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喧嘩


 初めはね、真面目に謝ろうと。そう思ってたんだよ。

 プライドを投げうって、頭を低くして謝ろうと。だってそうしないと、シグレやエリシュさん等の、周りにも迷惑をかける事になるかもしれないから。

 でも現実はそう甘くはない。というか、相手が甘くなかった。

 放課後私はシグレを引き連れて、態度がデカくて一人称が余で、黒みがかった赤髪の女の子の下を訪れた。彼女は私が来るのを待ち構えていたかのように、教室の前で腕を組み、ふんぞり返っていたよ。


「──奴隷、奴隷って、貴女ちょっと頭がおかしいんじゃない!?こっちは真剣に謝ってるのに、それを赦さず二言目には奴隷として忠誠を誓えとか。バカみたいにも程があるんですけど!」

「バカだと!?貴様、言うに事欠いてこの余に向かってバカと言ったのか!?」

「言ったよ!だってバカじゃん!そんな態度を続けてると、いつか殺されちゃうよ?コレ、優しい私からの忠告。そうなりたくなければ、本当に改めなよ。バカを」

「素直に謝れば赦してやろうと思っていたのを、貴様は……!」

「いや、何度も謝ったし。それでも貴女は赦してくれなかったからこうなってるんだし。そもそも学校中の生徒に自分の正体をバラして、私を孤立させようなんていう魂胆がなんていうかもう……卑怯で卑劣で陰湿すぎて、小者感が滲み出てるんだよ」


 まぁ現在はこんな感じだよ。廊下のど真ん中で、私と彼女は言い争いの喧嘩をおっぱじめている所。

 周囲にはギャラリーも大勢いて、彼らにはこのお姫様からの手紙が届いているはずである。だけど誰が帝国のお姫様なのかまでは知らなかったはずだ。でもこの光景を見て、もう分かったよね。

 周囲は私達とは別の意味でヒートアップし、盛り上がっている。


「……余をコケにした貴様を、遠回しに追い詰めるための余なりの気遣いだ」

「何が気遣いだ。私に用があるなら、正々堂々私に直接言いなさい。自らの身分を隠し、偽名まで使ってこの学校にやってきたどこかの国のお姫様は、考える事が違うよ。基本陰湿。陰湿すぎて、じめじめしてきた」

「っ!」


 私の言葉攻めに、ついに偽メグルが我慢できなくなった。顔を真っ赤にして怒りに表情を歪める偽メグルの手に、魔力が集中。そこに炎が出現し、剣の形を作り出した。


「お姉さま、下がってください!」


 それに対抗するように、シグレが彼女に向かって両手を突き出した。こちらも魔力を解放させ、周囲に魔力を展開。彼女に対抗し、攻撃する準備を整える。

 先に攻撃してくると言うなら、仕方がない。私は自分の身を守るため、戦う必要がある。正当防衛というやつだ。


「シグレは下がってて。私なら大丈夫だから」


 私はシグレにそう語り掛け、シグレより一歩前に出て偽メグルと対峙する。

 言い争いになった時から、もしかしたらこうなるかもしれないという予想はついていた。私はあまり、上手く相手に譲歩できるようなタイプじゃない。そして相手も、譲歩できる立場ではなかったようだ。結果、互いの正義をぶつけ合って言い争うだけとなり、行き着く先は武力抗争。いつの世も、争いはこうして生まれてしまう。私は悲しいよ。


「先に言っておくが、余が生み出したこの剣は、触れた者を焼き切る。我が帝国に伝わりし秘宝によって生み出される、至極の名剣だ。コレで斬られればどうなるか、分かるな?」

「……」


 その剣は、魔法具で生み出されるという訳か。触媒となっているのは、彼女の右手の中指に嵌められている、指輪。シンプルな赤い指輪からは、彼女の魔力と合わさって見えにくいけど、魔力の光が溢れ出ている。

 確かに、厄介そうな武器だ。強力な魔力の光は、その武器の強さを示している。


「や、ヤバいって……」

「俺、先生呼んでくる」


 さすがに、武器を取り出した彼女を見て、ギャラリーも慌てだした。

 その様子は、前世で私が殺された時の状況と似ている。誰も私を助けてはくれないけど、この状況を助けを求めるべき大人に報告には行ってくれるんだよ。助かるけど、なんだかなぁという感じだ。

