↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合、駆け巡る青春は稲妻のように  作者: 一二三楓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/20

晴れのち嵐


 桜の季節も終わりが近づき、緑の葉が目立つようになってきていた。


 高校生になって二週間────クラスにもだいぶ慣れてきた頃。 


 いつものように結真の周りを囲む親友たちの姿があった。

 机の上に腰掛け、足を組む。スカートから伸びる陸上で鍛えられた美脚と薄く焼けた肌が、彼女の日々の努力を物語っていた。


「璃羅、春休みにコスメほしいって言ってたじゃん。あれ、週末に行かない?」


 日々の練習のせいか、太ももに触れるとやや筋肉の張りを感じる。労いの気持ちと共にそっと擦りながら週末の予定を提案してみる。


「マジ?いいの?」

「うん。うさぎちゃんも一緒に買い物行こうよ。璃羅のコスメをふたりで選ぼうよ」

「いいなぁ、行きたい。多分大丈夫だと思うけど、一応お母さんに確認してから連絡するね」

「そっか。おうちのケーキ屋さんの手伝いね」

「そう。お休みの方がどうしても忙しいから。それにちゃんとバイト代もらってるからそこはちゃんとしないと」

「真面目だなぁ。私もそろそろバイト探そうかな」


 近々泊まりがけのオリエンテーションもある。結真は腕組みをして考え込む。

 一泊とはいえ、必要なものも出てくるはず。日々の生活とは違うところにもお金が必要になってくると、自由に使える分を確保できるアルバイトをしておいて損はない。


「えっ、結真。部活入らないの?」

「入らないよ。面倒いもん」

「兎萌は?」

「私もうちの手伝いがあるから。部活はちょっと」

「そっか。そうなんだ」


 部活に入るのは自分だけだと知り、璃羅は肩を落とした。


「璃羅は陸上、続けるんでしょ?春休みも高校の練習出てたし」

「あっ、うん。そりゃ続けるけど。なんか新しいこともしたいかなって」

「なになに?」

「その……ギターとか、やってみたくて。楽器できるのかっこいいじゃん」

「軽音部と兼部するってこと?何に影響されたのやら」

「いっ、いいじゃん別に。動機はなんだって!まだ決めてないけど。ほら、柔心が軽音部じゃん。だから」

「話、聞いたらかっこいいってなった?」

「そう……」

「ギター始めるのはいいけど、兼部は大変じゃない?陸上部で期待されてるんでしょ?」

「だからまだ分からないって。あっ、でも軽音部は結構緩い感じらしくて、参加できるときに、みたいな」

「まぁ璃羅がやるっていうなら、応援するけどさ」

「私も、応援するよ」

「うん……ふたりとも、ありがとう」

「ギターねぇ。軽音部がどんな感じか、柔心ちゃんに証言させよう」


 教室内をぐるりと見渡す。

 だが柔心の姿がない。

 兎萌も首を傾げる。

 まだ教室に現れていないらしい。

 

「あれ?いないねぇ」

「音恋ちゃんは席で寝てるけど」

「ねこちゃんに聞いてみたら?」

「璃羅、お願い。音恋ちゃん連れてきて」

「自分でいけよ」

「だって、寝てるとこ起こすの可哀想じゃん」

「じゃあ、寝かせといてあげなよ」

「だって、璃羅のことだよ?」

「まぁ、そう……。いや、そうだけど違うだろ。あんたが急に話を聞きたくなっただけでしょ」

「仕方ないなぁ〜。後にするか」

「行かんのかい」


 ふたりのやり取りをクスクス笑って見ていた兎萌が音恋にそっと近づいていった。


「ねこちゃん、起きて。ねこちゃん、お話しよ」

「はぅあ!?」


 脳が蕩けてしまいそうな甘い囁きに、音恋が奇声を上げて飛び起きた。


「ふふ、おはよう。にゃんちゃん」

「ひゃ……兎萌、やめえって。にゃんちゃん、呼ばれるの恥ずい」

「えー、柔心ちゃんだけ特別扱い?」

「ちっ、ちがくって……」


 慌てふためく音恋の様子に、兎萌がいたずらっぽく微笑んだ。

  

