少女、はしたない言葉が止まらない
ベルニスタからの留学生、ミシェル王子とラヴァール侯爵令息アルベール。
婚活市場に突如現れた優良物件に、ご令嬢が我先にとアプローチをするせいで、彼らの周りは常に人で溢れている。
「それなのに、こんなところにお越しになるヒマがよくありますね?」
いつものメンバーで昼食を取っておりますと、アルベール様がお見えになりました。
永遠に引き下がっていろと言った私の願いは聞き入れてもらえないのでしょうか? クソが。
「そのことはよく理解しているよ。あまり警戒しないでほしいね」
その台詞は腹に一物抱えている方の常套句ですわ。
やましいことが無ければ、警戒しないでなどと口にはしませんし、理解していると言いつつ、馴れ馴れしいんですよ。クソが。
ほら~、周りのご令嬢達の視線をご覧なさい。私、射殺さんばかりに睨まれてますわ。
アルベール様は物腰も柔らかいし、とても紳士的ではありますが、最初に会ったときのインパクトや、言葉で言い表せない直感的、本能的な部分でコイツには油断するなと、心の中の私が警鐘を鳴らしているのよね。
「それで、ご用件は?」
アリス様が来訪の用件を聞きますと、交歓会という名目で、ミシェル殿下がご令嬢達とお話しする機会を設けたいので、都合を確認に来たそうです。
留学の理由は嫁探しともっぱらの噂ですから、個別にやるよりは、まとめて一度に機会を設けるというのは、理由としてもっともですね。
「失礼ながら、貴国の政情はよく存じておりますので、ラザフォード公爵令嬢様には自身と親しい方のご都合の調整をお願いしたく」
人数が多いので、何回かに分けて開く必要があり、招待者を王権派、貴族派、武官派の3つに分けるとのこと。
無難な選択です。特に王権派と貴族派が同席すれば、揉め事の種にしかなりませんから。
「分かりました。参加者はこちらで確認します。調整はアルベール様にご連絡すればよろしいかしら」
「お願いいたします。そちらからのご連絡はキャサリン嬢経由ということでよろしいですか?」
は? なんで私?
「公爵令嬢自らご調整はなさらぬでしょう。となれば、爵位的にキャサリン嬢かと思いましたが、違いましたか?」
「いいえ、ケイトで問題ありません」
「では、よろしくお願いいたします」
アルベール様はにこやかに去っていきますが、何故に私をご指名なのか?
確かに普通なら爵位的にその通りだが、彼の場合、何か裏があると勘ぐらざるを得ません。クソが。
「ケイト」
「分かってます。仮にも隣国の王子の申し出です。この話自体に不審な事はありませんので、個人的な理由でお断りできる話ではありませんから」
「貴女なら大丈夫だと思うけど、不審な点があればすぐに報告してね」
「かしこまりました」
ベルニスタ側は王子と侯爵令息の他にも、留学に同行する令息が何人かおり、こちらも身分的に上から下まで多くの参加者を集める必要があります。
後日、日程調整を行い、貴族派、王権派、武官派の順で開催が決まり、参加者の選定なども含めて、アルベール様と打ち合わせを行います。
当然1対1で会うわけにはいきませんので、こちらはエマ、向こうも他のご令息が同席しています。
「アルベール様、このような美しいご令嬢とお話できるとは、我等役得ですな。これも何かの縁、仲良くしていただければ幸いです」
お互いの自己紹介をする前に、先制パンチのようにアルベール様の付き添いのご令息がお世辞を言います。
ベルニスタでは運命的な出会いを演出するのがブームなのか?
様子を見るに、付き添いの令息はお世辞ではなく、本当に可愛い女の子と一緒に仕事できてラッキー、といった雰囲気ではありますが、主にその目線はエマのエロティックお乳の高さに向けられます。
結局そこかよ。そのまま水平にこちらへ目線が移ると、なんだか残念なものを見るような憐れみを感じるし。クソが。
「勘違いするな。遊びではない、我々は仕事でここに来たのだ。それにこちらの女性はリングリッド伯爵家のご令嬢だ。失礼があれば……分かるだろ?」
「リングリッド伯爵……鬼のマルーフ……」
「それは禁句だ。失礼だろう」
アルベール様は窘めます。紳士的な雰囲気を醸してますが、アンタもこの前言ったよね。人のこと言えないわよ。
「連れがすまないね。早速打ち合わせを始めよう。まず場所なんだが、湖畔でガーデンパーティーのような形にしようと思っています」
「湖畔ですか?」
交歓会の会場は学園から馬車で1時間ほどかかる、湖畔の保養地だそうです。正直あまり気乗りがしません。
湖畔というオープンな場所、行き帰りの行程、参加者の身分と人数などを総合的に考えれば、不測の事態があったとき、対処が非常に難しいと思います。
無難なところで、学園とか、王都のパーティールームとか、近い場所でそれなりにセキュリティの高い場所ではダメなのでしょうか?
警備の手配だったり、移動のルート確保や移動順だったりと考えることが多くなりそうです。
「ええ。お手間がかかるのは承知ですが、学園の中では普段と変わりませんからね。皆様の為人を知るためには、違う環境もまた一興かと」
違う環境も一興、語呂はいいですわね。
そういうことじゃないんですけど……
「騎士団のご協力も仰いでおりますので、警備の心配はないでしょう。それに辺境や魔境に行くわけではありませんから」
たしかに保養地として開発され、多くの人が利用する場所なので、使い勝手が悪いわけではありません。
「キャサリン嬢は慎重派なんだな。常に警戒を怠らないのは家訓かな?」
「そのような大層なものではありません。ただ手配が大変だなあと感じているだけです」
冗談半分でめんどくさいという空気を匂わせると、アルベール様は怒る素振りも見せず、手間をかけてすまないねと笑います。
「わざわざ隣国から留学された殿下のお頼みですから、微力なれどご協力いたしますわ」
「そう言ってもらえると助かる」
そうして、開催に向けて少しずつ話を進めます。
「細かいところは今後も適宜調整は必要になりますので、改めて打ち合わせの場を設けて頂きたい」
「承知しました。ご連絡頂ければ、予定を空けておきますわ」
今日の打ち合わせは終了。さて帰りますかとなったところで、アルベール様がこの後時間ありますか? と聞いてきます。
「もし良かったら、カフェでお茶でもいかがかなと。いや、僕の連れがエマ嬢ともう少しお話ししたそうだから、時間があればと思ってね」
「アルベール様!」
お連れの令息は慌てていますが、満更でもなさそうです。
これからしばらく交流する相手ですから、友好を深めるのは構いませんが、1対1で行かせるわけにはいきませんので、必然的に私もアルベール様も同行することになるでしょう。
エマは「どうしますか?」と目で合図してきますが、断るのも角が立ちます。
「まあ少しだけなら構いませんよ」
「ありがとうございます。では早速行きましょう」
はあ……なんかコイツの術中にハマったみたいで気分悪いですわね。
クソが。
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