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目を覆いたくなるような光景


 暗がりから、意識が少しずつ戻ってくる。でも、まだまだ起きているとは言えない。寝ぼけながら、私が抱いている柔らかな物を揉んだり、顔で擦り付けて感触を楽しんでいると、小さな笑い声が聞こえてきた。


「ふふ」

「んぅ……ぬふふ」

「んっ。よしよし」


 これに触れていると、何故か笑いが漏れてくる。その笑いは、自分でも少し下品な笑い方だと思う。聞こえてきた笑い声の事は一旦忘れ、私は下品な笑みを浮かべたまましばしその感触を楽しんだ。

 すると、何者かが頭を優しく撫でてくれて、もっと心地よくなって笑いが止まらない。ここはもしかして、天国なのだろうか。

 そうして少し時間が経過し、更に意識が戻ってきた。そして、自分がいつもとは違う状況で眠っていた事に気づく。


「……ママ」


 顔を上げれば、すぐそこにママの顔がある。困ったような、嬉しいような、どちらとも取れる笑顔で目が覚めた私を出迎えてくれて、私はようやく自分の状態を把握できた。

 私は、ママの胸に抱かれて眠っていた。そして自分の手はママの手に食い込み、その豊かな膨らみの感触を楽しむかのように、自然と握力運動を行っていた。更に、私はそんな豊かな膨らみに顔面を突っ込み、頬ずりをしていたみたいだ。口の端には涎がついていて、私の涎がママの胸の谷間にもついている。

 ママの香りにやられていたんだね。なるほどどうりで、安心しきって気持ちよく眠れていた訳だ。


「おはよう、シティちゃん。まるで、パパみたいだったよ?」

「……パパ?」

「あっ。ち、違うの。パパは、偶然そうなっちゃっただけで、そうじゃないの。ただ、寝ぼけて私のおっぱいを揉んできたり、顔を埋めて気持ちよさそうに眠る姿がそっくりだっただけなんだよ」

「……」


 私はママの胸から顔を離すと、目を擦りながら現状を理解した。私、寝ぼけておっぱいを揉んで、顔を埋めて気持ちよさそうに眠ってたんだね。

 ……凄く恥ずかしい。この年にもなって、ママの胸の中で爆睡とかありえないよ。しかも、寝ぼけながらだったけどその感触は覚えていて、自分が何をしていたのかも覚えている。いや、生まれたてのもっと小さな時は、もっと凄い事をやってたけどね?悪戯心がわいて、わざとそういう動きをしてママを困らせたりもしてたし、その時のママの可愛い反応も完璧に覚えている私にとって、これくらいどうという事もない。

 よし、大丈夫。恥ずかしいけど、大丈夫。

 いや、待てよ。スルーしかけたけど、今パパとそっくりだって言ってたよね。という事は、パパも私と同じような事をしてたという訳だ。2人は夫婦だから、そりゃあそういう事もするだろう。私の知識が追いつかないような、凄くエッチな事もしているはずだ。実際そういう声も聞いた事があるけど、その辺は私も精神だけは大人だ。大人の男女が行き着く先がそういう行為だと理解しているし、文句を言うつもりはない。

 でも、出来ればそういうのは聞きたくないんだよね。パパが、ママのおっぱいに……自分の両親がそういう事をしているのを想像するのって、何故かキツイ。勿論目撃するのはもっとキツイ。

 よし忘れよう。元々スルーしかけていた訳だし、ここは掘り下げたらいけない。ママの事だから、もっと凄い事を言ってきそうで怖すぎるからね。


「そ、そうだ。外はどうなってるの……!?」


 意識が完全に戻ってきた私は、ママに向かってそう尋ねた。

 隠し部屋の中は、相変わらずママの魔法によって守られているようで、光のバリアが張られたままになっている。その魔法の効果により、部屋も、私たちも無傷のままだ。

 そもそも、あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。私、どれくらい寝てた?というか、よく眠れたよね、あんな緊張感溢れる状況で。それもこれも、ママの匂いのせいだと私は思う。


「分からない。でも、いつまでもこうしている訳にはいかないよね。……そろそろ出てみよっか」

「うん……!」


 私とママは、隠し部屋から出る決断をした。

 外の状況がどうなっているのかも分からないのに、外に出るのは少し危険でもある。だけどママの言う通り、いつまでもこうして隠れている訳にもいかない。

 私は力強くママに頷いて返事をし、ママも覚悟を決めた表情を見せた。


「じゃあ、魔法を解くね」


 ママはそう宣言すると、隠し部屋を守っていた魔法を解いた。部屋を覆っていた光は霧散し、ママの魔力がなくなった事によりこの部屋を守る物はなくなる。

 そして、その瞬間だった。


「ふぇ!?」

「シティちゃん!」


 私とママは、いきなり崩れ出した部屋に押しつぶされてしまった。ママが咄嗟に私を庇って覆いかぶさってくれたけど、重いよ。あと、おっぱいに押しつぶされる形になってしまったので、息がしにくい。

 でも、それは一瞬だった。ママが勢いをつけて立ち上がると、私たちに覆いかぶさっていた部屋の残骸は、案外簡単に退かす事ができたようだ。

 私の上からママがどき、残骸もどいたので私たちは部屋の外に出る事に成功する。


「……」

「……」


 そして、ママと私は2人で呆然とした。

 部屋の外の光景。周囲には黒く焼け焦げた建物の残骸と、それが放つ焦げた匂い。所々で火を逃れた本や家具があり、それが元あった私たちの家の物で、周囲の残骸が私たちの家だった事を示している。私とママは、そんな残骸の中にしては場違いのようにキレイな残骸の上にいた。

 見上げれば、夜明け前の薄暗くも僅かに黒から青へと変わり始める、暁の空が広がっている。いつもよりはだいぶ早い起床となったみたい。

 そうして状況を確認した私は、黙ってママの手を握り、ママも私の手をぎゅっと強く握って返してきた。覚悟はしていた。隠し部屋の中にいる時から、家が燃えているのは分かっていたから。けど、こうして目の前にするとまた違う。

 目を覆いたくなるような光景だけど、ママと2人で我が家が燃えてなくなってしまったという現実を静かに受け止めつつ、次に取るべき行動を考える。


「そ、そうだっ」


 私は慌てて周囲を見渡し、私の家を燃やした犯人の姿を探した。

 でも、その姿はどこにもない。さすがに、火をつけてから一晩中家の外で待ち構える野盗なんていないよね。いたらボコボコにして粉々に砕いてやろうと思っていたのに、残念だ。いや、冗談ではなく、本気で。だって、私の家を燃やした犯人だよ。赦せる訳がない。本当は、悔しくて悲しくて涙が出そうだけど、犯人に対する怒りが勝っている事によって涙は出てこない。

 それに今ここで私が泣いたって、ママを悲しませて心配させるだけだ。今の私に出来る事は、ママに心配させないよう振舞う事だと思う。


「ふえぇーん!」

「うわっ。ま、ママ!?」


 そんな私の決意をあざ笑うかの如く、隣のママが膝から崩れ落ちて泣き出してしまった。それはもう、見事な泣きっぷりだ。

 私が生まれる前から住んでいた分、私よりもこの家に思い入れがあるのかもしれない。色んな思い出を思い出し、私も悲しくなってきた。でも泣かない。

 私は泣いているママを胸に抱きしめると、ママは縋りつくように抱き着いて、泣き続けた。私はママのように胸は大きくないし、たぶん良い匂いもしないと思う。それでも、こうしてあげると少しは落ち着くはずだ。

 普段はママにしてもらっている事をやり返すように、私は優しくママの頭を撫で続けた。


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