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最終試験


 この魔術学校は、周囲の建物よりも一層大きく、高い。最上層にそびえたつお城を除いたら、たぶんこの町で1番デカイんじゃないかな。石造りの立派な建物で、町の屋根の色に合わせて赤い。

 私たちが集まっていたのは、建物の前に広がる広場だ。そこから建物の方へと案内されて、しかし私たちが通されたのは正面の昇降口ではなく、もっと隅っこの、裏口のような扉だった。

 廊下をぞろぞろと大勢で歩き、途中の扉の中に小分けで集団がいれられていく。私たちが扉の中に入ったのは、最後の集団だ。

 そうして通された部屋は、ただ広いだけの部屋だった。物は少なく、座れるようなイスも置かれていない。ただ、私たちを迎え入れた人物だけが座っているイスはある。それから、簡単な作りの机が置かれているだけだ。あとは本当に空間があるだけで、床なんて石が敷き詰められて平らにされただけの、飾り気のない作りである。

 部屋の隅に扉が設置されているので、もしかしたらまだ奥行きがあるのかもしれない。ただの物置かもしれないけどね。


「では、私は失礼します」


 そう言うと、ここまで案内をしてくれた係員が部屋を出て行き、その扉を外から閉じた。

 口に出しては言わないけど、まるで牢獄に閉じ込められた気分である。だってこの部屋、窓もないんだもん。灯りは天井についた魔法石によって照らされた、薄暗い光が頼り。オマケに床もこんなだし、そんな気分に陥るのも仕方がない事だと思う。


「あー、さて。ここでは君たちに、魔法の試験を受けてもらう事になる訳だけどー……」


 この部屋に、私たちが入ってくる前からイスに座っていた女性が、そう言った。

 彼女の容姿は、女性は女性なんだけど、女を捨てている感が滲み出ている。やる気がなさそうに、垂れ下がった目。目を開くのすらダルいのか、その目は半開きだ。髪はボサボサで、酷くやる気のない声は、私たちのやる気すらも削いでしまう勢いである。

 彼女が話し出しただけで、場が少しざわついた。この場にいる私達と同じ新入生が同時に思ったのは、コイツ大丈夫か。である。


「あー、その前に自己紹介しておくとー、私の名前はセフロイ・エフテニーリャ。この学校の先生です。それなりに偉いので、敬うようにー」

「エフテニーリャ先生」


 やる気のなさそうな試験官の自己紹介を受け、直後に手をあげて発言したのはあの男である。

 名前は忘れたけど、外で私に向かい、僕の治癒魔法を受ける権利があるとか言って来た、金髪のイケメン男子だ。

 気づかなかったけど、同じ部屋に当たっていたんだね。残念だ。


「んー?」

「ここはまるで監獄のようで、居心地が悪い。正直言って、僕には似つかわしくない。場所を変えていただけませんか?」


 お前に似つかわしくないなら、私にはもっと似つかわしくない。私は心の中でそうツッコミをいれた。

 というか、そんな事を堂々と言ってのけるのが凄い。だけど、前世の私ならそう言ってブチ切れていただろうと思うと、心がむずかゆくなってくる。


「あの男、同じ部屋に……。もしや、お姉さまを追って来たのでは?だとしたら、許せません。消しましょう」

「落ち着いて、シグレ」


 私は男に対して怒りの感情を向けるシグレに声をかけ、成り行きに注視する。

 ここで先生が、あの男に対してどういう対応をとるかで、この学校がどういう場所なのかが分かる。果たして、権力にすがるのかすがらないのか。もしすがるなら、私の経験上ろくな学校じゃないと思う。


