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山椒姫、不穏な空気の真相に近づく

本日2話目です。

 食堂の女将さんがエンデヴァルドの新たな名物として生み出した、鉱山焼きに舌鼓をうっておりましたら、店先で騒ぎが起きていることに気付きました。


「……ネイ兄と、パティ?」


 見てみると、ネイ兄が酔っぱらいの中年男性を拘束しています。


「尻の一つや二つ触ったくらいで大袈裟なんだよ! 減るもんじゃねーだろ!」


 どうやら昼間から酒を飲みグダグダになっているその方が、すれ違いざまにパティのお尻をナデナデしたらしく、ネイ兄がすぐさまその方を拘束したというわけですね。


 しかし……パティはトラブルを寄せ付ける体質なのでしょうか?


 夜会のときといい、サザンポートのときといい……あー、サザンポートのときは自分からトラブルに突っ込んで行ったか……


「離せやコラ〜!」


 おじさんは拘束を解こうとバタバタしますが、ネイ兄のその拘束は、動けば動くほど泥沼にハマるやつです。


 あの拘束はかなりガチです。それこそ一瞬でも隙を見せたら危険な相手をホールドするレベルです。


(下手に動かないほうが……)


「イテテテテ、折れるよ〜骨折れるよ〜」

(ほらね)

「別に構わんだろ。折れるだけで骨が減るわけじゃねーし」


 尻を触ったくらいで減るもんじゃねえし構わないだろという、おじさんの主張に対して、ネイ兄が冷静に返します。




「クレイ! あんたまた昼間から酒浸りになってんじゃないわよ!」


 騒ぎを聞きつけた女将さんが現れ、クレイという名の酔っぱらいのおじさんを一喝します。


「女将さん、お知り合いですか?」

「ああ、元は狩人をしていた奴なんだ」


 女将さんの話では、3ヶ月くらい前に森に行ったきり2日ほど戻って来ないため、街の人で捜索に行ったところ、毒に冒されて身動きが取れないところを保護されたのだそうです。


「毒の後遺症でしばらく仕事はお休み。で、リハビリでもするのかと思えば、毎日酒浸りの困った奴さ」

「何故リハビリをなされないのですか?」

「そんなこと言ったって……毒を受けてから手の痺れが治まらないんだ……こんなんじゃ弓で狙いを定めることも出来やしねぇ……」


 そう言ってクレイさんはプルプル震える手を伸ばしますが、それは毒のせいではなく、酒のせいではないでしょうか?


「どういった症状が見られるのですか?」


 毒に冒されたと聞き、パティが症状を確認します。


「パティ、嫌なことされた相手に無理しなくていいんだよ」

「ケイト様、これでも薬師の端くれです。毒の症状に冒されていると聞けば、知らんぷりは出来ませんよ」


 そう言ってパティが問診を始めます。


「モンスターに襲われたわけではないと?」

「ああ……途中で意識を失って、気がついたら街のみんなに家まで運ばれていた」


 発見当時は、所々に外傷はあったものの、足を踏み外して気を失ったままだったのだろうと結論付けられたそうです。


「パティ、何か分かった?」

「症状を聞く限り、モンスターに襲われたわけではなさそうです」


 毒を持つモンスターもおるにはおりますが、聞き取った症状に該当する毒は無いそうです。


「痺れ毒であれば、その後モンスターに襲われますし、致死毒でもないですからね」

「それってどういうこと?」

「人工的に作られた毒ではないかと……」


 それって……やっぱり……

 そう感じてオリヴァーと目を合わせますと、彼も同じことを思ったのか、静かに頷いてクレイさんに質問を始めます。


「クレイさん、森にいたとき人の気配とかしませんでしたか?」

「人? そりゃあ俺みたいな狩人が森に入るなんざ、ザラにあるからな」

「いや、そうではなくて、人が森の中で定住しているような痕跡がなかったですか?」


 問われたクレイさんは当時の記憶がおぼろげなためか、頭をひねりながら「そういえば……」と切り出します。


「飯を煮炊きしていた跡があった。まあまあ綺麗に片付けていたようで、痕跡はそれほど残ってなかったが、あれは複数人分の支度をしていた跡だな」


 何がおかしいかと言えば、狩人は単独行動もしくは少人数で行動するし、この森は日帰りが可能なので、森の中で煮炊きする必要もない。


 それに火を使えば、獣にこちらの存在を教えることになるから普通の狩人はそんなことはしない。


 クレイさんは不思議に思わなくもないが、何か事情があったのだろうとスルーしていたそうです。


「ネイ兄様、オリヴァー……」

「予想が当たったみたいだな」

「そのようですね……」


 森の中で身を潜める輩が、いる……


「ケイト様、どうしたんですか?」

「パティ、実はね……」


 このことが事実なら、ティハルト殿下にも伝えなくてはいけませんし、私達の関係者なら知っておかねば、何かあってからでは遅いので、隠しても仕方ないです。


「隠世……ですか?」

「パティも当然覚えているよね」


 あのときは解毒処置で大変世話になりましたので、彼女も良く覚えているはずです。




 ベルニスタ王国の犯罪組織「隠世」


 頭目であるミシェル王子は既に刑死、主だった構成員も捕縛され組織としては壊滅しましたが、大きな組織ゆえ末端まで全てを潰すには至っていません。


 要は中堅や下っ端で逃げ果せたメンツも少なからずいるということ。


 各国からお尋ね者として指名手配された中で、その捜査の網をかいくぐり、ここの森へ逃げてきたのではないかと考えられます。


「隠蔽とか暗殺の技術はあるだろうし、毒を扱えても不思議ではないよね」

「それであればクレイさんの症状も説明がつきます」


 不審者が森の中にいるため、住処を追われた獣が街に現れており、警備隊も何度か森を捜索したそうですが、不審者を発見できずというのは、やはり相手に隠蔽だったりの能力があるということでしょう。


