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山椒姫~小粒でもピリリどころではない激辛少女は美人すぎる女性騎士と呼ばれる日を夢見る  作者: 公社
最終話 小粒でもピリリどころではない激辛少女は美人すぎる女性騎士になる(身長???cm)
159/159

山椒姫はいつまでも破天荒<完>

最終話でございます。

「お嬢様、オリヴァー様がお見えです」


 侍女のヘレンが声をかけてきました。


 私の側で仕える侍女は、幼少の頃から側仕えをしてくれて輿入れ先にも同行してきた者、オリヴァーの生家ラザフォードからの応援で来ているベテラン、そして学園卒業を機に私の新人侍女となった彼女の3人。


 ベテランさんは新人の成長を見届けて、問題ないと判断したところで帰任する予定なのですが、「これなら戻りは早くなりそうです」とお墨付きを与えるほどヘレンは成長しているようです。


 私も友人だからと甘い顔はしないし、彼女にとっても実家の商売に貢献できるというチャンスですから、貪欲に知識を吸収しているのでしょう。それでこそ雇った甲斐があるというものです。




「ケイト……綺麗だ」


 純白のウエディングドレスに身を包んだ私を前にオリヴァーがポーッとしております。さては見惚れましたね。


「いや、いつも見惚れているよ。でも今日はそれ以上に美しい」

「いやですわ。皆が見ておりますのに。それを言うならオリヴァーもいつも以上に凜々しいですわ」


 オリヴァーもタキシードに身を包み準備万端。そろそろ時間だということで迎えに来たわけですね。


「ゴメン、1人準備がまだで……」

「ジュリアちゃんたちがまだなのかな?」

「違う。ジュリアちゃんもコーディーもとっくに準備出来ている」


 ジュリアちゃんとは私の長兄フィリップの娘、コーディーくんはオリヴァーのお兄様の息子です。


 両方のお兄様は国境警備の任がある(父に押し付けられた)ので、王都での結婚式には欠席(領地でのお披露目会には参加します)。お父さんの代わりに活躍してもらおうとフラワーガールとリングボーイをお願いしましたら、二つ返事でOKしてくれたのです。


 ただ、2人とも5歳ですから本番を前に緊張しちゃったのかと思ったら、ジュリアちゃんもコーディーくんも中々の強心臓をお持ちのようで、大舞台に臆することなくいつ行くのいつ行くのと待ちきれないらしい。さすが脳筋剣聖と腹黒公爵の孫。


「では誰が? まさか……」

「そのまさかです」





 では誰が準備できていないかと言うと、入場で私をエスコートする大役を担ったマルーフちゃん(50歳(ごじゅっちゃい))でした。5歳の子ですら終わっているというのに、その10倍も生きているいい年した大人が何をしているのでしょう。


「お腹でも下しましたか?」

「心の準備がまだ出来ないと」

「まーだ言っているのですか!?」




 結婚してからはそうそう時間も取れないでしょうからと、嫁に行く前にお父様とは一緒にどこかへお出かけしたり、訓練したり、鍛錬したり、手合わせしたり、斬り合いしたり、格闘戦をしたりと、親子の時間を色々持たせていただきました。


 ほぼ戦ってばかりではないかと? 仕方ありません。お父様の希望優先ですから。


 ただ、積極的に時間を作ったのが逆効果だったようで、要約すると「ケイトは結婚なんかしないでずっとパパと一緒に殺り合っていればいいんだよ!」状態。なので昨晩はお母様と3人で最後の夜を共にし、これまでの感謝を思う存分伝えて、少しは納得したかのように思えたのですが……


「ホントに時間がないというのに……お父様のところに行きます。ヘレン、付いてきて」


 ドレスのまま動き回るの大変なんだから。まったく……




「お父様、時間ですわよ」

「ケイトぉ~」

「情けない声を出さないでください。もう皆さんお待ちかねです」

「旦那様、いい加減に覚悟を決めてください」


 お母様と2人がかりで説得を試みますが、お父様は椅子に前傾姿勢で座ったまま、顔の前で手を組みどうにも渋い表情が消えません。


「娘が嫁に行くのが寂しいのはよく分かります。ですが、最後だからこそ父として快く送り出すべきでしょう」

「分かっているさオリビア。笑顔で送り出してやりたいのは重々承知しているんだ。だけどね……ケイトが生まれてから今日この日までのことを思い返したら、涙が止まりそうにないんだ……」