 でも今は、シグレが傍にいて私の側に立ってくれている。それだけでも気のもちようがかなり違くて、気が楽だ。


「──まてええぇぇぇい!我が友に刃を向けるとは、許すまじ!このラピスケイトも、参戦させてもらうぞ!」

「ラピス!?」


 ローブ型の制服を無駄にかっこ良く翻しながら現れたのは、ラピスだった。私達の様子を遠巻きに見守っていた生徒の中をかきわけ、こちらに向かって駆け寄ってくる。

 そして止まると、片手を自らの片目を覆うようにした上で、もう片方の手で持った杖を構えてポーズをとった。その大きな杖は偽メグルに向けられ、彼女と敵対する意思を示している。


「ど、どうして……」


 彼女は、偽メグルが帝国のお姫様と知り、今日一日私を無視してきた。てっきりこのまま無視されて、友達には戻れなくなると思っていたけど、その考えが間違いだった事が彼女の行動をもって知らされた。


「ラピスさん。帝国が怖くて、お姉さまを避けていたんじゃ……」

「アレは演技だ!我は大魔術師、ラピスケイトである。帝国など怖くない!特に!シェスティアの言う通り、自らを偽ってこの学校に潜んでいた陰湿な蛇など、恐れるに足りん!ふはははは!」

「ああ?」

「ひっ!?」


 高笑いをしながら登場したラピスだけど、偽メグルに睨みつけられて悲鳴を漏らした。やっぱり怖いんじゃん。だけど、それでも私の味方をするために声をあげてくれたのだ。嬉しくない訳がない。


「この学校には、阿呆しかいないのか?余に喧嘩を売ってただで済むはずがないだろう。貴様、何故その女に味方する」

「友の味方をするのに、理由などいらんだろう。我は大魔術師──」

「いちいちやかましい。まぁいい。余に歯向かうのであれば、その女と同罪だ。……覚悟はできているな?」

「ふ、ふははははは!覚悟などとうにできている!どこからでもかかってくるが良い!」


 ラピスはそう言いながら、どこか怯えている。

 そんなラピスに、手は出させないから安心してほしい。私は彼女から偽メグルの注意を引き付けるように、口の端を吊り上げて笑う。

 そんな私の表情が気に入らなかったのか、偽メグルの眉がピクリと動いた。そしてついに、彼女がこちらに向かって一歩飛び出し、襲い掛かろうとする。


「──いや、困るんだよなぁ」


 戦いが始まろうとした時だった。やる気のない声が聞こえ、偽メグルの足が止まった。


「貴様……!」

「エフテニーリャ先生……」


 彼女の足が止まった原因は、彼女の後ろにいる人物にある。

 一瞬だった。本当に一瞬、魔力の光が見えたかと思うと、次の瞬間そこに先生がいた。先生は偽メグルの背後を取ると、素手で炎の剣を掴み取り、偽メグルの動きを止めたのだ。

 いや、普通に熱いでしょ。何をしているのこの先生は。と心配する私をよそに、先生はしっかりと炎の剣を掴んで離さない。


「この……!」


 偽メグルが魔法で自分の筋力を強化し、掴まれたその剣を引き離そうとするけどビクともしていない。どうやら先生も、似たような魔法を使っているようだ。魔法による筋力強化の力比べでは、先生が圧倒している。


「困るんだよねぇ。君が何故偽名を使ってこの学校に入学したのか、その理由を思い出してほしい。いや、正体をバラすだけならまだいいよ。あまつさえ、級友に向かって刃を向けるとか、まともじゃない。そのデカイ態度を直さないだけじゃなくて、傷害や、殺人事件まで起こされたら本当に困るんだよ。分かる?」

「貴様が困ろうが、余の知った事ではない。いいから離せ、教諭。この女どもを斬り刻んでから、ゆっくりと話を聞いてやる」

「だから、それが困るって言ってんだよクソガキが」


 やる気のない声だけど、口が悪くなった。

 試験の時にもあった事だけど、その時よりも目つきが鋭い気がする。もしかしたら先生、ちょっと怒ってる?


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