──その子との出会い その2
出会いはそんな感じで、仲良くなれる要素は何1つとして存在しなかった。この出会いで仲良くなれると思ったママの感性は、狂っていると思う。
でも出会いこそはそんなだったけど、なんやかんやと言って私とメグルはそれからちょくちょくと会うようになっていった。でもそれは、必然とも言える。友達のいない私は基本家で本を読みふけっているし、そこにママに半ば強制的に彼女が連れて来られれば、会うしかない。
どうしてママは、こんなのと私を友達にしたがるんだろう。たぶん相手も同じ事を思っているに違いない。
「……なぁ、その本、面白いのか?」
お昼ご飯を食べ終え、リビングでのんびりと本を読んでいたら、彼女が話しかけて来た。
私たちは同じ場所でご飯を食べたりはするけど、その口数はとても少ない。口を開けば言い争いになるので、特にお昼過ぎとかのんびりとしたい時間には、互いに話しかけないのが暗黙の了解のようになっていた。
「……面白い。でも、悲しいお話」
私が部屋で魔力を解放したあの事件がキッカケとなり、家の魔法関連の本は全て取っ払われてしまったので、私は仕方がなくこの世界の物語の本を読むようになっていた。文字を覚える訓練になるし、歴史本などより趣味嗜好が強く、楽しみながら読む事もできる。息抜きみたいなものだね。
物語も終盤となっており、話の全貌は見えている。主人公が、世界のために悪い魔物と戦って世界に平和をもたらしたのに、人々が主人公を恐れるようになってやがて主人公を迫害するという物語だ。強く、頑丈な主人公を人々は恐れるようになってしまったのだ。それを、幼馴染と一緒になんとかしようとするけど、幼馴染も迫害されるようになり、やがて主人公から離れていく。最後には山となった主人公が、人々の幸せを願いながらいつまでも見守っていく。そんな話。
「ふぅん。その年なのに、もう文字が読めるんだな」
「貴女は読めるの?」
「一応、な」
「……読んでみる?」
「貸してくれるのか?」
「もう読み終わったし、元々はママとパパの本だから」
私が本を差し出すと、彼女は遠慮がちにそれを受け取り、そして何故かちょっとだけムスッとした顔になった。
普通そこは、ありがとうって言うべきだと思うんだけど。でもこの時はそう突っかかる気になれず、本を受け取った彼女を見送るだけにした。
しばらくして、また彼女が家を訪れた。その時家を訪れた彼女の手には、私が貸した本が握られていて、それをこの時もムスッとした表情をしながら私に近づいて来た。
「納得いかない。あんな連中のために、主人公が死ぬ必要なんてない。皆ぶっ飛ばしちまえばいいんだ。強いんだから」
「いや、主人公死んでないから。山になっただけだから」
「似たようなもんだろ。そもそも山になる意味が分からない。まぁでも……悪くなかった」
そう言って、彼女は本を私に差し出して来る。
私はその本を受け取りながら、気づいた。初めて同年代の子と、共通の趣味の話をしてしまった事に。
なんだか、凄く不思議な気持ちだ。相手は友達でもなんでもない。顔を合わせば罵り合うような仲の子なのに、心が弾む。
「泣いた?」
「泣けない。むしろ、悔しい気持ちになった。オレなら絶対に、あいつらをぶっとばす」
「えー……。気持ちは分かるけど、コレはそういう話なんだから仕方なくない?」
「仕方ないっていうのが嫌なんだよ。あの連中、主人公に感謝するべきなのに酷すぎるぜ。ああいうのは、ぶっとばして分からせてやった方が良い。そうすりゃ展開も変わっただろ」
「そんな事したら、主人公が次の悪い魔物みたいになっちゃうでしょ。せっかく平和になったのに」
「そうなってもいいじゃねぇか。……ああ、そうか。ぶっとばして、世界の支配者になればよかったんだ。どうせ世界で一番強いのは主人公なんだから、誰も邪魔できない。それで幼馴染も虐められる事なく、めでたしだ」
「ぷっ」
想像して、面白そうな展開だと思った。山になるなんかより、よっぽどいい。