 エドガーのおじさま(オリヴァーの父)に揶揄われるのが嫌だというつまらない理由ではなく、純粋に私を気持ちよく送り出す心構えが整わないんだと言うお父様の顔は、騎士団にいるときには絶対に見せることのなかった表情です。




「よろしいではありませんか。お父様」

「ケイト……」

「私はお父様にもお母さまにも、愛情をたくさんかけていただいてここまで成長できました。それは私にとってかけがえのないもの。泣くなら来賓が引いてしまうくらい号泣なさいませ。あのマルーフ・リングリッドが手放すのが惜しいと大号泣するくらい私は大切に育てていただいたのですよと、胸を張って言えますわ」

「……フッ。そこまで言われてしまっては涙が引っ込んでしまったわい」


 そこからお父様はスッと立ち上がると、気合を入れるためなのでしょうか自らの手でパンパンと2回ばかり両の頬を叩くと、剣聖と謳われたいつもの威厳に満ちた顔に変わりました。


「では行こうか」

「ええ。早くしないとジュリアに『おじいちゃま、おそいです』と怒られます」

「そいつは困った。娘に嫌われるのも困るが、孫に嫌われるのも堪えるな」


 さあ、式の始まりです。



 ◆



 荘厳なパイプオルガンの音色が響く教会。入り口のドアが厳かに開かれると、中には大勢の参列者が左右に座っております。


 その中央には踏みつけるのがもったいないと思うくらいに上質な布で敷き詰められた一筋の道。奥に目をやれば、オリヴァーが待ち構えております。


「ケイト、準備はいいか」


 お父様がそっと肘を曲げて差し出してくるので、軽く手を添えるように寄り添います。


「ジュリアちゃんもコーディーくんもお願いね」

「はい!」

「まかせて!」


 そして参列者の拍手にいざなわれるように中へと進み始めます。




「ワシのこと投げ飛ばすなよ」

「私に投げられるほどヤワではございませんでしょ」


 緊張を解きほぐすようにお父様が冗談を言ってきます。さっきまで「泣きそう……」とか言っていたのは何だったのでしょうか?


 ほとんどの参列者はドレス姿の私に注目しておりますが、そんなお父様の異変を一部の目ざとい方は感じ取っている様子。具体的には最前列右手、ラザフォード家の面々ではエドガーのおじさまやアリス様。左手リングリッドではケヴ兄やネイ兄、そのほかには騎士団や軍関係でお父様と懇意にしている方々。言い換えれば、この場でお父様が絶対に大号泣して登場するだろうと想定していた面々です。


 あ、おじさまと目が合った。お父様を見ると目線がそちらのほうに……何故にドヤ顔をしていらっしゃるのですか。




「さあ、私はここまで。後はオリヴァー君、任せた」

「はい。終生大事にいたします」

「その言葉、忘れるなよ」

「忘れろと言われても忘れはしません」


 隣に立つ相手がお父様からオリヴァーに代わるとき、2人が小声でそんなやり取りをしていたのが聞こえました。


「それではただいまから宣誓の儀を執り行います。新郎オリヴァー・ギャレット。汝は…………」


 そこからはよく覚えておりません。オリヴァーに促されて何かに「はい」と答えたような、唇に温かい感触があったような……気がつけば式は終わり、教会の前で皆様から祝福を受けておりました。






「ケイト、おめでとう!」

「お幸せに!」

「羨ましいぞ!」


 皆様が口々にお祝いの言葉をかけてくださいますので、笑顔で手を振りそれに応えます。


 先の方に目をやると、友人たちを優先して家族は後で待っておりました。そしてそこからさらに離れ、庭の隅でお父様とエドガーのおじさまが佇んでいます。なんだかしんみりした表情をして、悲しんでいるお父様をおじさまが慰めているのでしょうか。


