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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
33/91

終わりか始まりか

 その一本道は、なんの変化もない。

 不気味な壁と床が蠢くだけの曲がり道だけが果ても見えずに続いている。


 足並みを揃えて進み、どのくらいの時間が経過しただろうか。

 輪廻やリーリエは既に疲労が浮かんでいるし、他の者らも足取りが重くなっている。


 なにも無い。そう、なにも無いのだ。

 新たな発見もなく、それどころか星喰獣すら現れず無為な時間が経過し続けている。


 右に曲がり、次は左。

 左、右、右、左、右、右、左、右左左……


 体内感覚の方角は既に狂っている。

 もはや、入り口からどのくらい離れているのかもわからない。

 一本道の迷路に、彼らは迷い込んでいた。


「……………………」

 だが、誰も言葉を発しない。

 泣き言や愚痴も、提案すらない。

 ただ進む以外の選択肢がない以上、無言で進むしか許されない。

 



 変化のない時間というのは、人の精神を容易に削る。

 ただでさえ敵地に侵入しているのだ、警戒を怠るわけにもいかない。

 だから、彼らは簡潔に言えば油断をしていた。

 無意識のうちに警戒は緩み、前を見ている目は真実どこも見てはいなかった。


「――え?」

 ぐちゃりと、なにかが潰れる音がした。

 いつの間にか低くなっていた天井に張り付いた影が、ゆらりと動く。


「しまっ――」

 星喰獣。

 今までより一回り小柄なそれは、そうであるが故にか予想以上の速度で英雄たちへと飛び掛る。


 その数、視認できるだけで八体。

 それだけの数が、全員の警戒を抜けてきたという事実が、人間の反応を鈍らせる。

 結果、彼らが反応できたのは星喰獣が眼前に迫ってからだった。

 

「ッ!」

 咄嗟に受けの姿勢を取った彼方だが、その防御は無駄に終わる。

 彼方と星喰獣の間に、見覚えのある魔道防壁が割り込んだ。


「く、うぅ……!」

 リーリエが咄嗟に展開した魔術は、彼方を守る為に展開されていた。

 故に、別の個体の接近に気づくことができても、リーリエにそれを止める手段はない。


「らァッ!」

 横合いからリーリエを襲う個体を、彼方が急接近して蹴り飛ばす。

 それはとっさの一撃でしかなかったが、拍子抜けなほどに星喰獣は脆くそれだけで命を失った。

 ふぅ、と息を吐き彼方が周囲を見渡すと、他の個体も各々が撃退している。

 


 警戒を緩めず、数瞬の時間が経過した。

 増援の姿がないのを確認して、英雄たちは再び前へと進む。


「まだ、その悪癖は治らずか」

「……はい」

 エクレールの詰問に、リーリエは申し訳なさそうに目を伏せる。

 既にリーリエ自身も自覚はしているのだろうが、周囲の想像以上に根は深い。


 衝動的に誰かを守る悪癖。

 先ほどもそうだ。彼方を咄嗟に守ったまではいい。

 その結果己を危険に晒し、彼方に救われていては本末転倒だという話。

 自分自身の命を投げ捨てるような発作は、この最前線においては致命的な存在だった。


「体が、勝手に動くのです。危険を見過ごせない、見過ごしてはいけないと」

 震える言葉と体が、リーリエの心までもを揺さぶっている。

 彼女とてただの人間だ。別に己が死にたいと思っているわけではない。

 

 死の恐怖は常人以上に抱いている。

 それを易々と乗り越えてしまうほどに、彼女は人が傷つくということが許せないだけだ。


 それは確かに美点でもあるのだろう。

 だが、リーリエのそれはあまりにも異常で病的だ。


「過去に、なにかあったのか?」

 だから、彼方は当然のようにそう問いかける。

 過去にトラウマのような出来事があって価値観が変貌するというのは、よくある話だ。


「いいえ」

 しかし、リーリエはそんな普遍的な出来事などなかったと否定した。


「生まれつき、そうなんです。誰かが傷つくことに耐えられない。誰かが苦しんでいると、私の胸が張り裂けそうになる。だから、守りたくなってしまう」

 己の身を投げ出してでも。

 

「何事も、過ぎれば悪か」

 薬も過ぎれば毒となる。

 リーリエの病はその典型例だ。


「なにより厄介なのは、その病が伝染しているということだ」

 じろりと、エクレールは彼方を睨みつける。


「……なんだよ」

「誤魔化すな。無理な駆動で足首を痛めただろう。歩行困難になっていてもおかしくないんだぞ」

 注意してみれば、彼方は右足を庇うように歩いていた。

 誰かを守る。己が傷ついてでも。

 少なくとも彼方は、この世界に来るまではこんな感情など抱いてはいなかった。


「馬鹿が馬鹿やってるだけじゃない」

「怪我を見せなさい、治療するから」

「……難儀なものだな」

 彼方以外には伝染していないようで、周りからはそんな自分勝手な言葉が飛んでくる。

 玻璃だけが辛うじて、生き難い人生を歩む者への同情を口にしていた。




『――――――』

 彼方の足の応急処置を終え、更に歩き出して数刻。

 エクレールの耳に届いたのは、西部侵攻部隊からの報告だった。


 曰く、巣の内部に謎の空間を発見とのこと。


 続き、南部、東部からも同様の報告。

 受け答えをするエクレールだったが、急にその声に動揺が混じる。


 急激に道幅が広がり、変化なき道に変化が生じたのだ。

 奥は変わらず暗闇で見えないが、左右の壁も闇に飲み込まれて見えなくなった。


「――こちら北部侵攻部隊。同様のものと見られる空間を発見」

 図ったかのように、同じタイミングで現れた謎の空間。


 それはこの侵攻の終わりを意味するのか、それとも――

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