「兎萌って、意外とS?」と、手を引かれてやって来た音恋がボソリと呟いた。


「う〜ん?音恋ちゃんの反応を見ると、あの対応が正解って気がする!」

「音恋が、Mってこと?」

「おい。何、好き勝手言ってん?」

「うさぎちゃんのASMRは、夢心地だった?」

「なんか、ゾクゾクって脳が喜んでた」


 音恋の反応には少々倒錯的な色味が含まれていた。


「なんか変態っぽいな」と、自分を抱き、身震いして璃羅が顔を引き攣らせる。

「なんで!?」

「だってねぇ。ゾクゾクしたとか、脳が喜んだとか、ねぇ?」

「確かに。その反応を聞いたこっちは、ゾワッだよね?」

「ちょいひどくない!?あんなエロい声で起こす兎萌が悪いと思う!」

「うさぎちゃんをエロい目で見てるってことで間違いない?」

「やっぱ、変態じゃん」

「ちーがーうー!うー……」


 腐れ縁の柔心と違い、まだ知り合って日の浅い彼女らに手を上げることもできず、音恋が悲鳴にも似た叫びを上げ、唇を噛む。


「ふふ、ごめんね。私、ねこちゃんの気持ちには応えられないの」と兎萌は、にこやかに残酷なことを言う。

「いや告ってないのに、なんでうち、振られてんの!?」

「ねぇ、柔心ちゃん知らない?」

「切り替え早っ……。柔心?多分、軽音部の部室じゃない?」

「だからいないのか」

「今度、なんかのイベントで歌うから練習忙しいって」

「えっ?柔心ちゃんって、ボーカルなの?」

「あっ、うん。あいつの歌、めっちゃ上手い。カラオケで普通に100点とか出すし」

「マジで?ヤバッ」

「じゃあ、今度カラオケ行こうよ。にこちゃんの歌聴きたい!ねこちゃんの歌も!」

「うちは全然普通だから」

「じゃあ、音恋にはカラオケで踊ってもらおう」

「それいい!」

「なんか、すごい技決めてもらおう」

「ちょっと。あんな、狭いとこで無理だから」

「じゃあ、アイドルダンスを完コピしてもらおう」

「さっきから、うちへの無茶ぶりエグいて」


 声を上げて笑い合う三人につられ、音恋も笑みを浮かべる。

 入学式の日に仲良くなった音恋と柔心と一緒にいる時間も自然と増え、今では五人でいるのが当たり前になりつつあった。


 騒がしい昼休みの一幕。

 ざらつきのあるノイズ混じりのお昼の放送。

 ヨルシカの『春泥棒』が校内を包んでいた。

 誰の選曲か、桜も終わる頃。どうしても結真たちに青春を感受させたい輩がいるらしかった。



◇◇◇



 放課後の突然の荒れ模様。

 季節の変わり目の影響だろう。

 雷鳴を伴う、桜散らしがやってくる。

 コンクリートを打つ激しい雨足。


 いつもならカバンに入っているはずの折りたたみ傘が見当たらない。

 結真は玄関口で立ち尽くしながら頭を掻く。


 兎萌はお店の手伝いがあると先に帰り、他のみんなは部活に勤しんでおり、運悪く今日は結真ひとり。

 空を見上げた瞬間、厚い雲に覆われた空が瞬き、雷が鳴る。


「きゃっ!」


 お腹の底に響くような音に驚いて慌てて耳を押さえた。

 ちょっとこれでは、すぐに帰れそうにない。


「ついてないなぁ……」


 ため息と共に持っていたローファーをもう一度下駄箱に戻した。

 そしてそのまま結真は教室へと逆戻り。

 篠突く雨。

 窓ガラスに当たる数え切れない雨粒と雲の合間を走る青紫色の稲妻。


「仕方ないから勉強でもするか。どうせGW明けたら、すぐに中間テストだし」

 

 廊下を歩くと、湿気で上履きのゴムが引っ付き、ぺたぺたと音が鳴った。

 教室の扉をそっと開けると、中には誰もいない。

 いつもは喧騒で溢れている教室を独り占めするのは、ちょっと贅沢で不思議な感じがする。

 雨に濡れながら家まで走っていたら、この気分は味わえなかった。

 雨音をBGMにカバンから取り出した勉強道具を机の上に並べていく。


 こないだの確認テストで英語がイマイチだった。

 そう思い返し、英語のテキストを取り出し、結真はひとり優雅に勉強を開始する。

 高校英語になると時制も複雑になるし、覚えなければならない単語も増えてくる。


 窓の外では、また空が光った。

 雨風に軋む教室の窓。

 激しい自然の鳴動が、逆に集中力を呼び覚ましてくれる。


 英文を読んでペンを走らせ、日本語訳を確認。新しい単語はノートの端の方にメモしてから、スマホで意味を調べる。

 授業のときに先生に聞かれても困らないようにしっかり準備しておく。

 次の授業の範囲が終わる頃、結真のスマホが震え出した。


 画面を見ると、千種からの着信だった。

 何かあったのだろうか。


『もしもし。千種ちゃん?』

『ゆまちゃん!?』

『慌ててどうかしたの?』

『どうかしたのじゃないでしょ。今日、うちに夕飯食べにくるって言ってたのに全然来ないから心配してたの』


 時計を見るといつの間にか六時過ぎていた。どうやら勉強に集中しすぎていたようだ。


『あ、ごめんなさい。雨が酷かったからやむまで勉強してて』

『そうだったの。今どこ?』

『まだ学校』

『傘は持っていかなかったの?』

『それが、カバンに入ってると思ったらなかった……』

『まぁ無事で安心した。傘ないなら、今から迎えに行ってあげる』

『え、そんな。悪いからいいよ』

『明日の朝まで雨の予報だし、遠慮しないの』

『うん……わかった。待ってる』

『じゃあ、着いたら連絡するから』


 通話を切ると、握りしめていたスマホをポケットにしまった。

 外は相変わらずの雨模様。しかし雷雲はやや遠ざかり、真っ暗に塗りつぶされていた空に少しだけ明るさが戻っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。