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婿嫌いの竜公女は 酸いも甘いも嚙み分ける  作者: 藤 慶


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第8話 赦されざる嵐-1


結納の朝、博多から多々良とたくみが駆け付け、正午に地鎮開始の儀を行い、氏神を鎮める宮司が言祝ぎを、と僕の父が述べた。


「畏み畏みも白す。

この地に坐すもの、見えざるもの、七つの山に霊力満ちて志に根差すものよ。


人と獣が混じりて荒ぶる霊力、鎮まりて、穢れは祓われ、清き理をもって、大いなる恵みと、安らぎ座を定めん。


我らここに七つの山に祠を奉じて、人と獣を解放せん。言祝ぎは巡りて、誓いの通り理を結ぶ。


——ここに、7人7獣の解放し、神の化身と奉れば、この山々の民、獣まで永遠にそれを奉り定む」



まぁ、つまりは、この里を囲む7つの霊山に囚われた者を救い出した暁には。

それを神として、みんなで崇める事を約束する。

だから、豊作と家内安全を願いますと言う内容だった。



そして、夕刻から、僕達の家では、里長が僕側の仲人で。

きずな側の仲人が、何と多々良だった。


そう言えば、氷室は親代わりなので、あくまで父親で参加である。


「簾、きずなから聞いた。手鏡を返したんだってな」

「多々良のお陰だよ。教えてくれてありがとう」


「ばぁかっ。それで、お前が諦めんだと思っただけさ。 自分に嫌気がさして、さっさと諦めちまえって思ったのによ。 お前、ちゃんと、きずなの心、もってきやがって」


「え?」


「きずなが、仲人が俺が良いって頼んで来やがったんだ。 自分にお前を引き合わせたのは、昔も今も、俺だったってよ……。 たく、憎いぜ、あいつは」


多々良は苦笑いで、遠くに居るきずなを見つめてそう零した。

憎いと思う感情は、相手が自分のして欲しいと思う事をしてくれない時だ。

多々良は、きずなに何をして欲しかったのだろうか?

そうは、口が裂けても尋ねられなかった。



「このたびはご縁を賜り、誠に喜ばしく存じます。ささやかではございますが、結納の品をお納め申し上げます。幾久しくお納めくださいますよう」


婿を望むきずな側の代表である氷室の口上の元、急ごしらえとは思えぬ今まで見た事もないような結納の品がならんでいたが、きずなの参列者は氷室と息子のたくみと多々良のみだった。


