躓き
「ふぬぬぬ……」
私は魔力を解放すると、魔力を操り、それを1つの塊として自分の傍に配置。次の魔力を解放させ、それでまた塊を作り出し、同じようにしようとする。
だけど、1つ目の魔力の塊が砕けて消え去ってしまった。それで気を取り乱し、2つ目の魔力も同じように消え去った。
もう、何度同じ事を繰り返しただろうか。コレ、難しすぎるよ。
「す、少し休んだ方がいいのではないでしょうか。もうずっと、やっていますし」
「あー……ごめんね、気が散って眠れないよね。私、外でやってくるから先に寝てて」
「違いますっ。私は全然気になりませんので、気にしないでください。お姉さまがもうずっと練習しているので、そろそろ休んでいただきたかっただけで……!」
「……」
確かに、どれくらい魔力の解放の練習していただろうか。朝起きて練習。授業を受けながらその休憩時間で練習。ご飯を食べて練習。お風呂に入って練習。寝る前に練習。
もうじき眠る時間だというのに、私は時間も忘れて無我夢中で練習していた。なんなら、もう寝ている時間の日もある。
これだけ集中して練習しているのには訳があって、私はこの魔力のコントロールの才能が、ないらしい。あれから何日か経過したけど、未だにたった1つだけ魔力の塊を仕掛けるので手いっぱいだ。それすらも、ギリギリできるという体たらく。
焦るよ。前世で私は、何でもすぐにできてしまう天才であり、壁にぶち当たった事などない。初めての苦戦。初めての試練。それは面白くもあり、しかし出来ない自分にイラ立つ。
「シグレ。その前に、もう一回だけ見せてくれない?」
「は、はい。でも、見たらもう本当に休んでください。根を詰め過ぎると、身体に良くないです」
「分かった」
シグレは私の返事を聞くと、魔力を解放した。
シグレの魔力の属性は、風。やや緑色かかった光がシグレから溢れ出すと、光がいくつかの玉を作って浮遊し、その場にとどまった。数は、4つ。シグレは既に、そのレベルにまで達している。私は1つで、1つ出来るのは当たり前レベルらしい。
見たって、何も変わらない。やり方や手順がある訳ではないので、それを見てやってみたけど出来る訳がない。私は落胆し、魔力の解放をやめた。それを見たシグレも魔力の解放をやめ、黙り込む。
「……」
なんと情けない事だろう。シグレはこの間まで、魔力の解放すらできなかったひよっこなのに、あっという間に私を超えて行ってしまった。姉としての威厳や、天才と自負してきた自分のプライドが、ズタズタだ。
「お姉さま……」
「約束通り、もう寝るよ。シグレの言う通り、正直言って疲れたしね。それに、このまま続けてもきっと無駄。どうせ私にはできやしない」
私はやや自暴自棄になり、シグレにそう言ってベッドに飛び込んだ。これを、ふて寝ともいう。
シグレはそんな私に声を掛ける事は無く、部屋の明かりを消すと私と同じようにベッドに横になった。
ふて寝を決め込んだ姉に対してかける言葉なんて、ないよね。更に情けない。
「……お姉さまが探している方は、お姉さまにとってとても大切な方なんですね」
シグレが、私に呟くようにそう言った。
私が行方が分からなくなった家族を探している事は、シグレも知っている。そして私が焦っている理由も、一緒に話を聞いていたから知っている。
その焦りは、先日の、聞けばやる気が出ると言うエリシュさんの言葉を聞けば分かってもらえると思う。エリシュさんは、こう言った。
『今年の魔術学園の入学者に、炎属性の魔法を使う少女がいるらしい。それも、相当な魔法の実力だとか。調べてみたが、その子の出身地はおろか、名前も不明。何かの権力が働き、隠されている。だが、早々に学園の面接に赴いてきて、その際にその子を見たと言う人物に聞いたところ、凛々しくまるで男のような人物だったとか』
『そ、それって……!』
『確証はないが、どう思う?』
『……ちょっと待った。どうしてエリシュさんが、彼女の事を知ってるの?』
『君との約束は、きちんと守る。そのための情報を、口を堅く閉ざしている君の村の人間から得ておいた。ちゃんとしなければ、また君が逃げ出してしまうかもしれないからね。コレで少しは信用してもらえるかな?』
その時のエリシュさんは、どこか優し気な表情を浮かべていた事を覚えている。私はその時、その表情と、ママの顔を重ねて見た。どうしてそう見えたのかは分からない。ただ、よく見るとママとエリシュさんは、似ているような気がする。
とまぁ、私がやる気に満ち溢れ、だけど出来ない自分にイラ立ち焦っているのは、こういう訳だ。私はメグルと会うために、なんとしても今年の魔術学園に入学しなければいけない。そしてメグルと再会する。
そこにいるなら、別に入学しなくとも会えるかもしれないけど、魔術学園に部外者が入る事は難しい。ならば関係者になってしまうのが手っ取り早く、だからエリシュさんはその道筋をたててくれたのだ。
焦るなという方が、無理がある。だって、すぐそこにメグルがいるかもしれないんだよ。こんな所で躓いていたら、せっかくエリシュさんが用意してくれた土台が、壊れてしまう。
なんとかしなければ。早く、出来るようにならなければ。
「──お姉さまにそこまで想っていただけるその方が、少し羨ましいです」
「……」
当然だ。メグルはこの世界に残された、私の唯一の家族なのだから。だから、絶対に、なんとしてでも探し出す。例えこの世の果てにいようとも。
でも、それは違う事にすぐに気が付いた。唯一の家族?家族なら、ここにもいるじゃないか。可愛くて、少し抜けている所もあり、いつもおどおどとしていて、たまに何を考えているのか分からなくなるけど、私の事をお姉さまと呼んで慕ってくれる、妹が。
「っ……!?」
私は隣で横になっている妹の手に、そっと自分の手を伸ばして握った。シグレは驚いたようだけど、逃げはしない。すぐに軽く握り返してくれて、彼女の体温が手から伝わってくる。
「シグレには、私が探している彼女の事を、知っておいてもらいたい。血の繋がりはないけど、私の姉であり、妹であり、大切な家族の事を。それに、パパとママの事もね」
「……はい。聞かせてください。お姉さまの家族の事、私も知りたいです」
「えっと……まず何から話そうかな」
話題は、いくらでもある。私とメグルと、パパとママとの思い出は、一晩で語りつくせる物ではない。だからその中から厳選して話さなければいけないのだ。
何を話そうかと思案するけど、最初に話すべき話題はもう決まっている。それは、メグルが私を助けてくれた、あの話からだ。それから、初めて魔法を使った時の事や、メグルと一緒に冒険に出かけた事。パパとママの喧嘩に、私の誕生日の日の出来事など。
楽しい思い出ばかりのはずなのに、話していると時々悲しくなる。だけどその度に、手から伝わってくるシグレの体温が、私を慰め涙を引っ込ませてくれた。
どれくらい話していたんだろう。1時間?もしかしたら、もっと短かったり、長かったのかもしれない。
夢中で話していたはずなのに、私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。まどろみの中から意識が戻って来て、目を開くと、窓から光が差し込み朝になっていた。
「すぅ……」
隣から聞こえて来たのは、安らかな寝息だ。私の隣ではシグレが眠っていて、そのシグレの手と、私の手は、繋がれたままだった。たぶん、一晩中そうしていたんだと思う。手はじっとりと湿った上で、熱く、でも不思議と不快には感じない。
この不思議な温もりを、私は知っている。私はその温もりにすがるようにして、手を再び強く握るのだった。




