29話 包囲
俺と獣はにらみあってる。
目を逸らしたら負けだ。
一瞬で食い殺される。
低い唸り声があちらこちらから響いてきた。
いつその声が真横から聞こえてくるかと神経が張りつめていく。
臨界点は近い。
唸り声のボリュームがあがる。
俺も負けずに唸る。唸ったのなんて記憶にあるかぎり初めてだ。効果は不明だがやれることはやろう。
逆効果だった。
獣のボルテージが跳ね上がる。
包囲網が不定形に狭まり始めた。
よし、もうやけだ!やるしかない!
逃げよう。
浮き輪に掴まっておもいっきり飛べばなんとかなる!…といいなぁ
まず隙を作らねば。
そうだ唸りに唸り返すのがよくない。
笑おう。笑顔だ。スマイルだ!
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ…」
風切り音と共に何かが頬を掠めた。頬から血がしたたる。
後ろからまた!
俺はとっさに首を左に振った。特に根拠はない。
俺の頭のあった場所を抜けていったのは燕。
軒下で巣なんか作るあの燕だ。なんかドリルみたいな動きしてたけど。
あれ頭に穴があくやつじゃね?
よく見れば上に下に群がる動物は
哺乳類だけじゃない。鳥も羽ばたいたりぶら下がったりしている。
きっとこのホームセンターにいたペットだけじゃない。
近隣の動物も集まっているのだ。
まぁ俺は死ぬな。間違いなく。
なんとか二人を逃がすことは出来ないものか?
さっき笑うじゃなく逃げろと叫ぶべきだった。
アホなのか俺?
もう騒ぐだけ騒いで一匹でも二匹でも道連れに…
ズドン!
天井に衝撃が走った。
「キャァァァァァ!」
コハルちゃんの悲鳴、上の二人も襲われている!
何をやってんだ俺は!
上で襲撃がはじまったのを皮切りに
回りの獣達が襲いかかってきた。
小型犬とおぼしき(犬種はわからん。だって毛が生えてない。)
生き物達が襲いかかっできた。
華麗に反撃なんか出来ない、必死に腕を振り回す。
一匹は払いのけたが、左腕に一匹、右足一匹食らいつかれる。
そしてあっさりどちらの肉も食いちぎられた。
「はぁ?」
呆気ない。嘘だろ?大量の血が吹き出しこぼれ出す。
あっさり俺の意識は混濁一歩手前になり両ヒザを着いた。
まずい気をはらないと…
そこに鳥達が襲いかかってきた。
目に肩に首に何羽もの鳥達が群がり嘴をつきいれる。
再び犬達も俺の手足に群がり始めた。
なんで俺意識あるんだ…奇跡のような残酷な時間がゆっくり進む。体感一時間ほどなほどだ。
怒りとかは無い。悲しいとかもない。
ただ悔しい…少しの時間だけど一緒に過ごし俺を助けてくれた少女達を助けることも出来ない…
悔しい…悔しいよ…悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい…
そしてようやく怒りが生まれた。
俺は俺を許せない…
そして悲しくて泣いた。
もう左目しかない…でも涙は両の目から流れた。
彼女達を守りたい
ふと何かが俺の肩に触れた。
肩ごと食いちぎられたのかと思ったが違った。
俺の真横?いや、その影は俺の後ろから前に回り込む様にそこにあった。
黒い狼。時折俺の体にその体毛が触れるくらい近くを一周して
その獣は俺を囲むように座り込んだ。
獣と目が合う。
まぁ、しかたないな…そんな溜息混じりの顔でそいつは俺を見たのだった。
だいぶ行きたい方向に舵をきれました。




