表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

恋理を知り、絆理を紡ぐ


 結真は淡いブルーのバスタブの縁を撫でながら天井を眺める。天井のライトから落ちる電球色の灯り。

 姫翠がお風呂からいなくなったせいで妙に静かに感じる。あんなに騒がしかった心臓も今は大人しく、一定のリズムを刻んでいる。


 「冷たっ」

 

 上から落ちてきた雫が顔に当たる。

 冷水をかけられてしまった。

 お風呂ではしゃいだ罰かもしれない。


 さっきよりも広く感じる湯船に沈んで、深いため息を吐く。


 「はぁ、独りで寂しかったから来たのにさぁ。ひーちゃんのバカ。ゆまちゃんを独りにするな……」


 切ない小さな呟きは泡となって消えていく。

 あとに残るのは時折、流れるお湯の音だけだった。


 自分がどんな顔をしているのかは、結真自身にもわからない。白い湯気に覆われて、鏡も曇っていたからだ。


 重たいのだろうか、と結真は自問しながら、盛大にため息をついたのだった。


 「このお風呂、めっちゃ足伸ばせる」



◇◇◇



 ふたりは別の場所で、同じようにため息をついていた。


 「はぁ、頭クラクラする」


 調子に乗って長湯したせいだ。


 立ち去る自分の背中にかけられた結真の声色が、恐ろしく事務的に聞こえた。


 「怒ったかな?いっぱい揉んで、置き去りにしたから?」


 結真はまだお風呂から戻ってこない。

 部屋中を行ったり来たりしながら、百面相をする姫翠。頭を抱え、つい悪い想像をしてしまう。


 「あぁ、結真ぁあ!ごめんよぉお」


 こんな姿を親に見られたら、なんて言われるか。今日ほど部屋を防音しておいて良かったと感じる日はない。


 「この部屋なら何かしてもバレない───」


 浮かんでくるのは、結真の柔らかい感触やボディソープのいい匂いばかり。


 「───ぁぁあああ!!」


 姫翠は絶叫を上げ、ベッドにダイブする。

 見なくてもわかる。今の自分の顔はこの上ないくらいに真っ赤になっている。


 姫翠は自分が思ってる以上に変態だったらしい。顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。


 「誰か殺して……」


 羞恥心で死にたくなっていると、ガチャリと開くドア。

 その音で空気が一変する。姫翠は声にならない悲鳴を上げながら、ベッドの上に正座して三つ指をついた。


 「ドライヤー貸してほしいんだけど……。ひーちゃん何してるの……」

 「ゆっゆっ結真さん!?」

 「何で敬語なの?」


 髪を拭きながら部屋に戻ってきた結真は、変なものを見るような顔をする。


 「なんでもないって!ドライヤーね!」


 猫脚の白い化粧台の上にあった。

 変に意識しているせいで、どうしようもなくぎこちない。


 「はい。これ」

 

 バタバタとさっきまで使っていたドライヤーを手渡すと、「ちがうー」と小さく唸り、下を向いたまま動かなくなってしまった。


 いったい、どうしたのだろう。恐る恐る結真の顔を覗き込むと、何やら葛藤を滲ませていた。


 「結真……?」 

 

 心配になった姫翠は、そっと小刻みに震える背中に手を添えた。そして温もりが伝わるようにゆっくりさすってやる。


 「……」

 

 結真は意を決して顔を上げた。


 「ひーちゃんが、乾かしてよ!」


 犬歯を剥き出しにして吠える結真と唖然として固まる姫翠。


 止まった時間は長かったようにも、短かったようにも感じる。

 

 「えっ、様子が変だったのってそれが理由?」

 「いいから、は・や・く!」

 「わかりました……」と言って、急かれた姫翠はドライヤーを受け取った。


 「じゃあ、そこ座って」


 結真をソファーに座らせ、しっとりと水気を含んだミルクティー色の髪を片手で掬い上げる。


 「髪、綺麗」


 毛束が多く、染めているのにダメージが少ない。

 しかしボリュームがある分、乾かすのは大変そうだ。

 ドライヤーをONにし、冷風を当てていく。上から下に丁寧に、丁寧に。


 「ねぇ私に髪を触られるの嫌じゃないの?」

 「なんで?」

 「いやー、だって……さっきのこと」

 「嫌じゃない。ひーちゃんにしてもらいたかったの!」

 「でも……」

 「でも、じゃない!手を動かしなさい」


 口元をへの字にして前を睨む。風を当てるたび、靡く結真の髪。

 

 姫翠は反対にへにゃりと顔を緩ませた。


 「結真の髪ってふわふわだよね。ゴールデンの仔犬の毛並みたい」

 「それって獣臭いってこと?」

 「なんで!ほめてるのに!」

 

 今度はゆっくり温風を当てると、広がるお揃いのシャンプーの香り。

 不意にお風呂での記憶が蘇る。


 「あっ、えっと。な、なんか観たい映画ある?」

 

 手を動かしながら、足をブラブラさせている結真に聞くと、少し考えたあとに「アクション」と答えた。


 「アクションね。じゃ、じゃあ面白いの探そっか」

 「うん」


 テーブルに置かれたお菓子の山。

 部屋の電気を消して、お菓子を片手にスクリーンを見つめるふたりの夜は更けていく。


 「結真、眠いの?」

 「う〜……」


 いつの間にか結真はうとうと舟を漕いでいた。


 「ベッド、行こうか」

 「うぅ」


 目を擦り、半分夢の中にいる結真の手を引いてベッドに横たえる。


 「ひーちゃん、ぎゅってして……」

 「うん……」


 やがて、ふたりは抱き合うように夢の国に旅立っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