「私は両親も、姉弟もおりませんので、親戚筋は数少ないですが、どうぞ、此度のご縁で良しなにしていただきたくお願い申し上げます」


きずなはそう言って、僕達の一族に深々と頭を下げた。


家族はみなきずなが外戚とは言え、家族になる事を喜ぶ半面緊張していた。


「嫌だわ、まさか、本当に、お姫様が義理の妹になるなんて、夢みたいね。おめでとう、簾」

「お前さん、良かったな」


姉と義兄に祝って貰い、その後は、皆で酒と食事を摂って夜を明かし、翌朝、たくみと多々良は帰って行った。


結局、僕はたくみと結納の時に一言二言挨拶を交わしただけで、何も話が弾まず仕舞いで、何か歓迎されていない雰囲気だったが、結局、何も出来ず仕舞いだった。



季節はすっかり夏になっており、お盆前に祠を七つ納めるのは難しいと思い出していた。


そして、早速、一つ目の祠を奉納する際、事件は起こった。

きずなは最初の山は、息子の帰還を信じて、山に手を合わせる夫婦と出会った山が良いと言い。


それに従って、祠を建立したが、その際、建立に乗じて自分の力を流し込んだが故に、疲労で2日も寝込んでしまった。


と言うか、目を覚まさないから心配した。


「あぁ、息子さんは、帰って来た?」


眠りから目を覚ました第一声に、片時も離れず看病していた氷室が叱りつけた。

僕もずっと付き添いたがったが、家の事を最低限手伝わない訳には行かず、付きっ切りは氷室だけだった。


「阿呆。 無事に帰って来れてないのが、お前だ。 心配させおって」

「叔父様、うまい事言いますね」


きずなの減らず口の健在に苦笑いが零れて、僕もほっとした。



そんな調子で、次の山の祠の建立も、4日も寝込んだ。

無事に戻って来たのは良いが、これでは、危険だ。

そう思っていると、2回目の建立後に目を覚ましたきずなが言った。


「若干、力不足で、霊力の消耗が激しいの。 後、霊力の量にバラつきがあって、最初の山は中くらいで、今回の山は中の上かな」


後、5つ山が残って居ると言うのに。


「取り敢えず、そろそろ、お盆だから、次の山を終わらせて、一度私、博多に戻るね。残りはお盆の後で宜しくて?」

「勿論だ。 無理をさせて済まない」


体力を損ないながらも、張り切るきずなに僕は胸が痛んだ。


「いいえ、私がやるって決めたの。 やり切るって決めたんだから。 絶対やるの」

「馬鹿者、お前、自分の身の程を知って事に臨め。無理を通り越して、無茶になっている!! もう、後は盆過ぎだ!!」


氷室の怒りの雷を盾にして、きずなは盆前に3つ目の地鎮を断念して、早めに博多に帰る事を了承をした。


二つの山で解放された子供を得た家は、きずなに感謝していた。

地鎮を終えた山は、恵みに満ちて、自然薯やキノコが沢山得られて、里の者が目を見張った。


肝心の柑橘を育てる僕の姉の囚われた山は、最後だときずなは言っていた。


山を攻略する順番は、目測で霊力が少ない山から順に行うと言っていたが、二つ目の山が目測以上に強力だった事に僕は一抹の不安を覚えてたいた。


全部の山を封じるまで、きずなの体力が持つか心配だった為だ。


閑散とした潰れかけの里の神社とは言え、お盆の用事はまあまぁ忙しく、仏事はないが祭事があった。


盆は、神を祀って、祭りを開く。


例年は、乏しい飾りと申し訳程度の集まりで祭事を済ましていたが、きずなの働きかけで、里には恵みと蓄えが出来、みな一様に明るい顔で、神社に参拝に来た。


今年は、姉夫婦も家業を手伝って、いつもより立派な飾りつけに、獣の皮や雉の羽根を売って得た銭でもち米と小豆と砂糖を贖い、おはぎを振舞う事も出来た。


「おはぎなんて、いつ振りかしら」

「そう言えば、結納で母様が振舞った茶碗蒸し美味しかったわね」


「えぇ。お父さんとの婚儀の時に、私の母様が拵えてくれたのよ。かりんの婚儀の時は作れなかったけど。 昆布もあご(飛び魚の干物:いりこの様に出汁にする)も、氷室様が下さった食料の中にあって、やっと作る事が叶ったわ」


「良いのよ。私の婚儀で出して貰っても、みずなに食べさせてあげられなかった。本当に幸せだわ」


お盆を終えて数日の内、きずなは氷室を連れて里に戻って来た。

また馬に荷物を引かせて、人足を連れて来たが、その中に身なりの良い一人の若者を連れて来ていた。


「助っ人連れてまいりましたわ」

「お初にお目にかかります、僕は、楓 護と申します。縁あって、ここに同行させていただきました」


白い肌をした、美しい青年で、きずなや僕の様に、神職に仕える袴姿だった。


「きずな様の神力の加勢をさせていただきます」

「はあ……、それは、わが里の為に、遠路はるばるよくぞ起こしいただきました」


「ところで、神木の姫と結納を交わされたと聞いておりますが、貴方様が婿殿でしょうか?」


「はい、申し遅れました。この里の神社の次男、柚木崎 簾と申します」


早速、翌日、三つ目の山に奉納に向かい、今度はきずなと共に楓と言う名の青年が共に祠を建立すると、きずなは初めて倒れる事無く、奉納をやり切って、囚われの子を救い出した。


「神木 絆。 奉納で君の力が持たぬのは僕が補えるが、祠自体の素養までは無理だよ。 恐らく、材料が足らなくなる。否、不足があれば納め切れんかも知れん。 その時は、追加で予備を使う必要がある」


「楓様、私がもう7つ使ってしまって、残りの鱗は1つです。 それは出来ません」


「でも、挫折しては本末転倒だろう。 君は一度やると決めて、7つ使うんだ。 それで、駄目なら、覚悟すべきだ。 君の一世一代を甘く見るんじゃない。 中途半端は駄目だ」


楓と言う青年に窘められて、きずなは表情を曇らせて俯いていた。




夜、僕が一人で部屋に居ると、夢渡りできずなが部屋にやって来て驚いた。


「え、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、ありません。 簾様、私、今更、迷っておりますの」

「え、何を迷っているの?」


僕が尋ねると、きずなは祠を作った時に贖った、必要不可欠な大事な材料の話を始めた。

神木の娘は、龍の血を引く一族で。

神の力を宿した道具、神木を作る事が出来、それを完成出来たものは、神木の当主の誉れを得られる。

先代の当主の称号を得られたのは3世代前の神木の娘で、600年振りに拝命出来、素晴らしい作品を世に残したときずなは語った。


その名も『六封じ』



「先代の当主様は、それまでどこの藩の指図も受けず、独立した立場で博多の街道の一体を納めていたのですが、世の習いで、どこかしらの藩に属させねば、戦になる状況下で、藩命を受けて軍門に下るように説得に来たお武家様と話し合って、武家様と婚姻を結んで表向きは、軍門に下るが、神木の立場を守るとお約束していただき、私のいる場所が皆々、健やかに暮らせるように、神木をお作りになられたのです」