 ……と思ったら、騎士の方が何やら慌てて2人の元へ駆け寄っていきました。


 あれ、2人とも急に表情が険しくなったぞ。


「何かあったのでしょうか」

「よくない話のようだが」

「ちょっと行ってみましょう」




 2人に近づいてみると、「こんなときに」とか、「舐めたマネを」と毒づいている様子。間違い無く厄介な話が舞い込んできたのでしょうか。


「お父様、おじさま、いかがなさいましたか」

「ケイト、お前は聞かなくても大丈夫だ」

「そうそう。今日の主役が余計なことに煩わされずともよい」

「どのみち分かるのですから隠すこともないではありませんか」


 私たちに気を遣ったのか大丈夫だと仰るお父様たち。しかし2人を相手に騎士の方がいらしたということは、用件は軍に関係すること。それも急を要するとなれば可能性は自ずと絞られます。


「戦でも起こりましたか」


 そのことはオリヴァーも感じていたようで彼がそう尋ねてみると、おじさまがよく分かったなという顔をしております。


「この状況で伝令が来たこと、2人の表情を見れば何となく察しました」

「さすがは私の息子と言いたいところだが、このようなときに物騒な話をしてすまんな」

「それで何があったのですか」

「ベルニスタが攻めてきたらしい」

「またですか!?」




 前のブロワーズ侵攻の一件があったとき、相手を退かせるためにお父様たちが軍を率いてトランスフィールドから直接ベルニスタに攻め込んだわけですが、その際に敵の防衛拠点となる城を中心に一帯を我が国が占領いたしました。


 その地域はどちら側からも攻めるに難く、そこを我が国が抑えたことでベルニスタは喉元に刃を突きつけられた形になり、あちらはかなり窮しているとのこと。今回はそこを奪還せんと久しぶりに大軍を動員してきたようです。が……


「よくもまあこれだけ頻繁に戦を起こせますね」

「かなり国情は悪いようだな。ゆえにここで乾坤一擲の大勝負としたいのだろうが、南のブロワーズもピノワールも他の国も今や我が国の同盟国。こちらに全戦力を向けるというのは到底無理な話。むしろこちらからトドメを刺しに行ってやってもいいくらいだ」


 相次ぐ敗戦と周辺国の離反によって、これ以上の戦線維持は難しいと唱える方たちもいたようですが、世情を荒らす不届き者と多くが公職を追放されたそうで、ベルニスタ軍の指揮官にまともな将は残っていないとのこと。


「どうするエドガー、潰すか?」

「お主に勝算があるなら止めはせん。戦後処理が面倒だからあまり派手に暴れ回るなよ」

「分かっておるわ」

 



 今、最前線で指揮を執っているのはフィル兄様。守るだけならお兄様に任せておいても十分対応出来るところですが、禍根を残さぬよう王都からも軍を派遣し、この先再び面倒が起こらないようにするようです。


