──この世界に生まれてから その4
私は母に抱きかかえられた状態で、人で賑わう市場の中を進んで行く。
この世界で、大勢の人がいるのは初めて見た。新鮮な光景だけど、行きかう人の中には男の人もいる。そのせいで私は、母に抱きかかえられたうえで母に抱き着くと言う、本当に子供のような状態となっている。
私のプライドは、もうズタボロだ。しかし知らない男の人が近くを通っていくので、仕方がない。今の私には、頼るべき存在はこの母しかいないのだ。
そうして市場の中を緊張しながら進んで行くと、服屋さんに辿り着いた。そこには様々な服が店外にまで溢れて飾られていて、私は目を輝かせながら早速その服達を見ていく。
「シティ、この服なんてどうだ!?ほら!」
「子供っぽすぎ。あと、シミがあるのが嫌。それからボロい。わざわざそれを買って着るくらいなら、この服のままでイイ」
「き、厳しいな……まぁボロボロなのはどうにでもなるから、あんまり気にしなくて平気だぞ……?」
父が私に見せてきた服は、上下が一体化しているまるで着ぐるみのような服だった。本当に、ザ・子供服。オマケに所々に何かをこぼしてついたようなシミがあり、とてもじゃないけど着る気になれない。何をどうしたらそれを気にしなくていいというのだ。
そんなのは放っておいて、母に抱きかかえられたまま店内の服を物色するけど、あまりいい服は見つからない。いや、可愛い服はたくさんあるんだよ。だけど私の身体にあうサイズの物が、極端に少ないのだ。
あったとしても、中古品の汚い服ばかり。この私が、古着を着る?そんなのあり得ないから。
そういう意味では、この服屋さんで私に合う服はなさそうだ。基本的に古着ばかりだし、あと基本汚い。
「この服なんて、どう?」
そう考えていたら、母が一着の服を私に見せて来てくれた。
白のワンピースタイプの服で、足首までを覆うスカートにはスリットが入り、その下に隠れた青色のスカートが見えている。首元にはアクセントなる青色の刺繍が施されていて、ちょっと可愛い。
でもこれはサイズが合わない。私には見るからに大きすぎて、スカートは地面についてしまうし、ダボダボの情けない姿となってしまう事間違いない。
「か、可愛い……けど」
「ちょっと大きいよね。でもこれなら、シティちゃんにも似合うと思うの。色とかは、このままでいい?何か変えて欲しい所とかはない?」
「す、少しだけ、スカートを短くした方が可愛いかも……」
「スカートを少し短く、ね。他には?」
「ない……」
「じゃあ決まり!」
「え。決まりって……」
「グラちゃん。この服を店主さんに言って作ってもらいたいって言ってきて。サイズは私が測って伝えるね」
「任せろ!おーい、店主ー。この服を作ってもらいたいんだけど──」
父は母から服を受け取ると、意気揚々とお店の奥へと消えて行った。
「つ、作るの?今から?」
「そうだよー」
それは、オーダーメイドという奴だろうか。前の世界で私が着ていた服や靴は全てオーダーメイドだったんだけど、それと同じという事になる。
でもオーダーメイドって、時間がかかるんだよ。しかも子供の身体は日々成長していくので、サイズの調整が難しい。前の世界では、同じ物をいくつもサイズ別に作ってもらう事で解決していたけど、この世界ではそうはいかないだろう。
「で、でも、すぐに欲しいから、やっぱり今は──」
「大丈夫だよー。はい、じゃあサイズを測るから立ってね」
「あ……ぅ……」
私の訴えは、母の心に届かない。私は床に立たされると、測りを手にした母によって隅々までサイズを測られて行く。そして、私のサイズをお店のおじさんに伝えられて、全てが終わってしまった。
まぁ、別に良いんだけどね。可愛い服だったし、少し待てばこのボロボロの服ともおさらばだと思えば、別にいい。多少のサイズ違いも、我慢しようではないか。
「出来たぞ、シティ!完成だ!」
「えっ!?」
それは、母がサイズをお店の人に知らせにいってから、ほんの10分程の出来事だった。店内の服を見て回っていると、父があの服を持って私の下へと駆け付けて来た。それも父が手に持っているその服は、私の身体のサイズに合わせて小さくなっている。
「なっ、え……あ、ひっ!」
服に驚くのと、近づいてい来る父を怖がるのとで、私は一瞬混乱してしまった。
でもすぐに父から逃げ出すと言う行動に出て、店内を走り回ってから母の下へと駆け付けると、いつも通りその後ろにくっついて盾とする事に成功。助かった。
「早く見せたいって言う気持ちは分かるけど、シティちゃんが驚いちゃってる。ダメだよ、グラちゃん」
「あ、ああ、すまん。つい」
「かして」
母は私を背に庇いつつ、父から服を取り上げると私にそっと渡してくれた。
私はそれを受け取って身体に合わせてみると、サイズぴったり。布も新品で、よれたり勿論シミもなくて、良い匂いもする。
「わぁー!」
私はその服を手にして、喜びを露にした。今すぐにでも着てみたい。だけどそれよりも気になる事があって、私は母を見て尋ねずにはいられない。
「どうやってこんなに早く作ったの!?」
「魔法だよ。見てみる?」
母はそう言って私を抱いて目線を高くすると、お店のカウンターの奥が見えるようにしてくれた。カウンターの奥の部屋ではお店のおじさんが服を縫っているんだけど、その周囲にたくさんの針と布が宙に浮いた状態で独立して作業しており、服を作っている。
その針達とおじさんとは白い光で繋がっていて、たぶんそれがおじさんの意思を針に伝えているんだと思う。
「すごーい!」
私はそれを見て感動し、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
コレが、魔法。初めて目の当たりにした魔法の使い方に、私は多くの可能性を感じて興奮せずにはいられない。だって、私の服のサイズをたった1人で10分ほどで服が作れてしまうなんて、凄すぎるよ。完成度も、糸のほつれもなくて完璧だ。
「なぁ、早く着て見せてくれないか?」
「あ……う、うん。そうだね」
しばらく服を作っているその光景に見とれていると、父が促してきて我に返った。私も早く服を着たかったので、その意見には賛成だ。
父に促されるがままに服を持って更衣室に入ると、着替えてから外へと出る。私の姿を見た両親は、私の事を可愛いと褒めてくれた。服はサイズもあっていて着心地もよく、しかも可愛いので文句のつけようがない。
控えめに言って、最高のプレゼントである。
その後はここまで来た道を、買ったばかりの服を着たまま帰っていくことになる訳だけど、不思議な事に疲れなんてどこにもない。母と手を繋ぎ、少し離れて歩く父と3人で、家へと帰る。
ただそれだけなのに、私は今まで感じた事のないくらいの幸せを感じていた。私はこの日の事を、一生忘れないだろう。