絶えず、あやかしが跋扈し人を狂わせる、霊力が流れ出す霊地を6本の松で封じて、その中に充満する霊力を、神木の先祖である龍が喰らって安寧をもたらしているのだときずなは言った。


「ここも、7つの山の霊力を、7つの神木で封じて、ここに安寧をもたらす。その見返りに、婿をいただく。それで、お話は付いて、安堵していたのも、束の間、困った事になりました」


「きずな、ちょっと、僕は、前から君に聞きたかったんだけど。僕は、里を救って貰う対価に足る存在なのかな。 価値はあるのかな?って」


気弱に話す僕に、きずなは目を丸くして言った。


「何をおっしゃるんです。 私の名を呼べる、神社の宮司のご子息なんて稀れですわ。 願ったりかなったりで、楓様もお喜びでしたもの」


ん?

そう言えば、最初の最初から気になっていたけど。


「きずな。もしかして、楓様って、ものすごく偉い人なの? 高貴な……方?」

「ええ、今生で楓様より、偉くて高貴な方は、存じませぬ。 あぁ、こんな事をもうしては、ご先祖様に叱られますわ。 ご先祖様と同じ位ですわ」


龍と同等に偉くて高貴な人か……。

もう、神様じゃないか? それは。

でも、普通の人間、だよね?

ご飯も食べてたし。



楓と言う青年を伴って、祠の建立は急ピッチで進み、残す所、僕の家族が囚われる柑橘の山だけになった。


「きずな、最後の祠は、今のままでは、駄目だ。見ただけで分かるだろう? 今の材料では、砕け散るのが関の山だ」


楓は、明日、最後の建立をするきずなにそう助言をした。


「覚悟は出来ております。これより⋯⋯祠に補強を施します。 わたくし、覚悟は出来ました」


そう言って、準備を終えて、社殿に納めていた祠の元へ行き、のみを使って祠の正面を抉り出した。


「どうするの?」


「簾様。 驚かないでください。コレて良いのです」


きずなは祠の正面を削って掌より少し小さな窪みを作った場所に、懐からきずなが母の形見だと言っていた手鏡を裏にして押し当てた。


「きずなっ、何をするんだ。 それは、君の母様の形見じゃないか」


「良いのです。私の一世一代に、私の母も加えて、共に完成させるんです。そうしたら、私が死んでも、母さんと一緒に成したこの奇跡は、ここに遺るから」


そう言って、きずなは手鏡を祠に施して、晴れがましい表情で語った。


「鏡は常世と現を繋ぐ依代、それを裏鏡にして、手鏡の裏に施した桔梗の細工で、陰陽と吉兆を整える。これで、龍の鱗の変わりになりましょう」


楓は、それを聞いて感嘆の声を上げた。



7つの山に、7人の神隠し。

きずなは、それぞれの山の頂に祠を建立し、囚われの稚児を助け出して来た。


「今夜は、お二人にも同行していただきます。 この山の子には、下見の時、ご両親を連れて迎えに来ると約束しておりました」


「本当に、ありがとうございます。私どもの不注意と配慮のなさで娘に、ちゃちゃに30年も辛い思いをさせてしまい、親としてどれだけ不甲斐ないか」


「あの子に、息子が居なくなった事の責任を押し付け、責めた事をずっと悔やんでまいりました」


両親は、口々に贖罪の言葉を漏らした。


「それは、ご本人に直接お伝えください。 一つ、お二人に、私から個人的なお願いを宜しいですか?」


きずなは、僕の両親を諭すように言葉を続けた。


「今まで助け出したどのお子様達も、誰一人、山に囚われ人柱になった事を恨んでいる方はいらっしゃいませんでした。山に囚われている間は、夢の中にいるようなものでございます。当時の感情はそのままですが、長い時間苦しんでいた訳ではございません。 ですから、あまり思い悩まれず、お子さんへの正直な気持ちで向き合ってあげてください。 少し、いじけていらっしゃいましたが、優しいお嬢さんでした」


両親はきずなの言葉に、涙が溢れて言葉に出来ず、何度も俯いていた。


きずなと氷室と楓。

ぼくと僕の両親と姉で、最後の山の地鎮に向かった。


「きずな。何度も言うけど、僕が出来るのは君自身の素養の底上げだけだ。祠が組み立てる神力には干渉出来ない。 封じ切らない場合、祠自体が持たない場合もあり得るからね」


「はい、心して臨みます」


きずなは、楓の懸念をよそに、山のいただきに上がる光の柱に働きかけて、見事祠を封じ切った。


「お父様、お母様……。つかさは、元気?」


「あぁ、元気だよ。お前より、つかさが大事だと、言って……本当に済まなかった」

「ちゃちゃが大事じゃない訳は、ない。 だって、私が一番最初に、産んだ、大事な、大事な……子だもの。 ごめんなさい。 怒ってごめんなさい。 つかさが大事だって、貴方を責めて、ごめんなさい」




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