再会?
私達に話しかけて来て、親切にしてくれた先輩が実はロリコンだったという話は、それから程なくして判明した。衝撃だったよ。美人で、仕事ができそうな女の人が、実は小さな女の子が好きな変態だったなんて……。人は見かけによらないと言うけど、まさにその通りだと思う。
私が握られた手を、シグレやラピスとラミーヤがさりげなく解き、距離を取らせてくれなかったら今頃どうなっていただろうか。考えると恐ろしいよ。
「いや、四人とも警戒してるけど、私そういうのじゃないから。ただ、小さな子が好きなだけだから。手は出さないから。愛でるだけだから。同じ女の子なんだし、愛でるくらいなら問題ないでしょう?」
真顔で、自分は正しいみたいに先輩は言われると、ちょっと反論し辛くなる。
手を出さずに愛でるだけなら……まぁ先輩の言う通り、同性な訳だし、問題ない気がしないでもない。現在の私達4人みたいに、過剰に反応して先輩から距離を取ってイスに座る必要はないのかな。
「いいえ、ダメです。お姉さまの手を握る彼女の手は、変態のそれでした。お姉さまが穢されないよう、警戒させていただきます」
「私はシグレちゃんも好きよ?愛でたい」
「この変態の言う事を聞いてはダメだ。近づかず、距離をとるんだ。次は、手を握られるだけでは済まないかもしれないぞ」
「ラピスちゃんの、その自信たっぷりな目が凄く好き。その目をトロトロに蕩かせたい」
「まさか、この学校の生徒会副会長ともあろうお方が、変態だったなんて……」
「ラミーヤちゃんのおっぱいに、顔を埋めたい。小さいのにおっぱい大きいとか、反則だよぉ」
私達4人をみる彼女の目は、最早変態そのものだ。やっぱり距離をとろう。
でも気になったんだけど、今ラミーヤが、この人の事を副会長って言ったよね。
「せ、先輩が、副会長?」
「ええ。ラピス先輩はこの学園で三年もの間副会長を務めている、有名人なんです」
「ほう、副会長。良い響きだ」
恐る恐る尋ねると、そんな返答が返って来た。だから、ラミーヤとシグレは彼女を見て反応した訳だ。私とラピスは全く知らなかったけどね。
「それがまさか、変態だったなんて……お姉さまの手を、あんなにやらしい手つきで握るなんて赦せない……!」
シグレは先輩に握られた私の手を執拗に触ってきているけど、その手つきは先輩と大して変わらない気がしないでもない。まぁこちらは可愛い妹に握られている訳だし、別に何とも思わないけど。
とまぁこんな感じで、先輩に対する私達の評価は一変。親切な先輩から、変態な先輩へとその評価はがた落ちしてしまい、現在に至る。
「はぁ……新入生の可愛い美少女達と、初日から仲良くなれるなんて。私はなんて幸せ者なんだろう。お茶が美味しい」
今の状況を、仲良くなったと言えるのだろうか。
でも恍惚とした表情を浮かべながらお茶を飲む先輩は、絵になる。これで変態じゃなかったら、憧れてしまう姿だ。
そんな事があったもんだから、すっかりメグルの事が置き去りになってしまった。別に忘れた訳ではないけど、慌てて会いに行こうと考える暇がなかったのだ。それに関しては、先輩の変態性に感謝である。
ちなみに目当ての人物は、まだ寮に帰ってきていないらしい。先輩が確認しに行ってくれたので、間違いない。
「……」
その先輩が徐に静かにコップを机の上に置くと、私達に向かって唇の前で人差し指をたて、静かにするように促して来た。
何事かと思うと、たてた先輩の指先に向かって光の蝶が飛んできて、そこに着地した。その瞬間に蝶は霧散し、消え去ってしまう。言うまでもなく、今のは魔法だ。たぶん私以外には見えていない。
「帰って来た。さっきも言ったけど、まずは遠くから眺めて判断する事。いいね?」
私達……特に私は、一気に緊張してきた。だって、久々にメグルと会えるんだもん。こういう時って、どういう顔をして会えばいいんだろう。
色々と考えている内に、その人物が私達が集まっている食堂の前の廊下に差し掛かった。どうやらその人物は、この食堂をスルーして自室に向かおうとしているらしい。一瞬だけ出入口の前に姿を見る事が出来て、すぐに姿を消してしまう。