 下っ端下っ端と言ってますが、相手の力量が分かりませんので、ヤコブさん達を連れて行くのは危険か……


「この状況でキャンプはマズいよね」

「行きましょうよケイト様」


 なんでパティが乗り気なのよ。貴女は特訓メンバーじゃないからお留守番ですよ。


「えー、ネイサン様が連れて行くって言ってくれましたよ」


 おい、何を勝手に約束しておる……と、少し離れたところへネイ兄を引っ張って、どういうことか問い質します。


「いやほら、アデル嬢は王子と一緒だからいいけど、みんなが森に出掛けたら、彼女一人で留守番は寂しいかなぁって……」

「だからってホイホイ安請け合いしないでください」


 こうなる可能性は行政長官殿の話を聞いた時点で想定できたのに、迂闊ですわよ……






「何だか騒ぎになっているかと思えば、やっぱりお前らかよ」


 兄妹でパティを連れて行くか置いていくかで揉めておりますと、もう一人の兄が現れました。


 何なの? ウチの兄妹はそんなに引き合う力が強いのですか?


 そして、その隣には……


「あら、ケイトお姉様もデート中でしたか」

「グリゼルダ様、ケヴ兄様。『も』ってどういうことですか?」

「姫様が退屈だと言うのでな、街巡りに同行している」

「ええ、ケヴィン様とよろしくやってますわ」

「それでケイト、何があった?」

「……ちょうど良かったですわ」


 あまり他国の姫様とよろしくやられても、妹としてはどう対応したものかと苦慮しますので、程々にして欲しいところですが、隠世の件もありますので、ここでケヴ兄様に会えたのは話が早く出来て助かります。




「なるほど……隠世の残党か」

「確証はありませんが、状況を考えるとかなりの確率でそうではないかと」

「ああ。だが、いるのは下っ端だろう」

「何故そう言い切れるのですか?」


 ケヴ兄様の予想では、おそらく北の未踏の地へ逃れるためにやってきたはいいが、思った以上に厳しい環境に尻込みしたのではと言います。


「北の地で生き延びるほどの器量もない。かと言って、街の警備も固いし、捜査の網は確実に狭まっているしで、他の地へ逃げ果せるのも一苦労だと、どっちつかずで潜んでいるだけではないかな」


 逃げ切れる実力もなく、ただ滅びの時を待っているだけの下っ端だと断言します。


「それに隠れているなら、向こうから現れることはないだろう」

「もし遭遇したら?」


 警備隊の捜索は、明らかに自分達を追っていると分かるので逃げるでしょうが、私達の場合、気付かずに接近すればクレイさんのように、向こうから攻撃されるかもしれません。


「その時は俺達で排除する。パティ嬢は万が一のために薬師として同行してもらってもいいかもしれない」

「ケヴィン様、いいんですか!」


 ケヴ兄の一言でパティの目がキラーン!! と光ります。


「ああ、一人で留守番はつまらないだろうからな。ネイサン、言い出したからにはパティ嬢の身はお前が責任を持って守るように」

「おう。ただ、責任って?」

「ネイサン様、一生残る傷でも付いたら……ってことですよ」

「パティちゃん、それって賠償金的な?」


(ダメだ。この男、我が兄ながら泣けてくるよ……)


「ケヴィン様、私も一人で留守番は寂しいです……」


 パティの同行をケヴ兄が了承すると、グリゼルダ様も一緒に行きたいと言い出しました。


「さすがに姫様を連れて行くわけには……」

「なんでですか? お兄様はアデル様と二人の時間を過ごしてますので、私一人お留守番ですわ」


(まあそうなるよね。パティがよくてなんで私はダメなんだって言うよね。ダメなんだよ、姫様なんだから……)


「ケヴィン様には滞在中の護衛をお願いしておりますので、護衛対象がいなくては仕事になりませんよね」


 私一人くらい守るなんて、ケヴィン様には造作もない事ですよねと、若干煽るような感じで姫様が詰め寄ります。


 ウチの兄様はそんなことで動じる方ではありませんが、姫様にこの短期間で絆されたところもあるのでしょうか、どうしてもと言うならティハルト殿下の許しを得てくださいね、と言質を与えてしまったものですので、グリゼルダ様は大喜びで、必ずお兄様に認めさせますと鼻息が荒いです。


「ケヴィン様、もし私が傷物になったら責任取ってくださいね」

「そうならないように全力を尽くしますよ」

「もう……そうなっても構わないから言ってるのに……」


 姫様はブツブツと呟いております。

 ネイ兄はパティの言葉の意味を素で理解していませんでしたが、ケヴ兄は分かっててはぐらかしておりますよ。


 というか、姫様を傷物になんか出来ませんよ。

 

 グリゼルダ様は、ケヴィン様〜責任取って〜とか言ってればいいんでしょうけど、こっちにしてみれば国際問題です。ティハルト殿下が了解したとて、後々面倒になりますから!


 あれ? 待てよ…… 二人とも守る女の子を抱えるということは…… もしかして私の役目、結構比重が大きくなりましたか!?

お読みいただきありがとうございました。

次回は7/14(水)投稿です。

よろしくお願いします。

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[一言] 兄ズにも相手が生まれる可能性が
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