先輩
という訳で放課後、まず私達は他のクラスを見て回る事にした。昨日校門で待ち構えた結果見つける事はできなかったけど、もしかしたら見落としているだけかもしれないからね。
それに、この中には寮生たちもいるだろう。授業が終わってすぐに教室を飛び出せば、まだ残っているという可能性を見出したのだ。
のだけど、コレは上手くいかなかった。私達のクラスのHRが思いのほか伸びてしまった事もあり、他のクラスに人はあまり残っていなかったのだ。委員長がクラスの事で色々と張り切り過ぎて、遅くなっちゃったんだよね。仕方がない。
しかし、寮生が向かう所は寮である。なので、全く問題ない。という訳で私達一行は、この学校の敷地内にある寮へとやってきた。
私達がやってきた寮は、四角いレンガの建物だ。校舎とは別で建っていて、いくつかの寮がこの学校には存在している。中の様子は簡単に覗く事ができない作りになっていて、各部屋の出入り口を外から見る事はできない。言うなれば、ホテルみたいな感じだね。まず建物に入るための入り口があり、そこから各部屋へとつながる通路があるようだ。
「ここが、ゴールデウス魔術学園の寮ですか。ココは……ザリット寮という名前のようですね。ザリットとは、何の事でしょう」
寮の前にたっている看板を、ラミーヤが読みながらそう尋ねて来た。
ザリットって、どこかで聞いた事があるな。ちょっと前に、ルナさんの授業で習った気がする。
「ふっふ。そんな事も知らないのか?ザリットとは、その昔この世界を蹂躙した悪しき竜の名前である」
「ああ!氷山の支配者!」
「その通り!中々博識ではないか、シェスティア!」
ラピスに言われて思い出した。ルナさんに教わった古典の授業で、その名前は出て来た。ラピスの言う通り、その昔世界を恐怖のどん底に陥れた竜の名前で、天災として恐れられていたんだっけ。なんやかんやで退治されたので、今は存在しない。
まぁ、なんていうか……ラピスが好きそうな話だよね。
「こ、この学校の寮には、昔存在した竜の名前がつけられているようです。ここザリット寮と、メルバタ寮。ハゼルトグラム寮。三つが存在します」
そう情報を加えてくれたのは、シグレだ。彼女も私と同じ授業を受けているので、竜の事は知っていただろう。
「おー、お前も凄いな前髪!」
「ま、前髪っ……」
「失礼ですよ、ラピス。シグレさんです」
「ああ、ごめんごめん。だって、前髪で顔が見えないから、つい」
シグレの事を前髪と呼んだラピスを、ラミーヤがたしなめるように言った。
シグレは前髪と呼ばれて戸惑っているけど、ラピスは別に悪口のつもりで言ったのではないと思う。その言い方からは、悪意を全く感じないからね。シグレも別にショックを受けた訳ではなく、ただ単に戸惑っているだけだ。
「まったく……すぐに軽口を叩く癖はよしてください。見ているこっちがヒヤヒヤするんだから。ごめんなさい、シグレさん。ラピスはこんなですけど、悪気はないんです」
「い、いえ。大丈夫です。私、本当に髪で顔が隠れてるので、仕方ないんです」
ラピスをフォローするラミーヤは、まるでラピスのお姉さんのよう。
この2人のパワーバランスというか、関係が、その様子からまじまじと感じられるね。
「そんなのいいから、中に入ろう。この先にシェスティアの探し人がいるんだろう?幾千もの時を経て、再会する時である」
「いや、そんなに年月たってないから。でも、入ろっか」
「は、はい、お姉さま」
シグレはゴーサインを出した私の背中に回ると、服を指先で摘まみながらくっ付いて来た。
まだ2人との距離感が上手く掴めないようで、2人との会話が恥ずかしいみたい。だけどそんな奥ゆかしいシグレがまた可愛いんだよね。
「貴女達、寮の前で何をしているの!」
「ひゃあ!?」
