表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
異世界戦争
31/91

幕間 日常と化した非日常

「あー、疲れた」

 戦場には不似合いな、気怠げな声が砲撃音に混じって溶ける。


「ノルマは終わったし、一足先に失礼するわね」

「いつもの机に薬があるから、寝るのなら飲んでおきなさい」

「ハイハイ、わかりました」

 どこまでも軽い会話だが、場所が戦場の最前線というだけでその風景は薄ら寒いものへと変貌する。

 もし普通の感性を持った人間がその光景を見ていれば、どんな地獄よりも恐ろしく見えるだろう。


 幸いと言うべきか、この場の人間は皆どこかがずれていた。

 誰も二人の会話に口を挟まず、その少女――聖辺輪廻は戦場を後にする。


「……いいんですか?」

 ここではまだマトモ寄りの人間であるリーリエが、そんな当たり前の疑問を口にする。

 個人の我が儘で敵前逃亡など、普通は考えられないだろう。

 掃除をサボった不良生徒に対するような反応のあたり、リーリエ自身も普通とは言い難いが。


「結果を出している人間に、これ以上働けともいえんだろう」

 病の事もあるのだからなと、玻璃は頭を押さえてため息をつく。


 理解はできるが納得はしていないという顔だ。

 厳格な玻璃にとって輪廻は頭痛の種であり、同時に頼れる相方でもあった。

 もう少し真面目ならと、悩まずにはいられないのだろう。


「あいつは八十の力で百二十の結果を出す女だ。ならそれで良しとしなくちゃな」

 目の前の星喰獣を拳で殴り抜き、彼方もその意見に同調する。

 

「では私も失礼。本業に戻らせて頂きます」

 芝居がかった仕草で、クリミアも戦場から離脱する。

 与えられた仕事を終えて、本業である医者としての仕事を行うために。


 輪廻とクリミアは世界の行く末になど端から興味がない。

 輪廻は己の病を治療するため。

 クリミアは、初めて目の当たりにした自分の力で治せない病を治すため。

 病の治癒という個人の願望のために手を貸しているに過ぎないのだ。


「誰も彼も、総じて軽い……!」

「ここが戦場であると、わかっているのでしょうか……」

 世界を救うために戦っている真面目な二人は、その光景に思い悩む。

 世界のために動く者と己のために動く者の理念は、言うまでもなく水と油だ。

 今は利益の一致で共闘しているに過ぎないのだと、改めて実感させられる。


「もう少し気楽に考えろ。わからないものはわからないでいいんだよ」

 だから唯一中間に立つ彼方が、その溝を埋めるべく口を挟む。

 

 理解できないものを無理に理解しようとすると、待っているのは一足早い崩壊だ。

 この戦争が終わるまでは、戦力の確保を最優先。

 それが彼方の考えであり、その程度の認識で構わないというのは一種の諦めでもある。


「それでは駄目だ」

「それじゃ駄目です」

 だから、当然堅物二名には受け入れられない。

 零か壱しか存在しないのかと疑うほどの主張に、彼方は内心で愚痴を零す。

 

 彼方自身も、自分がこの手の説得に向いているなどとは思っていない。

 だが周囲を見れば自分以上の問題児しかいないのだから、必然的にその役目を負わなくてはならないのだと頭を悩ませているのだ。


 それは彼方が幾分柔らかくなった証でもある。

 今までの彼方ならそんなことはどうでもいいと突き放し、戦地に身を投じていたことだろう。

 リーリエたちとの交流によって、彼方の心には新たな思いが生まれ始めていた。


 エクレールあたりから見れば、彼方自身も負けず劣らずの問題児だと言われるだろうが。

 少なくとも己の血で他者の血を洗っていた以前よりは改善されている。

 そう、皆は認識するだろう。




 そんな雑談を繰り返しながらも、油断だけは欠片もしない。

 行く手を阻む星喰獣を蹴散らしながら、死体の山を踏み越えて。

 確実に一歩ずつ、彼らは前へと進んでいく。


 目指すは巣の入り口。

 この調子でなら、あと数日で巣の内部へとたどり着くだろう。


 そしてその時こそが決戦の合図だ。

 この退屈な流れ作業も終わり、本当の戦いが幕を開ける。


 そしてその瞬間は、刻一刻と近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