頼れる人
その日もまぁ、魔力のコントロールが上手くいかず、相変わらずだった。私は未だにたったの1つしか魔力の塊を配置する事ができず、目標までには程遠い。そんな中でもエリシュさんの授業は進んで行き、私はメラヴィス語を用いた魔法を次々と会得していく。
魔法の会得は、簡単だ。メラヴィス語が分かれば、あとはどんな魔法なのかというイメージさえあれば、大体一発で使用する事ができる。
コレに関しては、シグレよりも才能があるらしい。シグレはけっこう苦労してるからね。でもそれが普通で、私の方が異常だとエリシュさんは言っていた。
でも魔力のコントロールが上手くいかなければ、入学する権利すらくれないんだよね。だったら私としては、そちらの才能の方が欲しいよ。
「シグレは随分、魔法に慣れて来たよね。算術も凄い勢いで出来るようになってきてるけど、本当に今まで習った事なかったの?」
「は、はい。お恥ずかしながら、勉学を習うのはここに来て初めてです」
「ふぅん……」
今までは、教えてくれる人がいなかったからできなかっただけで、私の見立てが正しければこの子は頭が良い。きっとこれから、もっと色んな知識を得て頭が良くなっていくのだろう。
魔法の才能だって、私よりもあるんじゃないか。魔力自体は私から見れば、さほど大きくは感じない。だけど、そのコントロールは私よりも遥かに優れていると言い切れる。どっちがいいかなんて分からないけど、シグレの方が才能がある。どうしても、そう感じてしまう。
「シグレは凄いなぁ。ホンっと凄いよ。それと比べて私なんて……」
前世では天才ともてはやされたけど、人格が破滅的に悪かった。この世界に来てからは、特に才能を褒められたことはない。いや、両親には褒められたけどね。むしろ、褒めちぎられて育って来たけどね。
でも私自身が、この世界に来てから自分が凄いなんて思った事は一度もない。可愛いし、美しいとは思うけど、それだけ。もしかしたら、前世のように傲慢な性格にならないよう、無意識にセーブしてるのかもしれない。
それが私を卑屈にしてしまったのか、出来る妹の登場によって自分に劣等感を感じるばかりだ。
本当に、私なんて──
「ゴミですか?」
「そうだよ、ゴミみたいだよ!」
時間はお昼。長テーブルがいくつか並べられた、屋敷の食堂のようなスペースで昼食とりながらシグレと話していたら、近くのイスに座って昼食を食べているルナさんにそう付け加えられてしまった。
いや、そうは思ってなかったよ。いくらなんでもゴミは言い過ぎだ。せめて凡人レベルでいさせてほしい。
「お、落ち着てください!お姉さまはゴミなんかじゃありません!ルナさんも、何てこと言うんですか!お姉さまは今神経質になってるんですから、軽はずみな事は言わないでください!」
「私はただ、シェスティアお嬢様の心の声を代弁しただけです」
「しないでください!」
そんなやり取りをする2人を見て、若干傷つきつつも、私は感慨深い気持ちになった。だって、シグレはここに来たての頃、凄く他人行儀で私以外とはあまり話そうともしなかったからね。話したとしても、相手を様付で呼んで頭を低くし、とてもではないけど対等の立場の人間には見えなかった。
それが今では、まるで友達のように気軽に話せるようになってるんだから、凄い成長だよ。
実はシグレには内緒で、どうやったらシグレと打ち解ける事が出来るのかと、エリシュさんやルナさんを始めとして、屋敷のメイドさん達と色々話し合って来たんだ。その成果が出ていて、素直に嬉しく思う。
「シェスティアお嬢様は、未だに魔力のコントロールが上手くいかないようですね」
「……」
突然ルナさんにそんな話を振られ、私は表情をこわばらせた。
隠すつもりはないし、もう知ってるのならそんな事をいちいち口に出さないで欲しい。
「勉学は満点。魔力は膨大。才はあるのに、魔力のコントロールができないので、このままでは魔法学園に入学させられない。妹のシグレお嬢様は、順調に成長しているのに……さぞかし自分が惨めに感じ、悔しい思いをしている最中といったところでしょうか」
「むぅ……!」
「はっ」
シグレが呻り、ルナさんに食い掛ろうとした。でも私は笑い飛ばす事で、その行動を制した。
ルナさんが今言った事は、全部本当だ。見透かされているようで、だけど恥ずかしくもなんともない。むしろ清々しい。
「だったら、どうだって言うの?」
「……上手くいかない事があった時、シェスティアお嬢様は誰に頼って生きて来ましたか?」
「そりゃあ……」
パパとママに頼った。
でもそれがどうしたと言うんだろう。
「貴女の両親はもういなくとも、大人はいます。少なくとも貴女よりは長生きをしていて、色々な事を知っている。ここで行き詰った時、頼れるのは可愛い妹だけではないですよ」
「えっと……もしかして、自分を頼れって言いたいの?」
「いえ。魔力のコントロールに関しては感覚的なものが必要となるので、頼られても頑張れとしか言いようがないです」
「もしかしてからかってる!?」
「そうではありません。いや、お嬢様の反応は面白いので、少しはあるかもしれませんが。感覚的な物は一旦置いておき、その上でアドバイスをするなら、お嬢様が参考にすべきはシグレお嬢様ではありません。貴女は膨大な魔力をお持ちのようなので、同じように膨大な魔力を持つ方を参考にすべきです」
「膨大な魔力を持つ人……待った。今私の反応が面白いって言った?」
「では、私はコレで」
ルナさんは強制的に話を打ち切ると、空になった食器をお盆に乗せて、そのまま厨房の方へと消えて行ってしまった。
からかっているのか、ちゃんとしたアドバイスをくれているのか、よく分からない。普段キリッとした表情しか見せない彼女は、この屋敷の中でも群を抜いて謎めいた存在だ。えっちな話題をふると、顔を赤くして可愛らしい一面も見せてくれるんだけどね。
「参考にするのは、膨大な魔力を持ってる人、か……」
「エリシュ様、でしょうか」
「うーん……」
確かにエリシュさんの魔力は、強い方だと思う。だけど魔力のコントロールに関して特筆すべき事はない。魔力の塊を周囲に配置したエリシュさんは、こういうのもなんだけど、シグレの凄い版だ。それでは参考にならない。
故郷の村人たちも、同じような感じだ。他に参考になる人はいないか。考えて、ある人物が思い浮かんだ。
「そうだ。あの男は魔力の塊なんか配置せずに、魔力を垂れ流しにしてた。魔力のカスなんて言ってたけど、アレも立派な魔力の一部だよ」
「あ、あの男?誰の事ですか?」
魔力を垂れ流しにして、いつでも魔法を発動できるようにしてあれば、魔力の塊を設置するのと変わりないはずだ。アレと同じような事をできれば、目的とする事が出来るはず。
私は思いついたことを早く試したくなり、残ったご飯を急いで口の中に放り込むと、空になった食器を持って席をたった。
「お姉さま!?」
「ちょっと練習してくる!シグレはゆっくり食べてていいからね!」
実は私にはちょっとした特技があり、それが早食いだ。シグレがこのスピードについてこれる訳がないので、私はそう言い残してさっさとその場を後にした。
ようやくこの壁を超える方法を、掴みかけたのだ。いてもたってもいられない。今すぐに思いついた方法を試したくなり、私はそんな行動に出た。




