おれが特許侵害 :約1500文字
「……うお、すみません。……え?」
昼下がりの住宅街。柔らかな日差しがアスファルトを照らし、近くの家からテレビの笑い声がかすかに聞こえてくる。
そんな静かな通りをのんびりと歩いていたときだった。
横道から二人の男がすっと現れた。危うくぶつかりそうになり、おれは反射的に立ち止まった。
おれは軽く会釈し、体を横にずらして通り過ぎようとした。だが、なぜか男たちもまた横へずれ、おれの進路をぴたりと塞いだ。
二人とも帽子を被り、きっちりとしたスーツ姿で、どこかお堅い雰囲気をまとっている。
「あの、なんですか……?」
おれはおそるおそる訊ねた。
「あなた、特許侵害をしましたね」
「え?」
「先ほどの動き、特許侵害です」
「先ほどの動き……?」
「それで前へ進んでいたでしょう」
「あ……これ?」
おれは戸惑いながら、その場で軽く跳ねてみせた。つま先で地面を弾くように、ぽんと一歩。
「そう、そのスキップという動作です」
「数日前から何度もやっているでしょう」
「え、いや、まあ……」
言われてみれば確かに最近よくやっている。歩きながら、なんとなく。なんだか楽しい気分になるのだ。
おれはへらっと笑ってそう説明した。だが、男たちは揃って眉間に皺を寄せた。皺もまた揃うと機械的に見える。
「その動きはですね、天任堂さんが特許を取得しているんですよ」
「無断で使用させると困るんですよ。我々が責任を問われてしまうんです」
あそこはすぐ訴えてくるからな――片方はそう言って、ため息をついた。
「いや……は? こんなの別に普通の動きでしょう。誰でも思いつくような。何言っているんですか、いったい……」
意味がまったくわからない。冗談ではなさそうだが、頭がおかしいのか。だが二人揃ってというのは妙だ。では詐欺か。いや、当たり屋かヤクザか。
おれはじりじりと後ずさった。
「あっ、その動き!」
「えっ」
「……いや、大丈夫だ」
男たちは胸ポケットから手帳を取り出し、顔を寄せ合って低い声でぶつぶつ話し始めた。だが、その視線だけは一瞬たりともおれから外れない。おれが首を傾げると、二人はまた同時に身構えた。どうやら、おれの動作一つひとつに神経を尖らせているらしい。
「なんなんですか、もう……。結局、何が言いたいんですか。お金ですか? 持ってませんよ。やっとバイトが見つかったばかりなんですから」
「いえ、賠償金を支払うのは我々のほうですよ。あなた方ユーザーはアカウント削除で済みますけどね」
「勝手にモーションを作るのは構いませんが、特許権侵害には注意してくださいと利用規約に明記されているでしょ」
「は……?」
今、なんて? 一瞬、意識が途切れた。
「……いや、ちょっと待て」
片方の男がふと眉をひそめ、おれの全身をじろじろと眺め始めた。
「こいつ……NPCじゃないか?」
「え? ……ああ、本当だ。じゃあ、あのモーションはバグか? すぐにシステム部に通達して修正だ」
「え、いや、何言ってるんですか」
そう問いかけたが、二人は無視し、踵を返してさっと横道へ入っていった。
おれは慌ててその後を覗き込んだ。
だが、そこには誰の姿もなかった。ただ住宅の庭から突き出た枝から、枯れ葉がひらひらと地面に落ちていくだけだった。
「……もう、行くか」
白昼夢でも見たのだろう――納得はできないが、そう自分に言い聞かせ、おれは再び歩き出した。
だが、お気に入りだったあの“跳ねる動き”はなぜかまったくやる気になれなかった。
おれはただ歩いた。
歩いた。
歩いた。
歩いた。
歩いた。
歩いた。