その姿を見た私の感想は、間違いなくメグルである。自信満々に、颯爽と歩くその姿。鋭い目。髪は伸びたのか、肩下程まであったけど、しっかりと赤くて正にメグルだ。
「──メグル!」
気づけば私は声を張り上げ、その後を追いかけていた。
立ち上がった際にイスが倒れ、大きな音が出たけど気にしない。
行方が分からなくなったメグルが、どうしてこんな所にいるんだろう。今まで、どこにいたんだろう。パパとママがあの日死んじゃって……それから私、攫われて、今ではその誘拐犯と一緒に住んでるんだよ。そこで新しい家族ができたんだ。
あの日消えてしまった少女に、報告すべき事はたくさんある。空白の時間を埋めるため、話すべき事をたっぷりと話そう。
「メグル!」
私はその背中に追いつくと、名前を呼びながら勢いよく肩に手を乗せて振り返らせた。
けどその手首が掴まれて、かと思えば視界がひっくり返っている。もしかしたら世界がグルリと回って、天地がひっくり返った瞬間に遭遇したのかもしれない。
「グエッ!?」
かと思えば、背中に衝撃が走った。
世界が回った訳ではなく、自分がひっくり返っただけだと気づいたのは、大の字に寝そべって天井を見上げた時だった。
「何だ、貴様は」
「はっ……そうだ、めぐ……!?」
背中の痛みも忘れて立ち上がろうとしたけど、立ち上がれない。それは私の身体の上に少女が片足を乗せて来て、体重をかけているからだ。更に片手で顎と頬を包み込むように掴まれて、顔の位置まで固定されてしまう。かなり乱暴に力強く掴まれているため、私の顔は変形して変顔になっていると思う。
「メスの、子供か。余に何の用だ?答え次第では、この場で殺す」
「……」
今私に乗っかり、顔を掴んできている人物は、赤髪の少女だ。目つきは鋭いし、少しメグルに似ている。だけど、似ているだけ。髪の色はメグルの燃えるような赤髪よりも黒に近い赤だし、目つきもメグルの方がまだ可愛らしく、この少女の鋭さには敵わない。顔の大きさも、鼻の大きさも、耳の形も違う。
顔は動かせないので、目を必死に泳がせて周囲を見るけど、近くには彼女しかいない。状況的に考えて、私が肩を掴んで呼び止めたのはこの人で間違いない。どこからどう見ても彼女はメグルではないのに、彼女を求めるあまり、メグルと見間違えてしまっていたようだ。
「あうっ、はっ、はふっ」
「ふざけているのか?何を言っているのか全く分からんぞ」
そう言って私の上に乗っている偽メグルがあざ笑ってくるけど、それは貴女が私の顔を掴んでいるからだ。そう言葉で抗議する事すら許されない。
だから、私の顔を掴んでいるその手を掴み返し、どかそうとした。だけどそれが無理だという事は、すぐに悟ったよ。力強すぎ。びくともしないもん。どうして女の子がこんな怪力を持っているのさ。
その答えは、彼女が腕に帯びている光にある。恐らくは身体能力を強化する魔法をかけているのだ。
「──お姉さまの上から、どけええぇぇ!」
怒鳴り声が響いた。その声の主は、シグレだ。
同時に強烈な風が巻き起こり、廊下に突風が吹き荒れる。
「大丈夫か、シェスティア!今我が助けてやる!」
更にはラピスの声も聞こえて来て、目は向けられないので状況は分からないけど、2人が私の置かれている状況を見て怒ってくれている事が伺える。
このままいけば、この少女と2人との戦闘が始まってしまう。それはマズイ。別に私はそんな事を望んでいない。
「余と戦うつもりか?面白い。余が勝利した暁には、貴様らを戦利品として奴隷にしてやる。光栄に思えよ」
私の上に乗っている少女も少女で、凄く好戦的な目をしている。魔力を解放し、その光が溢れ出すのをこの目で見ているので、本気だという事も伝わってくるよ。
とりあえず、その魔法を消し去ろうか。この風は、たぶんシグレの魔法だよね。周囲に私の魔力を解放し、私は私の魔力内にある魔力に干渉すべく、行動を開始した。
掴まれて変形した顔のままで。




