思惑
「やはりこの布陣で正解だった。」
発言の主は吉川広家。
「然しもの秀元と言えども、私の言う事は聞かざるを得ない。秀元の大兵が動かなければ、恵瓊に長束。そして長宗我部も兵を動かす。単独で家康と相対す度胸は生まれない。それに……。」
毛利はこのいくさを戦ってはならない。
「このいくさは家康と宇喜多の揉め事であって、本来毛利が関わる謂われは無かった。それを殿が……。」
安国寺恵瓊なんぞに誑かされてしまったから、斯様な諍いに巻き込まれてしまったのだ。
「恵瓊にはそれ相応の報いを受けてもらう。しかしこの状況。どちらが勝つか正直わからない。秀元を始め皆が戦いたい気持ちも理解する事が出来る。もしかすると家康を亡き者にする事が出来るかも知れない。そうなれば……。」
毛利が豊臣政権の中枢を占める可能性が見えて来る。
「しかし……。」
毛利輝元はその器では無い。
「今の状況を束ねる事が出来るのは家康をおいて他には居ない。故に私は不戦を選択したのだ。
『それなら家康の側に付いて、戦った方が良いのでは無いか?』
勿論、その考えもある。
しかし今の状況を見てもわかるように、いくさは何が起こるかわからない。数では徳川方が多く、実際宇喜多や石田は困っている。その証拠があの狼煙。一方、徳川は徳川で攻め手に欠ける所がある。故に家康は我らの前を通過した。福島らに戦う事を促すために。南宮山で調略する事が出来ているのが私しか居ないにも関わらず。である。
もし徳川方が攻め疲れ、退却を余儀なくされた時……。」
南宮山の兵力が活きて来る。
「『徳川方として参戦し、彼らを救う?』
んなわけ無いでしょう。私が兵を動かす時は、宇喜多の側に立ってに決まっている。南宮山に居る、他の連中が宇喜多側にあるのは勿論の事。それ以上に……。」
退却する兵を狙う事程美味しい仕事は無い。
「その際は……。」
人質には犠牲になっていただく所存。
「大事なのは毛利。家康に出した人質では無い。家康に価値が無い以上、それに引っ張られる必要は無い。これは福原(広俊)とも話は付いている。戦後、我らが家康の側に立っていた証拠は無いに越した事は無い。後は……。」
戦功第一となるべく戦うのみ。
「狙いは勿論徳川家康。奴の手勢は未だ到着していない。例えこのいくさに敗れたとしても、徳川は無傷。加えて東国は徳川方が大勢を占めている。このままではいくさを終える事は出来ない。それは困る。このいくさを終わらさせるためには……。」
大将の首を取るしかない。




