうだから。

 そんな事があった次の日、家にやってきたメグルが早速、良い物とやらを持って来た。


「シティ!コレを見ろ!」

「何?うわ、ボロ!本?」


 机の上に置かれたそれを見て、私は咄嗟に身を引いた。だって、本当にボロいんだよ。ホコリはとりあえず取り払われているようだけど……その本の見た目は長い年月を感じさせる。触るのを躊躇うくらいに。


「この本に、魔法の使い方みたいのが書いてあるんだ。シティから本を借りるようになって、家にも良い本がないかなと思って探してみたんだけど、その時見つけたんだよ。ただ、オレが求めてる物じゃなかった」

「魔法の本!」


 家にある魔法関連の本は、私が魔力を解放したあの日にパパとママによって処分されてしまった。そんな状況下で、その本は私にとって求める物で間違いない。メグルの言う通り、本当に良い物だ。

 ついでに言っておくと、あの日からママはどこかへ出かけるようになってしまい、日中暇な時間はメグルと2人きりとなっている。今も家には私とメグルしかいなくて、メグルの訪問は結構楽しみにしてたりする。


「オレにはよく分かんねぇけど、良い物だろ?」

「うん!読んでみよう!」


 私はメグルと共に、机の上に置かれたボロい本の表紙をめくってみる。ペリペリと音がなり、破れないかが心配だ。でも思ったより頑丈そうで、とりあえずは平気かな。

 めくってみて、最初のページには本の名前が書かれていた。でもその文字は破れていて、中途半端にしか読む事ができない。その下の名前も途切れ途切れだけど、こっちの方が読めるかな。


「カラデシュ・アー……なんとか」

「誰だ?」

「知らない」


 知らないけど、その名を口に出して妙に胸がざわついた。本当に、全く聞いた事がないのに不思議だ。

 まぁ名前なんてどうもいい。肝心なのは、その中身だ。私はページをめくり、本の中身に目を通す。この本に書いてあるのは、魔法に関しての考察だ。小難しい事がキレイな文字で書かれており、とても読みやすい。でもやっぱり所々がボロボロで、読めない部分も多いな。


「うーん……魔法を打ち消す魔法の研究……。魔力に、強力な魔力をぶつけて上書きする事によって、対象の魔法を打ち消す事ができる。魔力は上手く操る事が出来れば、一定の距離を飛ばす事ができるので遠距離からでも可能となる。えと……なんとかかんとかで……理論的に、世界を魔力で覆いつくせばこの世から魔法を消し去る事も可能。そのために必要な魔力量は、八大賢全ての魔力を集めてもなお遠く及ばない……」


 破れている場所もあるけど、内容的にはそんな感じの事が書かれていた。

 私が求めていた物とは、少し違う。コレは魔法を使う事に関してと言うより、魔法を打ち消す事に特化した内容しか書いていない。ちょっと惜しい。


「とりあえず、八大賢ってなんだろう」

「……」


 もしかして、メグルなら知っているかもしれないと思って彼女の顔色を窺うと、メグルは少し嫌そうな顔をしていた。私に対してではないよ。本に対してだ。


「メグル?」

「……八大賢てのは、すげぇ魔術師の事だ。炎賢。氷賢……てな具合に、それぞれの属性に一人ずついて、合計八人存在すると言われている。奴らはすげぇ長生きで、その気になれば世界を滅ぼすくらいの力を有していると言われてることから、表舞台にまず出てこない。謎の人物の集まりだ。特に、闇と光の黒賢と白賢がヤバイらしい。もっとも、この二人に関しては顔も名前も誰も知らないし、存在するのかどうかも怪しいみたいだけどな。でも他は、ちゃんといるんだぜ」

「ふーん……」


 嫌そうな顔だったけど、メグルは知っている事を話してくれた。

 世界を滅ぼす力を持ってるとかヤバくない?個人でそんな力を持ってるとか、この世界かなり危ういよ。だって、たった1人がこの世界が嫌になってしまったら、その人の気分次第で世界中の皆と心中出来るって事だよ。

 いや、そうならないためにも、この本に書かれている魔法の打ち消しという技術は必要なのかもしれない。魔法さえ使えなければ、いくら凄い魔術師でもただの人。心中を阻止できるようになる。


「メグル、ちょっと魔力を解放してみて!」

「は?いやオレ、魔法が使えるってお前に言った事あるか?」


 私は本に書いてある事を試したくなり、八大賢の事は隅っこに置いて話を切り替えた。メグルもあんまり話したく無さそうだったしね。その話はもうお終い。

 そしてリクエストしておいてなんだけど、私だって魔力の解放の仕方を覚えたばかりである。それなのに同年代のメグルに対していきなり魔法を使えとか、無茶振りが過ぎたか。


「……使えないの?」

「使えるけどな……」

「使えるの!?」

「ちょ、ちょっとだけな。大したことは出来ないから、期待しないでくれ」

「見せて、見せて!メグルの魔法、見たい!そして教えて!私も魔法、使いたい!」

「だーかーらー。大した事は出来ないんだって!教える程の知識と技術が、オレにはない。だから無理!」

「じゃあ見せて!見るだけなら、いいでしょ!?」

「っ……」


 身近に、しかも同年齢で魔法が使えるメグルの存在は、大いに私の好奇心をくすぐった。

 私が我儘を言うようにしてメグルの顔に顔を近づけてせがむと、メグルの顔が少し赤くなった。見せてくれると言うまで、私は引かないよ。


「──ふーん。コレ、魔法の本なんだぁ。それで、メグルちゃんに何を見せてもらうの?魔法?」

「そう!メグルに魔法を見せてもらって、それで私も……」


 その声は、メグルの物ではない。では誰が私にそう尋ねて来たのかというと、それはママだった。机の上に置かれていたボロボロの本を持ち上げ、私を睨みつけている。

 私はママに、魔法は大人になってからと約束したばかりである。それなのに魔法を覚えようとしている現場を見られれば、さすがに怒るよね。


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