「あー、そうだね。確かにこの場所は陰気で、君には相応しくないと思う。ごめんなさい」

「分かっていただけたなら、結構」

「はぁ……」


 やっぱり、権力者の子供には逆らえないのか。そうだよね。逆らえば何をされるか分からない。だったらおとなしく従っておくのが得策だ。

 先生の発言にガッカリした私は、小さくため息を吐いた。


「それじゃあ、どうぞ出て行ってくださいな。他にも自分に相応しい場所じゃないと思った人は、出て行ってくれて構わないよー」

「ええ、では僕は失礼します。それで、代わりの部屋はどこに?そこまでの案内人を寄越してもらえますよね?」

「はは。自分の家に帰るのに、案内人なんていらないでしょう。子供じゃないんだから。いや、子供か……」

「は?家に、帰る……?一体どういう意味──」

「ここが自分に相応しい場所じゃないってなら、帰れって言ってんだよ。察しが悪いクソガキだなぁ」


 抑揚のない口調だけど、強い言葉を使って先生は男に言い放った。抑揚がない分不気味に感じ、強い口調で言うのとは違った迫力を感じる。

 最初の反応を見て、権力にすがるのかと思ったけどそうではないらしい。男にとってはまさかの反応に、顔が真っ赤に染まっていくのが面白い。


「く、クソガキ……?僕が、クソガキだと?お前、僕が誰か分かって口をきいてるんだろうなぁ!?」

「知ってるよー?ザリエラ・マクロフ侯爵の息子、サリエルだろう?彼とは旧知の仲だからよーく知ってる。昔はあんなに可愛かったのに、こんなクソガキに育ってしまったんだね。試験をする前に失格にするのは彼に申し訳ないけど、君が嫌だと言うなら仕方ない。じゃ、そういう訳でさようならー」

「ふざけるなぁ!僕はこの学校に、入学しにきたんだよ!もしここで僕を落とすような事があれば、お前はクビだぞ!それどころか、この学校を丸ごと潰す事になるぞ!分かってるのか!?」

「君は勘違いしているようだけど、この学校に他の権力は及ばない。それどころか、権力を行使しようとした者は潰される。君の今の発言は、君の家を窮地に陥れるものとなるんだよ。ここに来る前、君の父から発言に気を付けるようにとは言われなかった?」

「っ……!」


 思い当たる事があるのか、男は口を閉ざした。

 権力を行使しようとしたら、自分の家が窮地に陥るという話は面白い。この男の家が、それで潰れたらお笑いものだよ。

 それにしても、権力が及ばない、か。それは本当に面白い。だって、この学校に通っている人は、自分の家柄が関係なくなるという訳だ。それはつまり、この学校の中では貴族も庶民も同じ立場となり、貴族などの偉い人の子孫がふんぞり返る事が出来なくなる事を意味する。

 どういう経営体制をしいたらそんな事が出来るようになるのかは謎だけど、このシステムには好感しかわいてこない。この勢いで、男を全員やめさせて女学園にしてくれないかな。


「黙ってないで、さっさと出て行ってねー。君は失格だよ。おとなしく出て行けば、脅した事は見逃してあげよう」

「……す、すみませんでした。発言は取り消す」


 自分の立場を理解したのか、男は手を握りしめて震わせながら、謝罪の言葉を口にした。

 まるで、ドラマで見た謝罪かのような迫力だ。実際、これまで謝罪するような事はなかったんだと思う。

 でもそれが出来るだけ、偉いなと思うよ。昔の私なら、絶対に謝ったりはしなかった。


「あー、分かってくれたみたいで嬉しんだけど、少し足りないなぁ。そうだなぁ、うーん……誠意として、私の靴を舐めてくれる?そしたら赦して、試験を受けさせてあげる」

「んなっ!?」


 先生は謝罪の言葉を受け入れず、行動でも示せと言い出した。しかも、結構ぶっとんだ事を言っている。


「そんな事、出来る訳が……!」

「なら、失格ねー。ばいばーい」

「っ!」


 そんな事までする必要はない。

 拳を震わせ、迷う男に注目が集まる。本当にそんな事をするのか。この、貴族の子である男が。そんな好奇心に満ちた眼差しが集まり、だけど誰も彼の味方になってその行動を止めようとはしない。

 面白がってるんだ。絶対的な権力を持つ彼の、屈辱的な姿を。それが理不尽に権力を振舞って来た者の定めであり、そんな彼に昔の自分を重ねてしまう。


「──そんな事まで、する必要はない!」


 気づけば私は、そう叫んでいた。

 周囲の視線が、男から私へと注がれる。吐きそう。だけど私は、女教師だけを見て周囲を見ないようにする事で、その視線を耐える。

 どうしてこんな事を言い出してしまったのかな。別に彼とは仲がいい訳ではなく、むしろ敵として認識しているはずなのに、不思議だ。


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