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駆け巡る青春は稲妻のように  作者: 一二三楓


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4/11

親友は憂慮する


 御手洗から戻ってくると結真の席で璃羅と兎萌が待っていた。


 「ゆまちゃん、おかえり。虫刺され大丈夫?」

 「あっ……うん、大丈夫」


 どうやら首に残る痕については、璃羅が上手く誤魔化しておいてくれたおかげで、兎萌からそれ以上言及はなかった。

 

 “季節外れの虫刺され”にはこれからも気をつけないと。


 「絆創膏ありがとうね」

 「あぁうん……ちょっといい?」


 そう言うと結真の手を引いて真剣な顔で教室を出ていく璃羅。

 黙ってついて行くと、人気の少ない廊下の柱の影で足を止めた。

 ゆっくりとこちらに振り向く彼女の視線は真剣で、悲痛にすら感じる。


 「それで?」

 「それでって?」

 「その痣のこと……話す気、ある?」

 「ない……かな」

 

 大きく見開かれた眼。

 振り上げられる手。


 思わず身をすくめ、ぎゅっと目を瞑った。

 

 ……けれど、いつまで経っても痛みはこなかった。

 代わりに強い力で思いっきり抱きしめられた。

 結真を包み込む温もり。

 そして、胸を衝くシトラスの香り。


 「前にも言ったけど心配なの。酷いことされてないか……乱暴されたりとか……。その痕だって、そうだよ。好きな人や優しい人となら構わない。結真が認めた人なら何も言わない。それが愛の証ならね。でも傷だったらって思うと無理なの!見過ごせないの!」

 「心配してくれてありがとうね。璃羅は優しいね。でも大丈夫。その人も璃羅と同じくらい優しい人から」

 「じゃあ……隠さないでよ……」

 「ごめんね」


 感じる罪悪感。そしてそれ以上に親友からの愛情を感じていた。


 今日はなんだか朝から、『お姉ちゃん』のような存在の人たちに心を揺さぶられてばかりいる。

 

 ───予鈴だ。

 

 教室に戻る前にそっと耳元でもう一度、「ありがとう」と囁いてからハグをした。そしてふたりは仲良く手をつないで教室へと戻った。



◇◇◇

 


 ふたりが教室から出ていったあと───


 残された兎萌はほかのクラスメイトたちから距離を置いて、自分の席で読みかけの文庫本を取り出した。そして栞をさしたページを開く。

 

 今、世間で話題の青春ミステリーだ。

 内容は、女子高生が親友の死の真相を探っていくというもので、主人公は性格がちょっと結真に似ていたりする。

 もしも結真が主人公なら───死んだ親友は、自分か璃羅のどちらか。

 それをほんの少し想像しただけで胸が奥が針で刺したみたいに鋭く痛んだ。

 そして兎萌は頭を振る。そうして嫌な想像をすぐに頭の中から追い出した。


 とりあえず小説の半分までは読みたいと思い、気を取り直してページを捲る。


 1ページ、2ページ、3ページ、……と進んでいき、物語の一つの山場に差し掛かったタイミングで「おはよう」という誰かの声。

 読む手を止めて顔を上げると、そこには璃羅と同じ陸上部の白金晴信しろがねはるのぶが立っていた。


 晴信に気づくと一旦本を閉じて兎萌も、「おはよう」と返す。

 晴信とはクラスは違ったが、璃羅を通じて中学の頃から親交がある。結真とは馬が合うようで特に仲がいい。


 「同じクラスは何気に初めてだよな。これから一年間よろしくな」

 「こちらこそよろしくだよぉ」

 「あいつら2人は?」

 「ゆまちゃんとりらちゃんならね、出てったよ。さっきまでいたんだけど」

 「そっか」

 「なんか用事だった?」

 「いや、おんなじクラスになったから声かけにきただけだよ」と言って晴信は、左頬をかく。


 晴信がここにいるということは、もう一人よく知る男子がいるはずと掲示板にあったクラス分けを思い出し、兎萌は「あさひくんは?」と晴信にたずねてみた。


 「あぁ、あいつなら───」

 「───いるよ」


 噂をすれば晴信の背後から瀬戸旭せとあさひがぬうっと出てきた。紙パックのコーヒー牛乳を片手に、あくびをしている。


 「お前何でそんな眠そうなの……?」という晴信の呟きを無視して、棒付きキャンディをくれた。

 「あっ、コーラ味だ」

 「つい、朝までゲーム実況みちゃって」

 「入学式はちゃんと起きてようね」

 「大丈夫。今コーヒー飲んでるから」

 「いやコーヒー牛乳は、コーヒーに含まれないだろう。ボトルコーヒーとかにしろよ」

 「はぁ、苦いだろ」

 「だったら微糖にするとか、エナドリ飲むとかあるだろうが」

 「はぁ、甘いだろうが」

 「いや、コーヒー牛乳も甘いだろ!!」

 

 漫才を始めるふたりを放っておいて、兎萌は自分の席に座るともう一度小説を開いた。


 だが結局、すぐ先生が来てしまった。


 「SHRショートホームルーム始めるから席について」


 生徒たちが一斉にガチャガチャと椅子を鳴らして席につく。進学校なので、こういうところで手間取ることはない。基本的にはみんな真面目で、ちゃんとする時はちゃんとする。

 結真たちもいつの間にか戻ってきて、自分の席にいた。


 「みんな、まずは入学おめでとう。今日から君らの担任になる豊島麗奈とよしまれいなです。担当教科は日本史。これから入学式について説明するから───」

 

 先生から入学式の流れが説明され、あと式典なので服装はしっかりとするように言われた。今一度、各々が身だしなみを整える。

 

 担任の豊島先生は、クールな感じだけど怖い感じはしなかった。生徒との間には一線引いて、見守るスタンスなのかもしれない。そして、すごく美人なのだ。同性の兎萌でも一瞬、見惚れてしまうくらいだから、男子人気はきっとものすごいだろう。


 そんなことを考えているうちに、先生の服装チェックも入り、クラス全員が廊下に整列する。そしてクラスごと、講堂へ。

 

 ついに、入学式が始まった。


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