それが、キッカケとなったのかもしれない。私と彼女。メグルは、その日からただ罵り合うだけではなく、普通の、まるで友達のように話す機会も増えて行った。それでもまだ、罵り合う事の方が多いけどね。
更に仲良くなるキッカケは、別にあった。
その日私は、気分転換に外を歩いていた。家からすぐそこの木の下で、本の続きを読もうと思ったのだ。私だってたまには外の空気を吸いたい。本当に、ただの気分転換のつもりだった。
「見かけないのが歩いてる」
「きっと、サラさんの所の子供だ」
「え。例のアレ?」
「誰?」
「ほら、すげぇキレて手が付けられなかったって」
「あー、テスの妹が泣かされたってやつか!」
タイミングが悪い事に、家を出てすぐに、道の向こうからやって来た子供4人組。4人とも性別は男で、私は緊張し、自分の事を話している事に気づいてその足を止めた。人の少ない村だから、そういう話題はすぐに広がってしまうのかもしれない。
このまま進んで行ったら、絡まれる。そう判断すると、私は踵を返した。
幸いにも家はすぐそこだ。すぐ家に入って隠れれば、彼らに絡まれる事もない。
「おーう!お前ら、どこいくんだ?」
踵を返した先に、別の男の子がいた。彼は4人組を発見すると、陽気に手を上げて挨拶をし、駆け寄ろうとする。だけどその間には私がいて、私が急に振り返ったものだから鉢合わせるような形となった。
「はっ、あっ」
鉢合わせ、心臓が止まったような気分になる。あの日、あの時、私を殺したあの男の姿が脳裏をよぎった。怖い。身体が恐怖を訴え、震えだす。
相手は子供だ。あの男とは、背格好も全然違う。それでも男だと言うだけで、思い出してしまう。
「ディルエ、そいつ捕まえろ!」
「あ?なんで?」
「ブチ切れ女だ!オレ達を見て、逃げようとした!」
「へーえ」
彼を見て固まった私を見て、ディルエと呼ばれた男の子がニヤリと笑った。
彼の背は、他の子供たちよりも一回り程デカイ。それがまた私に威圧感を与える。しかし顔は子供そのものであり、幼げで、大人の持つ不思議な威圧感は感じさせない。でも怖い。
「じゃあ、オレにもキレてみろよ」
彼にはブチ切れ女で通じたらしい。私に悪戯っぽい目を向けて、そう言って来た。
「ほらどうした、キレてみろよ!」
私が固まっていると、4人組もこちらに来て私を取り囲んできた。私は逃げ場を失い、しかも周囲を男に囲まれてパニックになってしまう。震えは止まらず、立っていられなくなった。地面に膝から折れて倒れ、あまりの恐怖に涙がこみあげてくる。
「なんだ、コイツ。全然キレないじゃん。よわっ」
背中を押された。小ばかにするような言葉をかけられる。さほど酷い事をされている訳ではない。でも、男に絡まれると言うのは、私にとって最大の虐めだ。
助けてと、そう叫びたい。だけど震える唇は言う事をきかず、助けを呼ぶこともできない。私はもしかして、今日死ぬのではないか。そう思い始めるくらい、追い詰められ始めた。
「てめぇらあああぁぁぁ!」
「ぐはっ」
その時、私の上を何かが通り過ぎた。叫び声と共に通り過ぎたそれはディルエと呼ばれた男の子に飛び掛かり、彼の顔面に強烈な一撃を見舞う。
鼻血を出して倒れた彼をよそに、突然現れたその子は元々鋭い目つきを更に鋭くさせ、他の男の子達にも殴り掛かった。
「な、なんだコイツ!?」
「いいから反撃しろ!」
突如として現れた、赤髪の、男みたいな女の子により男の子たちは大混乱。殴り合いになり、反撃し合い、それでも殴り合って、最後は全員がボロボロになって解散となった。中でも特に酷くボロボロになったのは、赤髪の少女。メグルだ。たった1人で5人を相手にしていたので、必然とそうなる。
「……どうして、助けてくれたの?」
ボロボロになって地面に倒れこんでいる彼女に向かい、私は尋ねた。
基本的に罵り合うだけの仲なのに、助けられる理由が見つからない。
「わかんねぇ」
顔は腫れていて、息もあがり、痛くて苦しいはずだ。それでも彼女は上体を起き上がらせると、私に向かってニコリと笑い、そう答えた。