「まったくタイミングの悪いことだ」

「そうでもありませんわよオリヴァー。新婚旅行先が決まりましたのよ」

「……え、本気で?」


 そうですわ、そうですわよ。その帰り道でリングリッドとラザフォードの領地に立ち寄ってお披露目会を開けば全て済みます。


「ケイト、遊びに行くわけじゃないんだぞ」

「分かっておりますわお父様。私は騎士として従軍するのです」

「いやいやいや、お前はアリス嬢の護衛なんだから外地へ遠征する必要は無いだろう」


 お父様が仰るのも分かりますが、ベルニスタとの因縁は何だかんだで私も大きく関わりました。ここまできて最後だけ傍観者というのも面白くありません。


「面白いとか面白くないという話ではないだろう。オリヴァー君もなんとか言ってやってくれ」

「いや無理でしょう。義父殿もこうなる気がしたから言おうとしなかったのでしょう」

「そうだけどさ……」

「ここは仕える主に意見を聞いてみてはどうですかね」




 オリヴァーがアリス様を手招きして呼び寄せます。事情はあちらでも話題に上がっていたようで、何の話かは分かっておいでのようです。


「どうだいアリス。お前がダメだと言えば命令には逆らえない」

「よろしいのではないでしょうか。行きたいのでしょうケイトは」


 参戦に意見を求められると、しばし思案を……することなく行けばいいじゃないとあっさり言い切られます。


「アリス嬢、お遊びではないのだよ」

「あら、卿は十分に勝つ算段がおありなのでしょう。それも特に危ない策を用いることなく。ですわよねえお父様」


 アリス様がエドガーのおじさまに話を振ると、マルーフのことだから娘を危険な目に遭わせるようなヘマはしないだろうと、おじさまがいつもの悪い笑みを浮かべております。


「他人事だと思って……分かった分かった。ケイト、来たいのなら来るがいい。共に戦場を駆けることなどこれが最後になるだろうから、父の戦いぶりとくと目に焼き付けておけ」

「ありがとうございます!」



 ◆



「お兄様も大変な子を嫁にもらったものですね」

「アリスの口からその言葉が出てくるとはな。ケイトがそういう子だというのはお前もよく知っているだろう。だからこそ退屈しない」

「無事にお帰りになってくださいな」

「ああ。彼女といると何だか不思議と大丈夫な気がする。トラブルに巻き込まれすぎて感覚がおかしくなったかな」




 なんでしょう……オリヴァーとアリス様がこちらを見て苦笑いしております。きっとヤレヤレとでも思っているのでしょうね。


「旦那様、帰ったらすぐに出陣の支度ですわよ!」

「ああ、分かっているよ」


 こんな破天荒な女がいいと嫁にもらってくれた貴男のためにも、これからもバリバリご期待に沿うよう暴れますわよ。


 取り急ぎはベルニスタ軍を叩き潰すことですかね?




「ケイト……お前はワシの側で戦況確認じゃ」

「先陣切って?」

「切らない。オリヴァー君にはコイツと共に行動して、ウロチョロしないように見張っていてくれ」

「畏まりました」

「ええーっ!」

「ええーっ、じゃないよ。いくら何でも最前線に送り込むわけがないだろうが」

「旦那様~」

「一応新婚旅行って建前だからね。自分で言ったんだからそこは我慢しようか」

「ええーっ!」






 リングリッド辺境伯令嬢改め、ギャレット伯爵夫人キャサリン。


 ベルニスタとの戦では監軍として同行したのに、いつの間にやら父と共に最前線で刃を振るい、戦勝の立役者として凱旋。


 その後、晴れて王太子妃となったアリスの護衛としてその側に仕え、主にも負けぬ美貌で社交界でも名を馳せたが、それ以上に名を馳せたのはその数々の破天荒な立ち回りで成した武勇伝によるものである。


 その名声の裏には行動を常にサポートし、たまに嘆息したり尻ぬぐいしたりしつつも、常に彼女の側にあった優しき夫と、2人の間に生まれた4人の子供たちに支えられ、いつしかキャサリンは『王国一の美しき女騎士』と謳われるようになるのであった。

これにて「山椒姫~小粒でもピリリどころではない激辛少女は美人すぎる女性騎士と呼ばれる日を夢見る」完結です。

自身初の連載物ということで書いているうちに「終わらせるの寂しいな……」と情が湧いてしまいまして、当初は第2部で終わらせるつもりの話を第3部第4部と続けてまいりましたが、卒業~結婚を機に区切りとさせていただきます。


そして、お読みいただいた全ての皆様への感謝を述べると共に、これだけ言わせてください。


評価ポイントください!(超重要)


「完結お疲れ!」とか、「面白かったぜ!」と思っていただけたらポイントを入れていただけると非常に嬉しいです。クレクレがお嫌いな方がいるのは重々承知しておりますが、作品を完結したご褒美にささやかなお願いをしたと大目に見てやってください。


最後になりますが、1年と2ヶ月にわたりお付き合いいただいた読者の皆様には篤く御礼申し上げます。


ありがとうございました!

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[一言] 新婚旅行が戦場とか実に「らしい」 美人すぎる女性騎士というよりは強すぎる美人騎士に落ち着きそうな最後
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