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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
32/91

進入開始

 滞りなく、作戦は進行していた。

 どこまでも順調に、どこまでも想定通りに。


「本日より、巣内部への侵攻を開始する」

 エクレールが伝えた内容にも、動揺するものはいない。


 皆覚悟は済ませている。

 いい意味で緊張を保ち、周囲には張り詰めた空気が広がっていた。


「突入部隊はカナタ、ハリ、リンネ、リーリエ、クリミア、そして私の六名。その他は戦線の維持に努めよ。被害を最小限に抑えることを最優先に考え、必要とあらば第三防衛戦までの後退は許可する」

「はっ!」

 誰も異論など挟むはずがない。


 ついに始まる、星喰獣への侵攻戦。

 その意味を噛みしめて、兵士たちは主をじっと見据えていた。




「今更とはいえ、可愛げのない奴らだ」

 エクレールは己の部下と目の前の英雄を見比べ、苦笑いを浮かべる。

 作戦開始まで幾許かの猶予も無いというのに、彼らの様子は普段となんら変わりがない。

 変に緊張しているよりは万倍マシとはいえ、あたりまえであるからこそ、その様子は異様とも取れる。


「例外は、一人だけか」

「な、なんですか。適度な緊張になにか問題が?」

 どう見ても適度どころではないリーリエの様子に、エクレールはクツクツと笑いを零す。

 周りが自然体で待機しているだけに、より強調されて可愛らしく映ってしまっていた。


「では、ただいまより作戦行動に移る。目的は巣の破壊。それが不可能ならば、内部の調査だ」

 ゴホンと一度大きく咳をして、エクレールはその場の英雄たちへ任務内容を説明する。

 

「内部状況は一切不明。中でなにが起こっていても対応できるよう、心構えだけはしておくように」

 無論、こんなことは今さら言うまでもないことだ。

 儀礼的な、一種のお約束としてエクレールは口を動かしているにすぎない。


「では、行動開始!」

 だが、皆全て戦う者であることに変わりはない。

 スイッチを切り替えたかのように、一糸乱れぬ動きで六人は巣への侵攻を開始した。




「――暗いな」

 懐から照明用の魔道具を取り出し、エクレールは呟く。

 内部へと足を踏み入れた瞬間、彼らを待っていたのは純粋な闇だった。

 光源がなければ床と壁の区別もつかないような、完全なる闇。


 エクレールは取り出した魔道具に魔力を込めると、そのまま空へと放り投げる。

 それは手を離れたところで浮遊し、眩い光を放ち始めた。


「魔力を込め過ぎですよ、今度は光で前が見えないじゃないですか……」

 相変わらず雑なんだからと、急激な光度の変化に瞳を閉じたリーリエがぼやく。

 

 しばらく時間が立つと、徐々に目が慣れてきたのかぼんやりと周囲の様子が把握できるようになった。

 円を描くような陣形を取り、皆は周囲を警戒する。


 その光景は、誰も想像していない未知のものだった。


 床も壁も、生き物のように蠢いている。

 一部ではゆっくりと壁が動き、通路が再形成されていた。

 

 一本道を滅茶苦茶に継ぎ接ぎして作られたかのような巣の内部は、単純明快にして複雑怪奇な迷宮と化している。

 侵入者を拒んでいるようにも、餌を招き入れているようにも見える景色に、リーリエは気圧される。


「これ、は――」

 自然と、リーリエの体が後退する。

 それは生物の本能が示す拒否反応。

 存在していてはいけない魔の要塞に、理性が振り切れそうな錯覚に陥ろうとしている。


「進むぞ」

「ヤー」

 しかし、この場の英雄は理性などとうに蒸発している。

 嫌悪感も拒否反応も意志の一つで押さえ込み、迷うことなく足を前へ進めた。


「行くぞ、リーリエ」

 そんなエクレールの声に後押しされるように、リーリエは皆の後方を付いていく。

 動き続ける壁に寸断されぬよう、一つの塊となって索敵を開始していた。

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