突然背後から大きな声を掛けられて、私達4人は一斉に驚きの声をあげた。
確かに大きな声だったし、完全に不意をつかれていたので驚くのは無理もない。私も驚いた。だけどラピスのように腰を抜かして転ぶほどではない。
「ご、ごめんね、驚かせちゃったよね。大丈夫?」
さすがにラピスの反応は予想外だったようで、声を上げた人物が慌ててラピスに駆け寄り、そして手を差し伸べてくれた。
「わ、わわ、我は、この程度なんともない。コレは、別にビビってないし……ただ、足の力が自然と抜けただけである!」
そうだね。ただ腰を抜かしただけだね。
強がりを言うラピスは、差し伸べられた手を拒否して手に持っている杖に体重をかけて立ち上がる。足、震えてるよ。
見ていられないので、ラミーヤがすぐに肩を貸して支えてあげた。
そして改めて声を掛けて来た人物を見てみる。彼女は私達と同じ制服に身を包んでいるので、この学校の生徒である事が分かる。まぁ学校の敷地内にいる時点で、警備員か教員化か生徒しかいない訳だけど。彼女は黒髪を白いリボンで左右で結び、ツインテールにしている。髪型自体は子供っぽい。だけど彼女の鋭い眼光や、大きな胸を中心として溢れ出ている色気が、子供っぽさを帳消しにしている。背も大きいし、明らかに年上のお姉さんの登場である。しかも、私が言うのもなんだけど、凄い美人さん。
「え、えーっと。私達、この寮に知り合いを探しに来たんです。決して悪い事をしようとしていた訳ではないです」
とりあえず、弁明しておいた。
本当に悪い事をしに来た訳ではないので、ハッキリと悪い事をしに来た訳ではないと訴えかけた訳だ。自分で言っておいて、逆に怪しく感じたけど本当だから仕方がない。
「ふーん……。まぁ皆女の子だし、不純異性交遊をしに来たり、覗きという訳ではなさそうね」
「不純異性交遊?覗き?」
「貴女達、新入生ね?このザリット寮は、女子寮なの。だから男子が近づく事は禁止されていて、その前で怪しい貴女達を見たものだから、ついきつめに話しかけちゃった。ちなみに他にもあと二つ寮があるんだけど、そっちは男子寮」
「ここ、女子寮なんだ……」
もし他の寮に行っていたら、そこは男の園。女の子はおらず、男だけの楽園。想像しただけで吐きそう。最初にこの寮に来て、正解だったよ。
「うん。ちなみに、私の名前はティタニア・キル・プレタス。五年生よ」
「ぷ、プレタス先輩……!」
「っ!」
その名前に反応したのは、ラミーヤだ。シグレも大きく反応し、どうやら2人は彼女の事を知っているみたい。また、どこかの貴族か何かの娘さんなのかな。
だけど私は知らない。ラピスも知らないみたいで、首を傾げている。
「貴女たちは?」
「私は、シェスティア。こっちは妹のシグレです。それからそっちが、ラミーヤとラピス……なんとかです」
「おい、我の名をはしょるな。というかフルネームもちゃんと覚えておけ」
「ごめん」
知り合ってまだ初日だし、あだ名で呼んでいるから本気で忘れてしまった。
「シェスティアちゃんと、シグレちゃんとと、ラミーヤちゃんとラピスちゃん。ようこそ、ゴールデウス魔術学園へ。先輩として、歓迎するわ。それで、探し人がいるって言ってたわよね。よかったら協力するから、中に入りましょう」
「いや、我が名は……別に良いのだが……」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「いいのよ。先輩として、後輩は可愛がらないと、ね」
そう言って悪戯っぽく笑うプレタス先輩に、私達はとても安心させられた。というかこの人の屈託のない笑顔、凄く好きだよ。美人さんの上に、こういう笑い方が出来る人はそうそういないと思う。
そんな先輩の申し出もあり、私達は遠慮なく彼女を頼る事にした。




